この部活の部費はどこかおかしい!
「取れない」
部室棟一階にある自由部部室に、部長のなんとも悲痛なつぶやきが響いた。
「何を取りたいんですか?」
掃除当番やほかの用事がなかった俺はすぐに部室へと直行したのだが、そこにはすでに上履きを脱いで椅子に乗った部長がいた。
そして、必死に椅子の上で背伸びをしている部長を眺めて今に至る。
「暇だったから棚の上にあるボードゲームを取ろうとしたんだけど……な?」
中学生、ひどいときは小学生と間違えられるほど背の低い部長は、いくら背伸びして手を伸ばしたとしても、ボードゲームには届かないだろう。
そもそも、置いてある棚が悪いのだ。
先日仕入れたばかりの新しい棚はそこまで高さは無いため、部長でも一番上に手が届く。
しかし、ボドゲがあるのは古い古参の棚であるため、かなりの高さがある。
「部長。危ないですから、代わりに取りましょ……」
うか、と言い終わる前に部長が俺を制す。
「それ以上言うな、翔真。これはあたしの戦いなんだ。あたしがつかみ取らなければいけないんだ」
さながら主人公バリの決め台詞を言い放つ部長。
「なんかカッコよさそうに言ってますけど、取ろうとしてるものと状況を考えたらまったくカッコよくないですよね」
「うるさいぞ! これでもくらえ!」
「ぐはっ」
上から投げ下ろされた極太の辞書が俺へと迫るが、予想外の展開に俺が対応できるはずもなく、顔面でのキャッチを試みて失敗。
辞書が床に落ちる音が鳴るのと、俺があまりの激痛にうずくまるのは同時だった。
「ところで、ツッコミ用の広○苑をどう思う?」
「すごく……大きいです……」
悶えている後輩になんてことを言わせるんだこの先輩は。
辞書の感想よりも先に、まずは俺のことを心配してほしい。
「てか、そんなことはどうだっていいんだよ」
「いや、部長がこの話を振ったんでしょう?」
「おい翔真、なにかいい案はないのか?」
「無視しないでくださいよ……そうですね、なにか棒を使うのはどうですか?」
ボードゲームを落とす形にはなるが、それは俺が上手くキャッチすればいいだけのことだ。
「なるほど。でも、翔真の持ってる棒じゃ少し長さが足りないんじゃないか?」
この下ネタ好き上級生は。
いきなりそういうのをぶち込んでくるのはやめてくれと前にも言ったはずなんだけど、どうやら理解してもらえてなかったようだ。
それはそうと……。
「部長? 俺に喧嘩売ってます?」
「別に売ったつもりはないんだが、お前がその気ならやってやろうじゃねえか。その代わり、さっきの広○苑みたいなのが飛んでくるのはを覚悟しておけよ」
「いいえ、結構です。すいませんでした」
俺は速攻で土下座を敢行した。あんなのがもう一発飛んでくるなんて想像しただけでも寒気がする。
少なくとも、喧嘩が終わった後に病院へと運ばれる自信はある。
「も、もう顔をあげてもいいぞ。広○苑を投げつけるくだりは冗談だから」
いや、既に広○苑を俺に投げつけている時点でその言葉の信憑性はゼロに等しいんですけど。
「まあ、頑張って手を伸ばしてればいつか取れるだろ」
◇◇◇◇◇
「やっぱり無理じゃねえか、この野郎」
部長の背の低さをカバーできるものは無いらしく、四十分たった今でもボードゲームを取ることは叶っていない。
「諦めるか」
「そうですね」
今までの部長の努力と俺の顔の痛みは無駄になったが、自分自身の手で取りたいと駄々をこねているこの状況ではそれがベストな選択だ。
「ていうか、彩乃と遥はまだ来ないのか? あいつらはいったい何をしているんだ?」
「そういえば、遥はソフトボール部の助っ人に行くとか言ってましたよ」
俺にそのことを伝えに来た時の遥の顔はとにかくすごかった。
秋田のなまはげも余裕で逃げ出すのではないだろうか。
「遥のことはわかったが、彩乃はなんで来ないんだよ?」
「そんなこと俺に聞かれても……」
ちょうどその時、タイミングを見計らったかのように部長のスマホが鳴った。
「『頭痛が痛くなってきたので、今日は部活を休みます』だってよ。なんかこれ日本語がおかしくねえか?」
「頭痛が痛いって、意味が被ってますよね。メールを送ってきた時間も遅すぎるし、本当かどうかわかりませんね……今日は」
俺の予想では彩乃先輩は黒だ。まるで、遥が休むのを事前に知っていたかのよう。
「彩乃先輩の件は明日直接本人に聞けばいいですけど……」
「それは違うな。彩乃はそれも全て見越したうえで、今日休んだ。明日が何曜日かを考えるんだ」
今日は土曜日だ。つまり、明日は日曜日で学校は休み。当然部活もない。
彩乃先輩はいったいどこまで見通しているんだ。
「かといって、彩乃が本当に頭痛を引き起こしているかなんてあたしたちに確認するすべはない。『痛かった』と言われればそれまでだからな」
「それでも、あんな誤字の仕方なんてしますかね?」
「誤字の件だって、『頭が痛くてそこまで考えることができなかった』って言われれば、あたしたちは詰みだ」
彩乃先輩が仮病を使ってでも今日の部活を休みたい理由は何だろうか。
「おい翔真。お前、誰も来ないからってあたしに襲いかかったりすんなよ」
「そそ、そんなことするわけないじゃないですか!」
「そうか……」
「そうですよ……」
いつも通りの下ネタで練り切ろうとした部長だったが、ボケきることが出来ずにそこで話は終わってしまう。
何だこの甘酸っぱい状況は? え? 男なんて気にしてないはずの部長が顔を赤くしてるの!?
なにか話題を振ってこの状況を打破しなければ。
「ところで、部長。あのボードゲームはどこで手に入れたんですか? 学校に初めからあるわけないですし、部長の私物ですか?」
「え? 今更かよ。このボードゲームは部費で買ったんだよ」
は?
「この前の本棚、扇風機、パソコン、テレビは……」
「もちろん部費で買ったよ」
いや、そんなことは当たり前だろ? みたいな顔で言われても。
「うちの部費って結構高いですよね? なんでこんな部活の部費が高いんですか? 下手したら運動部とかよりも高いと思うんですけど」
なんせ、(コンピ研は別だが)部室にはないはずのテレビやパソコンがあるのだ。テレビなんてコンピ研にすらないだろう。
そんなことを考えていると、遠い目になった部長が語り始めた。
「あれは、半年ほど前のことだった……」
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