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読んでいただきありがとうございます。

全4話ですので最後まで読んでいただけると嬉しいです。

「か、神取かんどりさん、好きです。付き合って下さ──」


「ごめんなさい。あたし、ほかに好きな人がいるから」


 ちーちゃんは、男子が言い終わる前にお断りの返事をする。


 放課後の屋上でよく行われる、いつものやりとりだ。私は入口のドアから隠れてそれを見守る。


 男子はまだ、おろおろとしていたが、ちーちゃんが促したのだろう。やがて男子はこちらに走ってきて、私の前を通り過ぎて階段を降りて行った。


 私は1人になったちーちゃんに駆け寄る。


「お疲れ様」


「ほんっと、疲れるわ。男ってなんでこんなに馬鹿ばっかなのかしら」


 ちーちゃんの毒舌が始まった。


「ちーちゃんは学園一の美少女なんだから仕方ないよ。本田くんだっけ?彼で何人目?」


「喋ったこともないようなモブキャラの名前なんて知らないけど、確か今月に入って10人目。毎回、あっちの都合で屋上に呼び出されて、時間を潰されるこっちの身にもなってほしいわ」


「記録更新だね」


「男って、喋ったこともないのに何で告白できちゃうのかな? この学校には猿しかいないのかしら?」


「相変わらずひどい言いようだね」


結菜ゆいなもこんだけ告白されたらきっとわかるよ」


「私は陰キャだもん。告白なんてされないよ」


 すると、ちーちゃんは私の手をつかむ。


「結菜はそのままがいいよ。結菜にはあたしさえいればいいんだからね」


 ちーちゃんは百合っ気がある。


 仙姿玉質。その言葉はちーちゃんの容姿に相応しい。


 背中まで伸びた艶やかな黒髪は、人形のような小顔を引き立て、くりくりとした目、高い鼻、妖艶な唇。そのどれもが透き通る白い肌の顔に黄金率のように配置されていた。


 神取かんどり千陽ちはる。学園一の美少女は私の同級生であり親友だ。


 対する私、森ノ宮結菜は、眼鏡をかけた陰キャで、クラスでは目立たない存在。


 美少女につきまとう金魚のフン。それが世間から見た私の立ち位置だ。実際には、ちーちゃんの方が私にべったりなのだが。


「さあ、馬鹿な男子とのやりとりも終わったし、帰る?それとも部活行く?」


「私、部活行きたいな」


「OK、OK。じゃあ部活行こ。結菜お気に入りの鹿島先輩に会いに行こ」


「か、鹿島先輩は別にお気に入りじゃないし」


「ちょっとは憧れの気持ちがあるんでしょう? だって結菜が文芸部にいるとき、目線が鹿島先輩を追ってるの知ってるんだから」


「つ、ついつい見ちゃうだけだよ。もしかしてちーちゃん、妬いてるの?」


「馬鹿ね。あたしが男どもなんかに妬くわけないでしょ? 奴らは純情そうに見えて、ムラムラしておったてているだけの猿に過ぎないんだから」


「おったてて、て、ちーちゃん、表現が過激だよぉ」


「あら、文芸部とは別に、隠れてBL小説書いてる結菜が何、ウブなこと言ってるの? そういう表現、好きなくせに」


「わ、私のBLは、上品系なの! 官能小説じゃないもん」


「はいはい。きっと結菜も誰かと付き合ってみれば、結菜の世界の薔薇は、実はラフレシアのように気持ち悪い花だったってことがわかるわよ」


「もういいよ。ちーちゃん。ちーちゃんに付き合って損した。すぐ文芸部いく」


 私はちーちゃんを振り解いて屋上の出口へ向かう。


「待って!」


 がばっ!とちーちゃんが私の背中から私に抱きつく。


「ごめんね。ひどいこと言って。でも結菜のことを1番想っているのはあたしなんだからね」


「いつもそれ。ずるいよ、ちーちゃん」


 ふふっと笑ってちーちゃんは手を私の肘に伸ばして、私と腕を組む。


「さ、行こ?」


 そう言って私達は文芸部の教室に繰り出した。



 今でこそ、ちーちゃんは男子に対して毒舌を吐くようになったが、小学生の頃は私の方が男勝りでちーちゃんはおとなしい女の子だった。


 ちーちゃんは男子にいじめられていた。


「神取、ほら、カマキリだぞ!」


「や、やめてよー。あたし、虫無理なの」


「ははは、弱虫がー。ほらほら顔に乗せるか?」


「やめてよー!」


 そんなちーちゃんを救うのはいつも私だった。


「ちょっと、ちーちゃん嫌がってるでしょう。やめなさいよ!」


「わー。鬼の森ノ宮が来た。逃げろー」


 空手を習っていた小学生の頃の私は喧嘩が強かった。男子からも一目置かれていた。


「ぐすっ。ありがとう結菜ちゃん」


 逃げていく男子を尻目にちーちゃんは言う。


 今思えば、男子はきっと可愛いちーちゃんの気を引きたくていじめていたのだ。それでもちーちゃんは本当に嫌がってた。


「ね、公園で白詰草編まない?」


 私はちーちゃんを誘っていつも公園で遊んでた。


「結菜ちゃん、はい、白詰草の冠できたよ。結菜ちゃんのために作ったの。もらってくれないかな?」


 ちーちゃんは白詰草の冠を私の頭に乗せる


「うれしい。ちーちゃん、ありがとうね」


 その時、ちーちゃんの顔が私に近づき、ふいにちーちゃんはキスをしてきた。


 唇と唇が重なる。


「え……ちーちゃん?」


「結菜ちゃんはいつもあたしを守ってくれる王子様だよ。あたし、結菜ちゃんが好き」


 私は友達の延長線上の好きだと思ったから、まんざら悪い気はしなかった。


「私も、ちーちゃんのこと好きだよ」


「嬉しい! 私、結菜ちゃんとずっと一緒にいるね」


 美少女らしく屈託のない笑顔でちーちゃんは言った。


 その後、私達は同じ中学に上がる。


 小学校では勝ち気だった私はいつしか目立たない存在へと変わっていった。


 対して美しく成長しつつあるちーちゃんは、誰からもちやほやされていた。


 特に男子がちーちゃんを見る目つきは恋するそれで、ちーちゃんは何度か告白されたようだ。


 中学頃からちーちゃんは性格が変わってきた。きっとモテることで自信がついたのだろう。だんだん辛辣な言葉を使うようになってきた。


「男子は簡単にあたしを好きになるし、女子はあたしに嫉妬する。あたし、疲れてきちゃった」


 一緒に帰る帰り道、ちーちゃんは私にだけは本音を打ち明けていたが、普段の外面は良かった。


「顔はいいのに性格悪かったら、女子からいじめのターゲットにされるじゃない? 面倒なのよね。だからあたし、人前では良い子を演じることにしたの」


 その成果があって、ちーちゃんは女子からも男子からも、また、先生からも好かれるクラスのアイドル的な存在になった。


 私はそんなちーちゃんにちょっと嫉妬してた。


「ちーちゃん、私、高校は星宮学園を受けようと思うの」


「え?星宮って、進学校の?」


「うん。私、塾行って成績が順調に伸びてきたんだ。だからちょっと背伸びして頑張る」


「あ、あたし。結菜と離れたくない!あたしも星宮受ける!」


「でも、ちーちゃんの成績じゃ……」


「あたし、必死に勉強する。結菜についてく!」


 合格圏外だったちーちゃんはそれから必死に勉強した。


 ついには私の成績を上回るくらいまで実力がついた。


 天は二物を与えずというが、ちーちゃんは容姿に頭脳、羨ましくなるくらい何でも持ってる。


 時々、私はちーちゃんへの嫉妬が止まらなくなる。


 でも、ちーちゃんは私の気持ちなんて気にもとめず、いつも私にべったりついてきた。


「高校行ってもあたしの心は結菜のものだよ」


 もしかしたら、ちーちゃんの気持ちは友達の延長線上を超えてしまっているのかもしれない。でも私にはちーちゃんは友達としてしか見られなかった。

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