表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

第二十三話

 どうしてもモヤモヤする。さっきの自己紹介であそこまで言われておいて翠が何も言い返さなかった理由。実際俺が悪口を言われていたとしても悪目立ちすることを恐れて言い返すことはできないだろうと思う。でも翠は俺みたいに言い返すことで状況が悪化することを恐れているわけではなくだからといってあの場の空気を読もうなんて大人な対応しているようには思えなかった。もっとなんだかこう怒る気になれないようなあるいはどうせ言い返しても無駄だと諦めているようなそんな目をしていた。あの目は一体……


「おーい楓。帰ろうぜ」

俺が一人で考え込んでいると帰りの支度を済ませた翠が話しかけてきた。珍しい。違うクラスの翠がクラスに来るなんて……って同じクラスになったんだっけか。

「……ああ。」

「なんだよ、考え事か?にしては顔が暗いような……あ!」

翠がなにか思いついたのかこちらに目を向けては

「女に振られたんだな……かわいそうに。そんな楓くんにはこの翠様を可愛がる権利をあげてもいい……のよ?だわよ?あげてもいいかしら……?」

「語尾すら定まっていないのにかわい子ぶるんじゃねぇ!あと俺は振られていないし、そもそも告ってなんかいない!」

「でも可愛いだろ?」

それは否定できない。


さて茶番はこれくらいにして、と翠が手を叩いた。

「本当にどうしたんだよ?そんな考えこんでさ」

「いやさっきのことで……」

俺が説明しようとするとなにか察したのか翠が言葉遮って口をひらいた。


「あーあの陰口みたいなやつ?別に気にすんなって。そもそもこんな格好してたら良くも悪くも目立つし、オレの自己紹介が感じ悪かったのもいけねぇしな。」

だとしてももう少し怒ってもいいじゃないかという言葉が出てこようとしたのをぐっと飲みこむ。その言葉を感情のままに投げてしまうとなんだか翠を責めているみたいになると思ったからだ。


「それに__」

それに陰口を言われているくらいならまだマシだ、と小さな声で漏らした。

「それってどういう」

「はいっ!この話やめやめ!せっかく午前で終わりなんだから明るくいこうぜ!そういえばさっき雪璃と三人でファミレス行こうって話してたんだよな~」

それってどういうことだと聞こうとする前に話をすり替えられてしまった。多分これ以上深入りするのは無理だろう。あまり人の事情を無理やり聞くのもよくないしな。暗くなりすぎるのもやめよう。


「俺ファミレス行くなんてひと言も聞いてないぞ」

「そりゃあ言ってないしなぁ。」

こいつ……悪びれもせず開き直りやがった。

「楓も行くだろ?てか行こうぜ!」

「もうそれ俺に拒否権ないだろ」

「行かないのか?いいのか?もう雪璃が目を輝かせてドアの外で待ってるぞ。」

そういって翠が指した方向に目をやると本当に居た。ご主人の帰りを待つ犬のように尻尾振って待ってる雪璃の姿がそこにはあった。いや尻尾はないけど。あれを見てしまうと断るには相当な勇気がいる。

「行かせていただきます。」

「なんで敬語?まあいいか。雪璃~楓行けるってー。」

「えっほんと!?やったー!」

そういって雪璃がドアの外で喜んでいる。というか同じクラスなのにどうして教室の外にいるのだろう……

「じゃあ行こっ!二人とも!」

「はいよ。楓、準備できたか?」

「もう少し……よし終わったぞ」

「二人ともはやくー!」

廊下から大きな声で急かされる。なんというか


「元気すぎる……」

「まあ雪璃は昔からあんなだしなあ(笑)」

翠が呆れたように笑った。やはり昔からあんな感じなのか……って

「昔?」

「ん?あれ聞いてない?オレと雪璃って中学が一緒なんだよ。」

「へぇ、なんか納得。」

そもそも知り合ったばかりの俺にすぐ翠を紹介するくらいだしなぁ

「ありゃ、あまり驚いてくれないんだな」

「まぁ初めからすごい仲よさそうだったしな。」

「やっぱわかっちゃう?」

それに二人ともお互いと居るときいつも楽しそうだし。自然体ってやつなのだろうか。


「オレ的にはもう少しあのワンコを放置して観察していたいところなんだが、さすがに雪璃が拗ねるからな。」

拗ねるって子供か。雪璃ならありえそうだけど。

「行こうか、楓」

「だな。」

そうして俺たちは教室の戸締りをして雪璃のところへ向かった。


「あっ二人とも遅かったじゃん!なにか話してたの?」

「ん~内緒♡」

「なんか言い方がうざったいな……」

そう呟いて一瞬雪璃が顔ををしかめる。毒を吐く雪璃を見るのは新鮮だなぁとか考えているといつのまにか視線が俺に向けられていた。

「楓も秘密~?」

別に俺は話そうが話さないがどっちでもいいんだけどこのジト目をみるとなんとなくいじめたくなった。

「秘密。」

「えー秘密かぁでも楓が言うなら仕方ない……」

「おい俺にはうざったいとか言っといてそれはないだろ!?」

「だって翠は言い方が間延びしててわざとらしいし。」

「辛辣だなぁ。」

「まぁどうしても秘密というなら僕に大盛りポテトを奢ってくれるので手を打ちましょう。」

「え~別にいいけどさぁ~」

すごい物わかりがいいなと思ったのに奢らせるんかい。俺の感心を返してほしい。そうこうしてるうちにファミレスに着いた。


「ねぇ二人ともなに食べるー?」

雪璃がメニューを見ながら俺らに問いかけてくる。

「俺は和風ハンバーグにしようかな。」

「んじゃオレはカルボナーラにする~」

「ええ二人とも決めるの早くない!?えー僕はなににしよう……」

「別に焦らなくてもいいから。」

「なんか楓が僕に対していつもより優しい……」

なんだいつもよりってだいたいいつもはお前に振り回されるから気にかける暇がないだけで……

「どうしようかな~まずは大盛りポテトでしょ?このステーキ丼(特盛)もいいよね~あっあと春期限定ピスタチオ&苺パフェも……」

「待て待て待て!オレはそこまで奢るとは言ってないからな!?」

「その小さい体のどこに入るんだ……」

さすが食べ盛りの男子高校生といったところか。大盛りポテトにステーキ丼……糖質と炭水化物のオンパレードだな。とりあえず俺と翠で雪璃の暴走を止め、結局大盛りポテトは翠がステーキ丼とパフェは雪璃が代金を払うということで落ち着いた。(どうしても食べたかったらしい)


「よし!料理もきたことだし……クラス一緒でよかったね&楓留年回避おめでとう会を始めます!はいかんぱーい!」

「かんぱ〜い」

「失礼すぎるだろ。」

実際留年ギリギリだったけど。うちの学校の偏差値が高いのが悪い。

「まぁまぁいいじゃん!こうして三人同じクラスになれたんだからさ~」

「そーそー結果オーライだろ」

まぁ知り合いがいないクラスに放りだされるよりマシか……いやこの一年間二人に絡まれて目立ってしまうことを考えたらぼっちの方がマシかも。

「同じクラスだと体育祭で敵同士にならなくて済むしなにより文化祭!クラス企画ができるし!」

確かうちの高校はクラス企画ができるのは二年生からで一年生は校内の装飾だったから雪璃は余程クラス企画が楽しみらしい。

「お化け屋敷とかメイドカフェとかもやってたよなーメイドカフェの方は予算が高いだとか食品を扱うことも相まって許可とるの大変だったらしいけど」

「翠詳しいね!」

「あくまでも噂だけどな」

メイドね……翠はめちゃくちゃ似合うんだろうな。男の娘メイドってジャンルもあるくらいだし需要ありそう。

「でも直近だとあれだね!」

そういって雪璃が急に話を切り出した。

「委員会決め!」


なぜか楽しそうにしている雪璃の横で翠が一瞬だるそうな顔をしていたのを俺は見逃さなかった。













別に高校の偏差値はさほど高くない(50後半くらい)ので留年ギリギリなのは楓くんが単に勉強が苦手なだけです。

面白いと思った方はブックマーク・感想のコメント・拡散をよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ