第漆什壱話 朝から割と色々ある。
「んー…っくぇ…寝た寝た。昨日、というか今日はもう一回風呂入って寝たから今は大体8時かな。」
体を起こそうとしたそのときもちっとした何かに指が当たった。
ん?なんかすごく柔らかい…それでいて程良いもちもち感…
「あ、おはようございます…」
「おはようございます…何してるんですエミリアさん。」
「夜に用を足して布団に戻った筈なんですけど…」
「よっこいしょ…それで俺の布団に入ってきたと。」
上半身を起こしながら『この状況に慣れた俺はもう染まってるんだな』と思った。
「で、えー…とりあえずまだ寝てていいすよ。2人もまだ起きてないみたいですし。」
「あらそう?じゃ失礼して…すやぁ…」
再び布団に潜り込み寝息を立て始めるエミリアさん。
「朝食でも買いに行くか…」
寝間着から着替え宿の外へ。さて、何を食べよう…
こっちの世界にも外食が出来る店はかなりある。それこそチェーン店のようなものも見かけている。
「持ち帰りも出来るし割と元の世界とも変わらんな。ただ…」
『ただ?』
「アレが無いのがなぁ…」
『アレ、とは?』
「桜餅ってやつなんですけど。」
ここは東の国だけあって和菓子(に似たもの)も沢山あるんだけどいかんせんこれだけは見つからなかった。
『サクラ、もち?』
「ええ、桜餅。こんな形の桜色で。まさか材料すら無いとは…」
『作れるんですか?』
「作れますよ。俺の自宅には大量に材料あったのにッ…!」
『あ、あそこに色違いがありますよ。形は同じですね。あれは?』
「草餅…か。あれだけは食べられないです。どーしても口に合わなくて。」
『色々違うんですね…』
異世界で割と大事なモノ、大好物。
「あ、そうだあの場所、今夜も行って良いですか?」
『良いですよ。』
「ありがとうございます。」
『そうだ、いつも『あの場所』と呼ぶのは回りくどいというか分かりにくいでしょう?なのであの宿に名前を付けていただけると…』
「んー、基本的に夜しか行かないと思うしあの場所にいる間はずっと夜だし…『永夜亭』ってのでどうです?」
『永夜亭、良い名前です。』
第漆什壱話 朝から割と色々ある。 完




