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五話

「————ドラゴン、ですか」


 眉根が寄った。

 予想はしてたけれど、彼にとって突拍子ない一言だったのだろう。


 その意図は。


 と、数秒ほどの黙考を挟み、返事を探しあぐねているようであったが程なく、ドゥガさんは言葉を返すべく口を開いてくれた。


「……ウェルツ山脈に昔、ドラゴンが生息しているという話ならば、聞いた事はありますが、」

「ウェルツ山脈」

「噂程度ですが、〝レッドドラゴン〟がいるとかどうとか。しかし、どうしてドラゴンの居場所を?」


 私の記憶が正しければ、ウェルツ山脈はロドリゲス公爵領からそこまで距離があるわけではなかった筈。

 あまりいい噂を聞くような場所ではないけれど、向かおうと思えば向かえるような場所。


「物を、尋ねようと思いまして」


 こそこそして、胸の内に秘めておく事の方が怪しいので私はドゥガさんに打ち明ける。


「物を、尋ねる……ですか?」

「閣下の呪いを解く力になりたい。そこに嘘偽りはありません。ただ、私はその方法を知りません。だから、そこらの人間よりも余程昔から生きている知恵者に聞くしかないかな、と」


 きっと、人間相手であれば閣下に限らずドゥガさんであっても、殆どの者に対して呪いについて尋ねている筈だ。そして、現状。


 それを考えれば、呪いの解呪方法を知っている〝人〟を探す事はかなり難しい事だろう。


「それで、ドラゴンですか。確かに、あの者達は数百年以上生きていると聞きますが、それでも」


 そもそも、人同士とは異なり、物を尋ねる以前に言葉を交わす事自体無理なのではないのか。

 ドラゴンに物を尋ねるなど、聞いた事もない。


 向けられる視線が、そう私に訴えかけてくる。


「確かに、そうなんですけどね」


 だから、私は苦笑いを浮かべた。

 ドゥガさんの言っている事は正しい。


 いくら害する目的で近付こうとしていないとはいえ、物を尋ねるにせよ、「触れるな危険」扱いを受けているドラゴンの下にわざわざ向かいに行くなど、考えられないと思うその感想は正常だ。


「……ただ、昔。変わった噂話を聞く機会がありまして。文献、を漁るにせよ。人伝に聞くにせよ、そういった部分で私はあまり力にはなれそうにないので、その噂話に縋ってみようかなと思いまして」


 文献の知識程度ならば、ドゥガさん達が既に調べていないわけがない。

 人伝も、同様に。


 それでも、恐らく呪いを解くきっかけすら得れていないのだから、そういった普通のやり方では解呪に辿りつけない事は自明の理。

 故に、起こす行動は必然それ以外、となる。


「噂話ですか?」

「とある魔法使いから聞いた話なんですけどね」


 あくまで噂話であると断っておく。


「その者は、ドラゴンを〝友〟と呼んでおりました。加えて、国を追われた時、自身に手を差し伸べてくれた恩人であるとも。気性が荒いとされるドラゴンではありますが、その実、彼らは人の言葉すらも理解する知恵者であるとその者は言っていたのです」


 これは、過去の己の話ではあるけれど、とある魔法使いと言っているから、一応嘘ではない。

 苦し紛れの言い訳を心の中でしながら、私はドゥガさんに向けて言葉を続ける。


「それに、ここから遠く離れた東方では、〝ドラゴン〟を守り神と称えている国もあるとか」


 故に、一見、あり得ない選択肢に見えはするものの、〝ドラゴン〟に頼るという選択肢はありなのではないか。

 そう告げると、黙って聞いてくれていたドゥガさんは悩ましげな唸り声をもらす。


「だから、〝ドラゴン〟の下を訪れれば何か解呪の手掛かりを得られる気がしまして」

「……確かに、一理あるやもしれません」


 不可思議であった私が〝ドラゴン〟の居場所を尋ねた理由に納得してくれたのか。

 ドゥガさんは小さく頷いてくれる。

 ただ、


「ですが、ウェルツ山脈に足を踏み入れるだけでも危険なのに、その上、〝ドラゴン〟に会いに向かうなど、危険過ぎます」


 相応のリターンは得られるかもしれないが、背負うリスクが高過ぎて、リターンが得られない可能性があまりに高過ぎる。


 そう、至極真っ当な返事がやってきた。

 こんな時、その道を蹴り飛ばしてなく、自分が『大魔法師』と呼ばれるほどの人間であったと理解があればまた返事は違っていたのだろうか。


 そんな不毛でしかない感想を抱きながら、


「でも、そのくらいしないと治す方法は見つからないと思うんですよね」


 会いに向かおうとする私の意図を悟ったドゥガさんの言葉を、私は否定する。

 でも、危険過ぎると口にする彼の気持ちは痛いほど分かるので、声のトーンは穏やかに。


「…………」


 呪い。

 とはいえど、その呪いはイグナーツ公爵閣下にどのような影響を実害として与えているのか。

 その点は不明。


 あの禍々しい紋様を見る限り、ただ紋様が刻まれているだけ。という線は薄い筈だ。

 痛みを抱えているのか。

 もしくは、それ以外の実害か。


 彼があえて言ってくれない限り、此方には分かりようがない話なのだが、だからこそ、急がなくてはいけないと思っていた。

 あの呪いが、閣下の寿命すら縮めているのやもしれないのだから。

 だから、


「何より、時間は掛けていられない。そう思いませんか、ドゥガさん」


 呪いを解くならば、多少の危険な橋は渡らざるを得なかった。


 『大魔法師』と呼ばれていた頃の記憶を打ち明けられれば良かったんだけれど、それが難しい事は百も承知。

 だったら、正論を並べ立てるしかない。


「……確かに、そういった選択もありやもしれません。ただ、仮にそうであったとしても、ルシア様を連れて行く事は出来ませんよ」


 ついていく気満々……というより、言い出しっぺだし、前世とはいえ〝ドラゴン〟と話した経験のある私がいかなきゃ。


 と思っていた私に、待ったがかかる。


 でも、考えてもみればそれは当然の言葉である。


「言い出しっぺなのに、ですか?」


 だからこそ。


「ウェルツ山脈は多くの魔物が棲まう地。ルシア様を守りながら〝ドラゴン〟に会いに向かう事は困難を極める上、そもそも閣下がお許しになる筈がありません」


 ドゥガさんのその言葉を私は待ち望んでいた。


「じゃあ、私が守られるだけの人間ではなく、尚且つ、イグナーツ公爵閣下を納得させたならば、問題はないって事ですよね」


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また、誤字脱字のご報告もありがとうございます。
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