トゥー·ラブ·ワンズ
エミは何度も恋愛に傷ついて疲れてしまった女が最後に言うような、‘恋愛はただ素直に相手のことを好きだと思える純愛でなければ’という想いを憧れとしてもっていた。
エミが通う高校の教師ユカリは、以前から気になっていた職場の後輩タチバナと初めての関係を持った後、なかなかそれ以上親しくなることができないことを悩んでいた。
ユカリは恋愛だけでなく、幼い頃から本当の自分の気持ちを上手く他人に伝えることが出来なくて人と打ち解けて付き合えないまま30数年生きてきた女だったが、純愛には心の底で憧れていた。
ユカリはいつも自分と違う価値観をもつ人間に遭遇すると、その人間が変わって自分に合わせてくれればと願うタイプだった。自分にとってはその方が楽で、自分の考えややり方を変えるような大変なことはしたくなかったからだ。
タチバナのことを恋愛対象として好きになり始めた頃、酔った彼本人の口から聞いた女との付き合い方についての価値観にはかなり驚いた。その時は笑顔を作って理解して合わせるふりをしたものの、その理解を継続することはユカリにはおそろしく難しかった。
もともと自分に自信がないユカリは小さい頃から自分と関わる他人の言葉をすぐ疑ってしまい、そうすることでまたどんどん不安になってしまうところがあった。たとえ現実的には何ら問題がなかったとしても、自分が嫌われていない存在だと確信できなければ不安の種などいくらでも自分から作り出してしまえるところが今でもある。
ここ何ヵ月かはユカリにとってタチバナの存在が不安のもとになっていて、いまだにタチバナに自分の心の凪がかき回されたままで何とかしたいと行動してしまい、それはもう純愛からはかけ離れていた。
相手に愛情を注いで同等かそれ以上の見返りを欲っするのは純愛ではない。
私はこんなにあなたのことを大切に思っているのにあなたはどうして全く応えてくれないの…などと自分だけが頑張っている気がしてきて不平等だと苛立ってきてしまう、それはもう純愛ではない。
ユカリは頭では分かっていた。
恋愛相手の言動にイライラしたり不満に思ったりする気持ちが膨らみ始めるとき、見返りを求めない純愛とはもう違っているのだ。
そもそも、お互いが自分本意でなく相手を思いやれる恋愛の当初であれば純愛といえる恋愛ができるかもしれないが、男にも女にも自分のための人生を考える必要がある。
恋愛の先にある結婚のことやお金のこと、それぞれの仕事や子供や住む場所のこと。
あなたが居てくれるだけで幸せ、というだけでは人生は回らなくなってくるのだ。
それでも、ユカリは自分を女としてみて抱いてくれたタチバナと純愛をしてみたかった。
タチバナの間違った女性とのつきあい方は彼の幼少期からの環境のせいに違いないとユカリは勝手に確信し、少しずつ治してあげられるのは自分だけなのだと思うようになっていた。
ユカリは学校の業務を終えて一人暮らしの部屋に帰り、いつものようにデパ地下グルメと濃いめに割ったボンベイ・サファイアを飲んで良い気分になってくると、タチバナのための夜の課題を始める時間に向き合った。
タチバナからはまだ反応は無いけれど、自分からのメールは大切に心に留めている筈で、感謝して私を抱きしめてくれる日がもうすぐやってくる、とユカリは自分を鼓舞していた。




