第伍什壱話 冬華さん=薫さん説
「さて、まずここに来た理由が、エリナのために作物の栽培方法を学ぶ為。」
「そうだな。」
「で、ついでに月斗に剣の扱い方を習得させるため。」
「うん…え?それが2番目なの?」
「それ以外に特に理由が無いからな。」
「…そうか。」
「あとは何かありましたっけ?」
「いや、特には無いな。」
「だったら明日からはこの街の情報収集でもするか?この街の名産品とか、作物の事も知っておきたいし。」
「ほう…ならばそれで良いだろう。」
「ふわぁ~…もう眠いでふ…」
「口が回らない程なのか…」
「ほ~れふねぇ…」
「ほれ、布団は敷いてやるから俺の足を枕にするんじゃない。」
慣れない長旅で疲れたんだろう。王都から街までとは比べものにならない距離だし。
「では、我は宿泊の手続きを正式に踏んでくるとしよう。」
「ああ、解った。」
「では。先に寝ていても構わんぞ。」
ガラッ…パタン
…さて、これからどうするか…この姉妹は寝かせておくとして…俺も寝るか?でも体が気持ち悪いしなぁ…
「…シエル、俺は風呂に行きたいから離してくれないか?」
「すぴ~…」
「…」
やっとこさ離してくれた…何で寝てるのに俺を的確に探知出来るんだよ…
「あら、月斗君。」
「あ、冬華さん。こんばんは。」
「こんばんは♪こんなとこで何をしてるの?」
「ああ、この旅館の構造と間取りを確認しながら、風呂を探してたんです。」
「温泉ならこっちじゃないわよ?」
「あ、温泉なんですね。」
「そう。露天風呂も有るわよ。ついでだし、一緒に入る?」
「いや、それは…」
「あら、残念♪」
「からかわないで下さいよ…」
やはり薫さんの母か。最早同一人物だろこのからかい方。
「じゃあこれで…」
そう言って、振り向いた途端、
「えいっ♪」
「きゃっ!?」
頸元に冷たい物体が突然現れた。それは冬華さんの手であるらしかった。
「ななななな何するんですかぁ!」
「うふふっ♪可愛い♪」
「うぅ…」
「じゃあ行ってらっしゃい♪」
「もう…」
第伍什壱話 冬華さん=薫さん説 完




