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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい


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テーブルテニスはどこかおかしい! 後編

 彩乃先輩と部長の三年生対決は、5-9と点数を見れば部長の圧勝だが、ついさっきの一点(前回参照)により、流れは若干彩乃先輩側へと傾きつつあった。


「兎は眠ったのよ」


 コンコンコンと机に打ち付けていたボールを手のひらに乗せ、部長の方を見据える彩乃先輩。

 本当に少しだけの静寂が空間を支配した後、ボールが上がった。


「必殺!」

「ひ、必殺技?」

「兎飛び!」

「っ!?」


 ほぼ垂直に振り下ろされた彩乃先輩のラケットに叩かれたボールは天井スレスレの高さまで上がる。

 というか、「兎は眠った」なんてカッコつけたセリフの後に、その必殺技名を使うのはどうなのか。


「インしたか?」

「いや、ワンチャンこのボールは出るんじゃない?」


 俺も遥もどうなるのか予測が出来ない打球は、部長のコートの右手の端に当たると、無惨にもコンコンと音をたてて跳ねていってしまった。


「これでまた一点返したわよ」

「ふ、ふんっ! こっちにはまだ三点あるんだ。それに、次も同じ手が通じると思うなよ?」

「使わないわよ。同じ技を使っても面白くないでしょ?」

「言ってくれるなっ!」


 その後の部長は、彩乃先輩の一度わざとラケットを空振りする詐欺サーブで一点。

 普通のラリーで一点を落とした。

 彩乃先輩が体を揺らすのに連動して、大きな胸もたぷりと揺れる姿に「眼福だ」なんて見とれていると、知らぬ間に近くへ寄ってきていた遥に頭を引っ叩たかれた。


「エロ翔真」

「マジすんませんした」


 と、こんなことを俺たちがしている間にも試合は進行していく。


「これでもう一点差だけど?」

「やるな……彩乃っ」

「まだまだこの勢いは止まらないわ」


 そうして放たれたサーブは、回転だけの話で言うと、上手くかかっていた。

 しかし、勢いがなかったために、明らかに部長の左手側へと曲がっていくと予想出来てしまうよう。

 それは部長も然りだったようで――――


「しめたっ!」

「くっ」


 球の変化まで完全に予測したうえで、飛んでくる位置に回り込む。

 そして、ワンバウンドするのを待ってから少し引いていたラケットを前へ振り出す。

 ここまで完璧だった部長のショットはベストショットになるはずだった。

 

「え?」

「え? は? ぬぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 そう。

 あくまでも「はず」だっただけで、実際のところあまりに低弾道すぎた打球は、彩乃先輩側のコートに到達することなく、ネットにかかって力尽きた。


「由宇……」

「違うから!」


 何が違うのか全く分からない否定をする部長。

 少なくとも、遥を片手で捻り潰した上に彩乃先輩相手にも圧倒的優勢を誇っていた時の部長とは別人のようなプレーではあったのは確か。


「部長どうしちゃったんだろうね?」

「さっきまでの部長は押せ押せムードだったからなぁ。今は完全に彩乃先輩のペースに飲まれてる」

「まぁ私としては長月先輩に勝ってほしいんだけど……」

「でも、自分のペースをここまで見失ってるのを見ると、なんか違和感というか、何かしらの原因があると思うんだよなぁ」

「わかるぅ」


 彩乃先輩に勝ってほしいのは山々だが、部長を応援したいというこの気持ちも間違いない本心。

 そこで俺は何とかしてその原因を見つけようと、部長の観察を開始したのだが――――

 

「ん?」


 意外にもすぐにそれを見つけることができた。

 まず、カギとなったのは視線。

 部長の視線の先は白い球でも、彩乃先輩の顔でもなく、その少し下にある浴衣に包まれた二つのメロン。

 歴戦の猛者である俺ですら目を奪われてしまったその代物は、対戦相手のプレーにまで影響を及ぼしていたのだ。


「いや、エロオヤジかよ……」


 そう小さく呟いてから、俺はまた新たな事実に気がついた。

 当然と言われれば、当然の話なのだが、部長が彩乃先輩の胸に視線を取られているのは、そのエロさ故ではない。

 揺れない自分の胸と比較して、落ち込んでいるのだ。

 世には「そんなことで?」と思う人がいるかもしれないが、そんなことでへこむ人もいるということを部長のためにも覚えておいてほしい。


「あっ!」

「これで逆転。しかも、あと一点で勝利よ」

「まだわかんないぞ……」


 さらに一点を彩乃先輩が追加したことにより、9-10とついにスコアが逆転した。

 あと一点彩乃先輩がとれば、この勝負は部長の逆転敗北で終わる。


「部長!」

「な、なんだ!? どうした、翔真?」

「お、俺は……」

「俺は?」

「俺は部長の小さな胸も好きですから!」


 感情以外のすべてを投げ捨てた俺は、そう叫んだ。


「は? は……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ちょ、どうしたの翔真!?」

「のぼせるってどれだけ怖いことなの……?」


 みんなが驚きの目で俺のことを見ているが、そんなことは知らない。

 大事なのは、俺のこの気持ちを部長に伝えることなんだ。


「俺は大きいのよりも小さいほうが好きなんです! だから! 部長も大きな半球より、小さな完全な球を見てください!」


 言い切った。

 遥も彩乃先輩も未だに驚きを隠せていないどころか、俺の追撃に若干、いやかなり引き気味な様子。

 しかし、うちの部長は違う。


「ったく。伝え方が下手というか、なんというか……」


「やっぱり翔真も変態だな!」


 そう言って二ヒヒと笑った。

 俺のエールによる試合中断はあったが、しばらくして再開された。

 それからの部長は前よりも体にキレがあり、難なくスコアを並ばせると、正攻法で追加の一点をもぎ取った。


「11-10……か。もうそろそろ決めないとな、彩乃?」

「えぇ。由宇はいつまで経っても私に勝てないことを教えてあげないとね」

「あと一点であたしの勝利なんだが?」

「そうね……諦めたらそこで試合終了なのよ」

「なるほどな。じゃあ――――」


 白い球と光る汗が同時に上がる。

 

 部長は白球から目を離すことなく続ける。


「もうゴールしてもいいよな」

読んでいただきありがとうございます! 

意外と長くなってしまった「卓球編」はこれにて終了です。

次回は「乱れる浴衣編」です! お楽しみに!

良ければ、ブクマ登録や評価をお願いします。

どんなことでもいいので感想をお待ちしてます!

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