深夜の部長はどこかおかしい
色々あったが、寝る場所は奥の窓側から「俺、遥、彩乃先輩、部長」という順番に決定。
それから軽い枕投げなどはあったものの、疲れのせいなのか、比較的早くに全員が眠りについた。
ただ、俺は完全に寝付くことはできなかったようで、ふと夜中に目が覚めてしまった。
「メガネメガネ……」
誰も見てないであろうこの時間にド定番ネタを披露してみる。
まぁ、俺はメガネなんぞかけていないのだが。
「あっはっは」
「なにしょーもないギャグって笑っとるんだ」
本来ならばこんな真夜中に聞こえるはずのない声。
それが頭の上の方から聞こえてきて、思わず体を起こして振り向いてみると、浴衣姿の部長が枕元に座っていた。
「げえっ、部長!」
「そのネタ最近はあんま伝わらないからな?」
「俺のネタはどうだっていいんです」
「いやお前が面白くないやつになるのを阻止する義務があたしにはあるからな」
「今この時、他にもっと大事なことがあるはずです!」
「というと?」
そう言って、何やら面白そうにこちらを見つめてくる部長。
「部長はこんな時間に起きてたらダメですよ!」
「おいどういう意味だコラ」
「彩乃先輩言ってましたよ。部長はいつも九時に寝てるんだって(第8話参照)」
「いやいやいや、このオトナなあたしがそんな時間に寝てるわけないから」
「セノ〇ック飲んでるとも――――」
「それ以上言ったらそこの窓から放り捨てるからな?」
「もうやめときます」
部長の圧に俺が負けたところでこの掛け合いは一区切りがつき、部長は「はぁ」と少し大きめのため息をつく。
「ため息を吐くと、幸せも吐いちゃうらしいですよ」
「安心しろ。あたしは今めちゃくちゃに幸せだから」
「そそそそそそれって…………」
「な、なんだよ?」
俺は混乱しながらも、何とかその言葉を口にした。
「愛の、告白?」
「ちゃうわ!」
「しー。みんなが起きちゃいますってば」
「う……それはそうだな」
エセ関西弁を使ってしまうほどには謎に興奮している部長をなだめると、納得はしていなかった様子ではあったものの、一応落ち着いた。
「ったく、せっかくこんな非日常を経験できているっていうのに、お前は変わらねぇな」
「確かに普段だったら浴衣姿の部長とこんな夜中に二人っきりで話すなんて機会ないですからね」
そう言われて、改めて部長を見つめなおしてみると、窓から入ってくる微かな月明かりに照らされた部長の姿はなんだかいつもとは違う気がした。
これといった適格な言葉を俺が知っていればよかったのだが、あいにく俺はそんな粋な言葉を知らない。
だから、俺は俺なりの言葉で感想を伝えることにした。
「なんていうか……俺から見た部長っていつも輝いているんですけど、今の部長はいつもとは違う輝き方をしているように思います」
「はぁ? 気恥ずかしいような気恥ずかしくないような感想だな」
「すいません」
「謝ることはないけど、その輝きとやらが月の光の反射とか言ったらマジでぶっ〇すとこだったわ」
めっちゃ危なかったじゃん。
この僅か一瞬の間に命の危機に晒されて、その危機を回避していたと思うと、動悸が収まらない。
大丈夫か俺、変な冷や汗かいてないよな?
「まぁ、あたしはお前らの部長だからな」
「…………」
「あたしが輝かなくて誰が輝くんだよ?」
「……そうですね、正直たまに暴れすぎて怖くなる時はありますけど、自由な部長を見てると元気づけられると言いますか」
「すぅすぅ」
「あれ!?」
気づけば俺の布団に潜りこんでいた部長は寝息をたてて安らかに眠っていた。
「え!? 今めっちゃいいこと言おうとしてたのに、ここで寝るか普通!? そもそも、あのタイミングでなんで寝ようと思ったんだ!」
「すぅすぅ」
少しして心が落ち着いてくると、寝てる人にどれだけ叫んでも無駄だということに気が付いた。
そして、仕方なく代わりに部長が寝る予定だった布団へと向かおうとしたその時。
「んんっ」
「ちょっ!?」
まるで俺がここから離れるのを阻止するかのように、腰のあたりに部長が抱き着いてくる。
もちろん、部長は寝ているので、おそらく抱き枕と勘違いしているとかそんなところだろう。
「うーん。無理やり剝がすわけにもいかないしなぁ」
じっと部長の寝顔を見つめてみたが、それで何かが変わるわけでもなく。
「俺もここで寝るしかないか……」
明日のことは明日の俺に任せればいい。
それに、何かあれば俺たちの光である部長が守ってくれるに違いない。
そう思い込むことにした俺は同じように布団に入ると、静かに瞼を閉じた。
読んで頂きありがとうございます!
自由部の夏合宿はちょうど折り返しです。
まだまだ読みどころ満載の自由部譚にお付き合いください。
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