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3

 次の日も、その次の日も、ちーちゃんは"ごめん"、"許して"ってラインを送ってきた。


 私は仕方なくちーちゃんを許した。


 鹿島先輩については、もともと私の片思いだし、私が振られたわけじゃない。



 私は2日ぶりにちーちゃんと一緒に帰って帰り道にカフェに行った。


「うふふ。やっぱ結菜と一緒にいると楽しい!」


 注文する間、ちーちゃんは私の腕にしがみついていた。


 調子いいな、と思ったけどスルーした。


「あのさ、また小説書いたんだけど読んでくれる?」


 席に着いて、私はちーちゃんに切り出す。学校では秘密にしているが私はBL小説を書いている。


 ネットに投稿することもあるが、ちーちゃんが読みたいと言うので、ちーちゃんだけには見せていた。


「え、うん、見る見る!」


「はい。短編ですぐに読めると思うから」


 私は鞄の中から印刷した原稿を取り出してちーちゃんに渡した。


「楽しみ!」と言ってちーちゃんは原稿を読み出す。


 数分後、ちーちゃんの表情が険しくなった。


「何、これ?」


「ちょっと趣向を変えてみたんだ」


「これ、百合じゃん。結菜はBLのはずでしょ?」


「いいじゃん、たまには。で、どう?感想は?」


「──がでる」


「え?」


「反吐が出る」


 ちーちゃんの悪態に私は体がこわばった。


「ひどーい。そこまで言わなくてもいいでしょ?」


「結菜に百合の何がわかるって言うの?」


「何、怒ってんの?」


「結菜は、女が女を好きになる気持ちなんてわかってない! そりゃそうだ、あんた男が好きだもんね!」


「ちょ、声大きいよ」


「がさつで野蛮でけがわらしくて、あたしのことエロい目で見てムラムラしてるような奴らが好きなんでしょう? そんなあんたに百合のなんたるかなんて語って欲しくない!」


「ちーちゃん……」


「あたし、帰る」


 ちーちゃんはそう言うと、そそくさと帰ってしまった。私は席から動けなかった。


 私にベタ惚れだったちーちゃんがキレて帰って行ったのはこれが初めてだった。


 私は何て送っていいか分からず、ラインを送れなかった。



 次の日、学校で教室がざわついた。


 ちーちゃんの格好が変わってたからだ。


 ちーちゃんの髪は明るい茶髪になり、濃い化粧をしてスカートはパンツが見えそうなほど短くなっていた。完全にギャル化している。


 私は昨日のことが気まずくて、ちーちゃんに話しかけずにいたが、ちーちゃんの方からも私に寄って来なかった。


 昼休み、ちーちゃんの変身を聞きつけたチャラそうな男子たちが私たちの教室に来た。


「神取さんいるー?」


 金髪のロン毛で学ランをはだけた男子とそれに続く茶髪の男子。


 彼らは躊躇なくちーちゃんの机に向かって行った。


「神取さーん。イメチェンしたの? 可愛いじゃん。今度、オレらと遊ぼうぜ」


 ちーちゃんに詰め寄る金髪ロン毛。


「えー。どうしよっかなー」


 ちーちゃんはまんざらでもないように断らない。男を誘惑するような素振りを見せる。


 でも私にはわかった。ちーちゃんはきっと自暴自棄になっている。ちーちゃんは男子が嫌いだ。それもチャラい男は歯牙にも掛けない。


 なのにちーちゃんは金髪ロン毛が言い寄ってくるのを笑顔で対応している。


 私はちーちゃんの表情を見逃さない。うまく隠しているが、告白される時のように、うざい。そう思っている表情だ。


 私は苛立って、つかつか金髪ロン毛の前に歩いて行った。


「ちょっと、ちーちゃん嫌がってるでしょ! やめなさいよ!」


 すると、金髪ロン毛は私を睨む。


「あ? 何だお前。神取さんは嫌がってなんかねぇだろうが。陰キャは黙ってろよ」


 そう言って、金髪ロン毛は私の肩を押した。


 力が強かったので私は思わず後ろの机にガチャンとぶつかってこけそうになった。


 次の瞬間。バシッと音が鳴った。


 見ると、ちーちゃんが金髪ロン毛をビンタしていた。


「あたしの大事な子に触んな!クズが!」


 ちーちゃんは声を張り上げた。


「あー? てめぇ、ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねえぞ!」


 バシッと、金髪ロン毛はちーちゃんにビンタをやり返した。


 ちーちゃんはキレて金髪ロン毛の胸ぐらをつかむが力では到底男には敵わない。


 まずい。ちーちゃんがぼこぼこにされる。


 そう思ったとき。


「お前ら!何してる!」


 廊下にいた体育教師が大声を上げて教室に入って来た。


 金髪ロン毛は取り押さえられ、職員室に連れていかれた。


 残ったちーちゃんは念の為に保健室に行くことになった。

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