第捌什陸話 センスが問われるあのお店
「いらっしゃいませー」
「服…か。余所行きの服は母さんとヒナがいつも買ってきたからな。」
やはり同じジャージ何着も揃えて着回すのが1番楽。ここジャージあるのか?
「あー、激しい運動に適していて通気性の良い服、ありませんか?」
「それでしたらこちら一帯になります。」
「ありがとうございます。」
おお、スウェット・ジャージ・トレーナー…種類が豊富。
「このスウェットでいいか。それにしても帽子にスーツ、ドレス…これだけ様々な服があるならあれあるかな…」
あったあった。ジッパー付きパーカーとキャスケット帽。俺が自分で買う服なんてこれくらいしかない。
「さて、会計して帰ろ。」
「2,500円になります。加魔工はされますか?」
「加魔工?」
「防汚などの日用的な物や、攻撃魔法軽減効果等の特別な物が付与されている糸で刺繍をしてそれを服に付与するものです。効果の強い物は少々お値段は張りますが…」
手持ちがもうそれほど無いんだよな…
「いや、やめときます。」
「承りました。ご来店ありがとうございました。」
「うん、いいモン買った。あれ?」
「あら、月斗さん。今お帰り?」
「エミリアさん。」
「あら、新しい服買ったの?」
「ええ、まあ。いつまでもエミリアさんに服を作って貰うわけにはいかないので。」
「そう…残念。」
ちょっとシュンとするエミリアさん。何が残念なんだろう?
「それより、加魔工はしてあるの?」
「いえ…高くなるとのことだったので。」
「あとでしてあげる?」
「出来るんですか?」
「糸に魔法をつけるためのある程度の魔力、裁縫の腕前、刺繍のアレンジスキルがあれば出来るの。」
つまりとにかくエミリアさんは凄いということか。
「わたしとシエルの服もお手製加魔工がしてあるわ。」
「ならお願いいたします…結局エミリアさんに頼ってますね。」
「もっと甘えてくれていいのよ…!」
甘えるのはまた違うような…
「それは…遠慮しておきます。じゃあ帰りますか。」
第捌什陸話 センスが問われるあのお店 完




