第肆什捌話 右手にお玉を左手にフライパンを
朝の日差しが硝子の窓から差し込み、まぶたを貫通して脳を刺激する。
「うっ…眩しい…」
もう朝か…ベッドじゃないから寝た気がしないなぁ…
「よっこら…痛っ」
やっぱり体が痛え…首がバキバキ鳴ってる…
「すこーーー…」
さて…このお転婆姫様、どうするかな…
「ほれ、起きろ。朝だぞ。」
「うにゅ~…あと30分…」
「どんだけ寝るつもりだよ。取り敢えず起きろ。」
「ふわぁ~…むにゅむにゅ…あ、月斗。」
「おはようさん。目ぇ醒めたか。」
「お主…何で妾の部屋に居るのじゃ…?」
「…お前まさか昨日自分が何したか覚えてないのか?」
「妾がぁ…?う~ん…」
「ま、何でもいいから今日は出発の日だろ。」
「う~?そうじゃったけ~?」
「そうだよ…取り敢えず俺はあいつら起こしたら出るからな。」
「そ~なのか~…」
…なんだこいつ。絶対起きる気無ぇじゃん。
「はぁ…ま、起きないなら勝手に行ってくるぞ。」
「ん~う…」
「じゃあな。」
ガチャッ
「あ、お早うございますエミリアさん。準備は終わったんですか?」
「ええ、後はシエルを起こすだけ…なんですけど…」
「まさか…」
「ええ…」
…やっぱりですか。流石ですシエル様…
「お邪魔しますよっと…」
「くこー--…」
「30分ほど起こしたんですけど起きなくて…」
さて、こいつの場合はあいつより寝起きが悪い。どうしたものか。
その時、俺の脳裏に電流走る。手荒だが、こうするしか…
「…エミリアさん。ここにフライパンとお玉ってあります?」
「?」
で、結局…
「じゃ、耳、塞いでて下さいね…」
「んっ!」
「せーのっ!」
ガンガンガンガンガンガン!!!!
「おあわあああうおわぁぁぁあ!!!???」
「ふう…」
「お早うシエル。」
「お姉ちゃんに月斗さん…うう~…耳がガンガンキンキンするぅ~…」
「全く…こうしないと起きないとは。」
「うふふっ♪楽しいですね♪」
「…そうですか。」
「ふわぁ~…むにゃむにゃ…」
「おいおい、二度寝はするなよ。すぐ出るんだから。」
てか、エリナに関してはこの轟音でも起きないのかよ。
俺の母親が「これはね、死者も目覚めるのよ?」って言って右手にお玉、左手にフライパン持って低血圧&どこでも寝る親父を起こすために使ってた荒神家秘技?らしいのに…毎朝これじゃ、身の回りの世話をする人の苦労が手に取るように分かる…
「じゃあ、出発しましょうか!」
「ですね。ほらシエル、しっかりしろって。」
「ふぁぁ~い。しゅっぱぁ~つ…スヤァ…」
「寝るなーーーー!」
第肆什捌話 右手にお玉を左手にフライパンを 完




