第伍什話 変人の母は変人。
「…ここ、どこかで…」
「どうした月斗?先に入っているぞ。」
ガララッ
「女将は居るか?『士郎が来た』と伝えてくれ。」
「ええ、おります。お伝えしますので今少しお待ち下さい。」
「月斗?」
「ああ、すまない…今行く。」
とんとんとんとん…
「あら士郎ちゃん!よく来たわね~。いつぶりかしら?今日はお泊まり?」
「えっ!?薫さん?ここで一体何を…」
軽快に階段を降りてきた女将は、途轍もなく『薫さん』に似ていた。
「え?あら初めまして。ここの女将の冬華と申します。」
「あ、初めまして…」
「もしかして君が月斗くん?」
「あ、はい。」
「君今『薫』って言った?」
「あれは…って何をしているんですか?」
質問してすぐに俺の周りをぐるぐる回り始める冬華さん。
「いや、ちょっとね…」
太股むにむに
「ひゃっ!?」
脇腹もみもみ
「ちょ、ちょっと…ふふっ!」
ほっぺむにっ
「ひゃめへ…ふらはいひょ…」
「ふふっ♪ごめんなさいね?君のことは薫からよく聞いてるわよ。」
「もう…え、薫さんから?」
「ええ、だって私…」
「まさか…」
「薫のお母さんだもの。」
あ、やっぱりか。確か薫さんは東の出って言ってた…かは分かんないけど、ここまで似てたら誰でも気づく。でも、流石は薫さんのお母さん。この時点でもう変人感が半端ない。変人の母は変人だった。
「へえ~…冬華さんって薫さんのお母さんだったんですね~。」
嘘だろ。この人気づいてなかったんかよ。てかいつの間に馬車から降りてきたんだよ。エミリアさんは降りてこないし…
「それで、今回はいつまでお泊まり?」
「ああ、今回は七日間だ。人数は四人。頼めるか?」
「りょ~かい。皆!四人さんが七日お泊まりよ!」
『はい!』
冬華さんが号令を掛けると、どこからか沢山の返事が返ってきた。ほんとどこから返ってきたんだろ。周りには人の気配は全くしなかったのに…
それから十分程で部屋の準備が出来たとの事で、案内された。
ちなみに、エミリアさんは馬車の中で寝てたから、押し入れの中の布団を敷いて、寝かせておいた。もう夕方だし、長いこと馬車に乗ってたから、疲れてしまったのだろう…
「さて、これから七日間この宿を拠点に活動する。」
「そういえば、私達の旅の目的は何でしたっけ?」
「じゃあ、今日は明日からやることをまとめてから休むとしよう。」
第伍什話 変人の母は変人。 完




