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第二十四話

「昨日はバタバタしていて決めてなかった委員会を決めていきまーす。」


担任の声と筆記音が静かな教室に鳴り響く。

「とりあえず学級委員を決めるけど立候補者いる?」


黒板に委員会と係そして担当人数を書き終わったらしい担任が振り向き全体に問いかけるが俺含めクラスの全員手を挙げるものはいなかった。それどころかあからさまに目を逸らすものもいる始末。まぁやりたいやつはそうそういないよなぁ。

「ホントにいない?嘘でしょ今どきの子ってこんな感じなの?」

さして自分も年齢は離れていないだろうに一人オーバーなリアクションをとっているのは少し面白い。

「他薦でもいいんだけど嫌がらせでなる人が出ても嫌だしなぁ。本当にいないんだよね?」

そういって再びこちらを向いてくる。相変わらず名乗り出るものはおらず静かなままだった。しかし他薦はなしとしてくれるのはありがたい。推薦されたら嫌というのはもちろんだが自分が推薦されなくても空気が悪くなるのはあまり好きではないから。


「よしじゃあくじ引きにしましょうか。」

そういって担任がおもむろにスマホを取り出した。多分紙で作るのは時間がかかるからくじ引きアプリで決めようとしているのだろう。実際ここまでに二十分くらいかかってるし。クラスの中には若干名不満そうにしている生徒もいるようだがそこはもう仕方がないだろう。かくいう俺も学級委員には絶対になりたくない派である。めんどくさそうだというのもあるがそれ以上に人をまとめるのは向いてないだろうなと感じるからだ。大丈夫クラスには四十人もいるんだ、そうそう俺が当たることなんて__


「んふっ……あはははっ!」

「翠いつまで笑ってんだよ。」

「だって楓がさっ……ふふっ」


「__くじ引きの結果このクラスの学級委員は天宮と柊になりました。みんな拍手〜」

担任の言葉に続いて教室内で拍手が鳴り響いた。

「嘘だ……」

「そろそろ現実を受け止めなよ。よろしくね楓」

密かに絶望していた俺に雪璃が追い打ちをかけてくる。逆になんでこいつはこんなに落ち着いていられるんだよ。

「じゃあ学級委員も決まったことだしあとの委員会とか係も決めてくよ。あっ学級委員の二人は放課後は教室に残っといてね」


_______________________________________________________________


「で?この大量の書類ってわけだ」

そういって翠が机の上に置かれている書類を指さした。

「なんでも明日の入学式の書類らしいよ。先生達は他の準備で忙しいからこの書類をまとめるのが僕達にまわってきたみたい。」

今まで黙々と作業を続けていた雪璃がそう説明する。学級委員としての初仕事はこの大量の資料を印刷ミスがないか確認したあとにまとめてホッチキスで止めるといった単純な作業だった。

「というか翠は別に先に帰っててもよかったのに」

雪璃が翠に目を向けてそう呟いた。

「いや流石に手伝うわ。これ二人でやる量じゃないだろ」

翠がすかさずそういった。確かに翠が手伝ってくれるのは助かるし嬉しいのだが……

「でも……」

申し訳ないと思っているのかなかなか雪璃は譲らない。時刻はもう十八時を指しており窓の外は若干薄暗くなっていた。今日が七限まであったとはいえもうかれこれ一時間はやっているのに書類が全く減る気がしない。雪璃も雪璃で変に責任感が強いからか話は進まず平行線である。

「いいから遠慮すんなって。……それとも雪璃はオレが帰ったほうが嬉しいのか?」

翠がわざとしょんぼりしたような顔で雪璃の顔をじっと見つめていた。

「うっ、別にそんなんじゃないけど……」

「はいはい仕事もらうぞ〜」

結局雪璃は翠に根負けし渋々書類引き渡した。珍しく雪璃が翠に押されている。その状況が新鮮で、おかしくて、笑ってしまった。

「……ふっ」

「ちょっと楓!なんで笑うのさ!」

雪璃が恥ずかしそうに怒って、

「なんか悪いもんでも食ったか?」

翠は本気で心配してるのかからかっているだけなのかわからない。

「なんでもない。」

思わず笑ってしまったけど先ほどのやりとりで翠の強引だけど優しい一面が見れてなぜかほんの少しだけ嬉しくなった。

_____________________________________


「ん〜思ったより早く終わってよかったー」

俺達は仕事を無事に終え帰路についていた。あのやりとりのあとは翠が部数ごとに並べてくれたり印刷ミスがあるプリントを避けてくれたりしてくれたためわりとスムーズ進んだ。本当に早く終わることができたので助かった。

「そうだな。翠が手伝ってくれたおかげで」

「楓がオレに素直に感謝している……!?」

目を見開いて驚いた様子の翠がこちらを見てくる。常々感じるがこいつは俺のことをなんだと思っているんだろう。さすがに失礼すぎやしないだろうか。せっかく感謝しているのに。

「こら翠、楓をからかわない。」

「へーい。」

そう雪璃にたしなめられた翠がまるで叱られた子供みたいに口を尖らせながら返事をした。なんだかさっきの二人とは形勢逆転したみたいだ。


「でも手伝ってくれてありがとね、翠」

「俺からもありがとう。すごく、助かった。」


俺達は改めてお礼を言った。しかし言ったあとにさっきみたくまた茶化されるかと思って身構えていたのに

「……ん」

なにもからかわれたりはしなかった、どころか一気に顔を赤くしてそっぽを向き小さい声で返事をするだけだった。俺が普段の翠との差に戸惑っていると雪璃がそっと耳打ちしてきた。

「翠はね、本当に褒められ慣れてないからさ感謝をストレートに伝えられるとめちゃくちゃ照れちゃうんだよ。ほら、あんな風に」

そう指差されて目を向けるとパーカーのフードで顔を隠してあーとかうーとか唸っている翠の姿があった。

なんだあれ。めちゃくちゃかわいいな。

「なんだか可愛くて笑っちゃうよねぇ」

雪璃がそんなことを言いながらくすくすと笑っていた。

「確かにそうだな。」

「二人ともちょっとうるせぇぞ!」

少し顔の火照りが引いた翠が反論してきた。まぁまだ耳は赤いままだけど。

「ごめんごめん。さ!帰ろ!」

雪璃が軽く謝って翠の背中をぽんと叩いた。


今日は本当にくじ引きで学級委員に選ばれてなったり初日から学級委員の仕事で放課後残って作業したりなどいろいろあった一日だったけど翠の新たな一面が見えて面白い一日でもあった。


「楓ー?置いてくよー!」

いつの間にか随分前を行っていた雪璃に呼ばれてしまった。

「おー」

そう軽く返事をした後俺は二人を追いかけた。






実はものすごく照れ屋な翠くんでした。

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