小説を書け
仕事休みの週末。私が少し遅めの朝食を食べていると、チャイムが鳴ったので玄関のドアを開けると黒服の集団が玄関の前に立っていた。
「伊藤さんのお宅で間違いないでしょうか。」
目の前の男が私に警察手帳を突き出し、それを確認すると「ええ、間違いないです。私が伊藤ですけど…」と私は委縮した声でそう返す。何か悪いことをしてしまったのか、重大事件に巻き込まれたのかと思考回路をフルで回転したが思い当たる節は一つもなかった。
「あの一体どういったご用件で…」
「伊藤史郎。お前には今から小説を書いてもらう。」
「はい?」
男はそう言うと、「失礼。」と私を横切り、家に土足で上がりこむ。私は慌てて止めに入る。
「ちょっと、どういう意味です!?勝手に家に入らないでください!」
「この家に紙とぺん、もしくはパソコンはあるか?」
「え…!?いや、まぁそれくらいならありますけど…というかなんなんです。この状況!」
「さっき言った通りだ。今からお前に小説を書いてもらうんだ。」
「だから、それの意味が分からないんですけど!」
私が声を荒げながら、部屋を隅々まで調べ始める黒服達を止めに入るが、その腕は簡単に振り払われてしまう。
「こっちに原稿用紙と万年筆があります!」
「よしでかした!おい伊藤、早く座れ。お前には今から小説を書いてもらうんだ。」
「だから何を言っているんですか!こんなの国家権力の濫用じゃないですか!大体私は小説など書いたことないですし、何故書かなきゃいけないんですか!」
「伊藤!こっちには令状も出ているんだ。お前はこれから小説を書くほか選択肢はない。」
「理由を答えてください!こちらはたまの休日に警察官が家に押し入り、小説を書けって脅されてる状態なんですよ!」
「お前がそれを知る必要はない。さぁ、ここに座れ。おとなしく小説を書いてもらうぞ。」
男が強引に私を椅子に座らせ、万年筆を握らせる。目の前には20×20の原稿用紙、何が何だかわからないまま私は一行目の二段目に万年筆を置く。
「さぁ、どうした!書け!」
「そう簡単に言わないでください!何もアイデアが浮かんでこないんです。」
「そういうのはな、書いてる途中で構成してくもんだろ。とりあえず最初は当たり障りのないことを書いて物語を膨らませていくんだ。」
「私は最初にしっかりと構成を決めて、小説を書き始めたいんです!起承転結を大事にして、初めての小説は面白いものを作るんです!」
「あぁ、それなら大丈夫だ。この小説は駄作になる。」
「何故です!私が書き始める前からそんなことを言わないでください!」
男は少し嫌みったらしい顔を見せ、大きくため息をつくとこう言った。
「この小説はな、いわゆる練習用だ。起承転結はめちゃくちゃで、文章はぐちゃぐちゃ、地の文もほとんどない。」
オチもないしな、まぁ気楽に書けよ。男はそう続けると私の肩を叩いた。
思い付きで書きました。