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「顔に傷はついてない。アザは数日で消えると思うわ」
保健室の先生はちーちゃんの顔を見て言う。
私はちーちゃんに付き添って保健室に来ていた。
先生はしばらく居ていいと言ってベッドを貸してくれた。
私達は2人でベッドの上に座る。
目の前には窓があって、窓の外ではプランターに植えられたアサガオが風に揺れている。
「ちーちゃん、ごめんね。私のせいでビンタされちゃって」
「いいの。結菜が止めに来てくれてあたし、嬉しかった」
「ちーちゃん、何でギャルになっちゃったの?」
「あたし、自分のことが嫌い。すぐキレるし性格悪いから。男どもも嫌い。見てるだけで虫酸が走る。何もかもが嫌い」
「病んでるなー」
ちーちゃんは自暴自棄になって何かを変えたくなったんだと思った。
「でももうギャルはやめる。あんな奴らが寄ってくるのに耐えられない」
「私も、前のちーちゃんの方が好きだわ」
「好きでもないのに好きって言わないでよ」
「ちーちゃん……」
「ごめん。性格悪くって。カフェでの件もキレてごめん」
「気にしてないよ。私達、友達でしょ?」
「うん。友達……」
そう言うと、ちーちゃんは一呼吸置いて。
「ねえ」
「うん?」
私が尋ねた瞬間。
ちーちゃんの顔は私に近づき、私の唇にちーちゃんの柔らかい唇の感触が。
長いキスだった。
唇を伝って、ちーちゃんの想いが流れこんでくる気がした。
私はその想いの余韻に浸って動けなかった。先に唇を離したのはちーちゃんの方だった。
「ちーちゃん……」
「好きだよ、私の王子様」
私は少し考えて。
「わかった。私、ちーちゃんに本気で向き合うよ」
「嬉しい」
ちーちゃんは私の肩にそっと寄りかかった。
窓から見えるアサガオのつるのように、私達は手を絡めて繋いでいた。