このバーベキューは何かがおかしい! 1日目(2)
「……ふう、だいぶ食べたな」
いっぱいに膨らんだ腹をさすりながら上を見上げると、沈んだ太陽の代わりと言わんばかりの星が夜空を照らしていた。
名古屋では絶対に見られない景色だな、と思う。
「綺麗だねぇ」
いつの間にか俺の隣に来ていた遥がそう呟く。
草むらに腰を下ろし、両手を背中側に持っていき、体を支える。
遥もこれに倣い、一緒に空を見上げる。
「これぞ、青春って感じだな」
「だねぇ」
「高校生の男女が一緒になって星が埋め尽くす夜の空を見上げる」なんてロマンあふれる雰囲気。
ここから始まるラブコメだってあるだろう。
何なら今から告白シーンに入ったっていいんだ。
しかし、「そんなものクソくらえ」と言わんばかりのムードブレーカーがいるのを忘れてはいけない。
「今、『これぞ◯姦だな』って言った?」
ほら、こんなもん。
「言ってないです! なんべんも言いますけど、こんなにもいい雰囲気なところに下ネタをぶち込んでこないでください!」
「そうか、翔真はぶち込まれるよりもぶち込む方が好きなのか」
「なんというか……もういいです」
俺だってツッコミ疲れをすることはあるんだ。
「あーもう! 部長のせいでせっかくの雰囲気が台無しだよ!」
星に負けないくらいの光を目から放っていた遥さんは、おそらく部長の言った言葉の意味は理解できなかったものの、かなりご立腹のご様子。
「遥ちゃん、そんなにカリカリしないの。怒ってると禿げるわよ」
「うががががががが」
「ちょ、先輩のせいで遥が壊れちゃったじゃないですか! ちょっと、遥をテントまで運んできます」
「おお、すまんな」
俺は遥を背負って、テントの中まで運んで寝かせる。
きっと一日はしゃいで疲れていたのだろうか、すぐに気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
一仕事終えて戻ると、部長と彩乃先輩が何やら話し合っているのが見える。
「あら、翔真くん。ちょうどいいところに来たわね。今ね、由宇と明日の計画について話し合っていたところなのよ」
「明日の計画ですか? 今回は一泊二日ですよ。明日は後片付けをして、帰るだけじゃないんですか?」
このキャンプ場があるのは岐阜県。
隣の県とはいえ、帰りの電車は鈍行のため、名古屋駅までは少し時間がかかる。
なんらおかしいことを言ったつもりはないのに、彩乃先輩からは少し冷ややかな視線を向けられる。
「お前はこのままキャンプを終えてもいいのかよ!?」
一方でそんな視線とは真反対、熱血体育教師並みの熱量で語りかけてくる部長。
「もう一度聞くぞ! お前はこのままキャンプを終わらせてもいいのか!?」
違うな。酔っ払ったおっさん並みの勢いでそう尋ねてくる部長。
しかし、考えるまでもなく俺の答えはすでに決まっている。
「まぁ……別にいいと思いますよ」
「「え?」」
おそらく予想していた答えとは違う答えが返ってきたことに、ただ口を開けることしかできない二人。
そんなに衝撃的なことだろうか。
どちらにせよ、年頃の乙女がそんな顔をするべきでは無いと思う。
「え? いやでも、せっかくキャンプに来たのよ? 翔真くんはもっと刺激的なことをしてみたいと思わないの?」
「えっと、そう言われましても、俺がしたかったのはまったりキャンプなので」
より一層この場が凍り付いたような気がした。
例えるなら、そう。氷河期並み。
「そう……でも残念ね。翔真くん」
「急にどうしたんですか?」
「あなたの望みはもう叶わないの」
ただ一人状況が呑み込めていない俺を差し置いて、空気がズシリと重いものになる。
部長や彩乃先輩の暗い顔がその重さを助長させているようにも思えるが、とりあえず困ったら質問だ。
「え、えっと……どういうことです?」
「死ぬのよ」
短く簡潔な一言。
しかし、俺を動揺させるには十分すぎる言葉だった。
「な、なんの冗談ですか……俺がいきなり死ぬだなんて」
「このキャンプ場に熊と虎とチワワを100匹放ったわ」
察した。
そして、深呼吸を挟み、唾を飲み込んで、口の中を乾かす。
よし、いける。
「うわ、何をするくぁwせdrftgyふじこlp……死んじまったじゃねーか、馬鹿野郎」
言えた。奇跡的に言うことができた。
「さすが翔真君ね。もう一人前のパロネタの使い手よ」
「パロネタの使い手」とは何かを彩乃先輩に詳しく聞きたいところではあるが、部長が話についていけずに寂しそうな顔をしているので、この辺でやめておくことにする。
「ふぅ、やっとで終わったか。まったく、あたしをほったらかして話を進めていくなんて……」
「なんか、すいません」
ていうか、彩乃先輩とのやり取りのせいで話がだいぶ逸れてしまった。
「話を戻しますけど、結局部長は何をしたいんですか?」
部長は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて、堂々と言い放った。
「よくぞ聞いてくれたな、翔真。あたしがやりたかったのは……早朝からの散策だ!」
「……は?」
正直拍子抜けだった。
それと、「おばぁちゃんか」という最悪なツッコミを我慢した俺をほめてください。
「ここまでタメたのに、そんなことだったんですか?」
「そんなこととは失敬な。視界が悪い森の中を歩くなんて、まるで冒険のようじゃないか!」
やはりというか、なんというか、老人というよりも子供っぽいな。
「でも、視界が悪いのに森の中を歩くなんて自殺行為ですよ。あまりにも危険すぎます」
もちろん、散策をすると決めてしまっている部長に俺の言葉が届くはずもなく。
「やると決めたら、やるのだ! そもそも、安全な冒険なんて冒険ではない」
口では言わないが、確認のために言っておくと、俺たちはキャンプをしに来たのであって冒険をしに来たわけではない。
部長専用のストッパーである彩乃先輩はというと、ただため息をついて首を横に振るだけ。
すでに止めて、無理だったから俺のところまで話が来たのだろうと察する。
「……わかりましたよ。じゃあ、明日は何時に出発するんですか?」
部長はしばし黙って考える。
そして、ふと頭をあげて一言。
「五時かな」
生きて帰れるか、それだけが心配だ。
久しぶりです。
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