起床からどこかおかしい!
「――っ! 翔真っ!」
「んあ?」
起きて真っ先に飛び込んでくるのは、何故かしかめっ面の遥の顔。
そして、遥ほどでは無いが、僅かに眉がつり上がっている彩乃先輩と、何やら恥ずかしげな部長の姿も目に飛び込んできた。
「朝っぱらからどうした……って! ななな、なんだよこれ!?」
立ち上がろうとしても何故か立ち上がれない。
その上、まるで全身を縛り付けられているかのような激しい痛みが身体中を駆け巡る。
そこで俺は、自分が布団で簀巻きにされた状態で壁にもたれかかっていることに気がついた。
いや、もたれかかっているという表現よりか、立てかけられていると言った方が正しいか。
「なんだよこれ!? は、私たちのセリフだよ!」
「は?」
「この状況でまだシラを切るつもりなの? 翔真くん?」
「いやいやいや、彩乃先輩まで……ちょっと待ってくださいよ!」
もちろんのことながら俺は無実。
みんなを怒らせるようなことをした記憶を探ってみるが、やはり思い当たる節はない。
「『は?』だの、『待って』だの、他にもっとましな言い訳はないの?」
「言い訳って言われても……」
何をしでかしてしまったのか未だに理解出来ていないのだから、弁解なんて思い浮かぶ訳ないだろ。
なんて言うセリフは言った瞬間、場面が暗転しそうな気がしたので辞めた。
すると、彩乃先輩が無言で近づいてくる。
「じゃあこれはどういうことなのかしら?」
眼前に突きつけられるスマホの画面。
最初は光の反射でよく見えなかったが、タイミングよく雲が太陽を隠したおかげで、はっきりと見えるように――――
「なななななななんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ」
画面には一枚の写真が写っていた。
それも、俺と部長が同じ布団で寝ている写真が。
それだけではなく、部長は俺に抱きつくようにして寝ていた。
「いや待ってください! これだと、部長から俺に抱きついてませんか!?」
「う……それはそうね」
「ということはつまり、俺は悪くない! 無罪!」
「ち、違うわ! 翔真くんは由宇を洗脳して自分の布団へと招いた。そして、きっとあんなことやこんなことをしたのよ! だから、朝起きた時に由宇は夜の記憶がなかった! あなたが悪いのよ! 有罪! ギルティ!」
顔を真っ赤にしてそう捲し立ててくる彩乃先輩。
いつもの平穏な先輩はどこへ消えたのやら。
「翔真……カツ丼食べる?」
「食べんわ。朝から重すぎるだろ」
いや待てよ。
彩乃先輩は「由宇は夜の記憶がなかった」と言っていた。
思い出した! 思い出したぞ!
「すいません。今全てを思い出しました」
「ふぅん。ど、どんな催眠をかけたのかしら?」
「催眠なんてものはかけてませんよ。そう、これは昨日と今日の境目の話です――――」
24時前後に起きたら、枕元に部長がいた事。
部長と話しているうちに、部長が急に眠りに落ちてしまったこと。
俺が布団から退こうとしたら、部長が俺の腰にしがみついてきたこと。
「ということなんです」
「そういえば、由宇はいつも21時には寝るから21時過ぎに起きてるのはおかしいと思ったのよ!」
「そうです。それもこれもアドレナリンの賜物だったわけです」
「じゃあなんで部長は途中で寝ちゃったの?」
「それは、多分疲れだと思うわ」
「ですよね、部長?」
最終確認を取るために、今まで一言も喋ることがなかったサイレント部長へと話を振る。
「あ、いや、うん。元々あたしはなんで翔真の布団にいたかは覚えてなかったけど、寝る直前のことまでは覚えてたぞ」
「え?」
いつもより声はちいさいながらも、重要情報をぶち込んでくる部長。
「そ、それはなんで彩乃先輩たちに言わなかったんですか?」
「いや、言ったけど」
「いや……え?」
この場にいる全員が混乱状態に陥っていた。
特に彩乃先輩なんか、露骨に目をグルグルと回している状態で、日本語になっていない未知の言語を呟き続けている状態。
そこに、今この場においては太陽以上の光を放つ一言が聞こえる。
「あ! もうこんな時間じゃん! 早く行かないと朝食の時間に遅れちゃうよ!」
「ああああぁぁ……あら、それは大変ね、早く行かないとね」
脳天気な遥と、まだ混乱状態から抜け出せていない彩乃先輩が部屋から飛び出していく。
おそらく、彩乃先輩に関しては罪悪感もあったのだろうが。
「それじゃあ、俺たちも行きますか」
「あ、うん。そうだな」
妙に歯切れの悪い部長の返答だったが、とりあえず二人で部屋から出た後に鍵を閉める。
そして、食事場所へと向かおうとしたその時、不意に袖が引っ張られた。
「どうしたんですか? 部長?」
「あ……いや、えと……」
尋ねてみても、はっきりとした答えを返してこない部長。
いつもズケズケと本音を言ってくる部長にしては珍しい様子だ。
ここで急かしても仕方が無いので、敢えて待ってみることにした。
「……」
「えっと……」
「…………」
「き、昨日の夜のことなんだが……」
「昨日の夜?」
「あ、ああ! あたしがお前に抱きついたのは、家の抱き枕のせいなんだからな! それだけだ!」
そこまで早口で言い切ると、俺を残して、部長は走り去ってしまった。
残ったのは俺と、この静寂な空気だけ。
「いや、なんだったんだ。今までの時間は」
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合宿中……同じ布団で寝て何も起きないはずがなく……
いえ、本当に何も起きてませんが。
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