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四話


「……しっかし、呪いとは聞いていたけど、」


 脳裏に浮かぶ、ヘルムに隠れていたイグナーツ公爵閣下の素顔。

 びっしりと刻まれていた紋様は顔の下にまで見事に続いていた。

 そして、複雑極まりないその紋様には、前世の知識を総動員しても心当たりはなく、解呪方法は現状、不明であった。


 あの後、長旅で疲れただろうからと、客間に案内され、一人になっていた事をこれ幸いと、うんうんと私は椅子に腰掛けながら唸っていた。


「相当、強力なやつだったよね、あれ」


 下手に手を出すと更に悪化しかねないような、そういった類のものであると結論を出す。


 先程は力になると大見得を切ったものの、少なくとも、一朝一夕で私が何かをしたからとどうにかなるものではない。

 それが私の出した答え。

 ただそれでも、有効な手立てが全くないというわけではなかった。


「……知恵者に聞くしかないかな、これは」


 そして、思い浮かべるとあるシルエット。

 千年単位で生きている知恵者であるならば、如何に複雑な呪いであろうとその解呪方法を知っている可能性は極めて高い。


「ただ、会いに行くまでが一苦労なんだよね……、それに、前世の頃はどうにかなかったけど、必ずしもあいつらが友好的とは限らないし」


 ————なにせあいつら、プライドがとんでもなく高いドラゴン(種族)だから。


「それに、公爵閣下がそれを認めてくれるかどうか……」


 きっと、ここが一番の関門。

 ドラゴンといえば、生命体の頂点であり、人とは隔絶した力量差から触るな危険。みたいな認識で落ち着いてしまっている。


 そんなドラゴンに物を尋ねに向かう。

 などと言おうものならば、頭がとち狂ってる扱いを受けても文句は言えない。


 けれど、かといって一人で向かうとしても肝心の呪いを解く為には公爵閣下の同行が不可欠。

 しかし真正面からそれを言おうものならば、折角側にいられる事になったのに、公爵閣下を亡き者にしようとやって来た人間であると捉えられる可能性が極めて高い。


「ぅー、あー……」


 八方塞がりとはまさにこの事か。


 ドラゴンに此方に来てもらう。

 という選択肢は、赴くならばまだしも、そんな事を言えばまず間違いなく怒りを買う。

 呪いを解く手掛かりを知るどころか、丸焦げにされる事だろう。


 流石に洒落にならない。


「……いや、というか、そもそもドラゴンってどこにいるんだろ」


 ドラゴンという存在がいるという事は知っている。けれど、肝心のどこにドラゴンが生息している。といった情報が欠落していた事に今気付く。


 私は手で頭を抱える羽目になった。


「だめだめじゃん……これは先が長そうだなぁ」


 己がどうすればいいのかは分かるものの、その通りに動こうにも、障害が多過ぎて殆ど身動きが取れないのが現状である。

 だから、溜息を吐かずにはいられなくて。


 そんな折。


 コンコン、とノックする音が部屋に響いた。


「ルシア様。少し、よろしいでしょうか」


 一瞬、公爵閣下かなと思ったものの、続く控え目な声音からそれは違うと判断。

 程なく、その声が門の前で私を迎えてくれた門番さんの声であると理解した。


「えっ、と、門番さん、でしたっけ。私は全く問題ありませんけど」

「失礼いたします」


 予想外の来訪者に、驚愕めいた感情をあらわにしてしまうものの、相手もそれを分かってか。

 開かれるドアの向こうから顔を覗かせる彼の表情は、柔和に笑んでいた。


 そして、ドアが閉まると同時、何故か勢いよく頭を下げられた。


「この度は、ありがとうございました。ルシア様」

「…………へ?」


 その行動に、私はぽかん、と呆気に取られ、素っ頓狂な声を漏らしてしまう。


「こうして来てくれたのが、貴女のような人でよかった」

「あの、えっと、」


 まだ何もしてないし、そうやって感謝をされる覚えは全くないんだけれど。

 などと思っていた私は、いったい何と言葉を返せばいいのかと探しあぐねてしまう。


「ああして閣下が、嬉しそうにお笑いになられたのは、呪いを受けて以来の事でしたので」


 そこで、呪いを解く力になると言った事に対する感謝でないのだと気付かされる。


「……基本的に閣下は、呪いを受けてからというもの、嫌悪や、忌避といった感情を向けられる事しかありません」


 ああして全身を甲冑に覆う程だ。

 どれだけの悪感情を向けられて来たのかは、想像に難くない。


「だからこそ、貴女様のような方が来て下さってよかった」


 正真正銘の安堵の表情を向けてくる彼の言葉に、少しだけ背中がむず痒く感じてしまう。


「ただ、無理だけはなさらないで下さいね。それは僕も、閣下も、誰も望んでいませんから」


 呪いを解くまでは付き合うつもり。

 そう言ってしまいたかったけど、彼が言いたいのはそういう事ではないと理解をして、私はその発言に「勿論です」首肯する。


「それと、申し遅れましたが、僕の名前はドゥガです。ドゥガ・メロジア」

「メロジア、というと……」


 門番をしているくらいだから、貴族の人ではないのかなと思っていた中での自己紹介。

 メロジアといえば、私の生家であるアルヴァルト侯爵家と同格の侯爵家であった筈。


 反射的に浮かび上がったその記憶を口にしようとして、


「ええ。そのメロジアです。ただ、三男である僕に家を継ぐ権利はありませんがね。とはいえ、だからこうして好き勝手にさせて貰えてるんですが」


 先んじて肯定される。


 とはいえ、侯爵家の人間が、こう言いたくはないけれど、避けられている公爵閣下の護衛でもなく、屋敷の門番をどうしてしているのかと疑問に思って。


「恩があるんです。閣下には、大恩が」


 程なく、私の心の中を覗きでもしたかのような言葉が返ってきた。


「だから、僕はその恩返しをしたくて」


 勿論、閣下には幾度となく気を遣わなくていいと断られちゃってるんですけどね。

 だから、もう押し掛けみたいなものです。


 そう言って、ドゥガさんは苦笑いを浮かべた。


「……優しいんですね」

「ルシア様や、閣下程ではありませんよ。僕の場合は、恩返しという理由がありますから」


 優しいのではなく、これはただ、恩返しをしているだけとドゥガさんは言う。

 それでも優しい事に変わり無いと思ったけれど、水掛け論になりそうであったので私は口を閉じる事にした。


「僕自身、メロジアの人間ではありますが、あくまでここではいち使用人。なので、困った事があれば遠慮なくお申し付け下さい」


 そう言って、侯爵家の人間と聞いてどう接したものかと私が悩んでいる事を表情から察してか。


 ドゥガさんは私に向けてそう告げた。

 侯爵家の人間であれば、教養もそれなり。

 加えて、年齢は少なくとも私よりも5は上だ。だから、私よりもずっと知っている事は多いと捉え、先の言葉に早速甘えてしまおうと決める。


「じゃあ、一つ。早速で申し訳ないんですが、頼まれて貰ってもいいですか」

「それは……ええ。勿論構いませんが」

「それは良かった。なら、ドゥガさん」


 ————ドラゴンが何処にいるかとか、聞いた事はありませんか?

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また、誤字脱字のご報告もありがとうございます。
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