テーブルテニスは何かがおかしい! 前編
「ふんぬっ!」
「ほわぁぁぁぁ」
残像が見えるような速さで振り下ろされたラケットから放たれた白球は、見事に遥の逆をついて着弾。
そのまま後ろの壁へと跳ねていった。
「この私を負かせるとは……部長、強いですね」
「ふふふ……あたしの実力はこんなものではないぞ! 次! 次の対戦相手はいねぇぇぇがぁぁぁぁ!」
拗らせたナマハゲのような咆哮が卓球場に響き渡る。
「誰か……私の仇を……」
「ここは、この私がその仇! 取らせてもらうわ!」
「ふっふっふ。雑魚が何人何度も立ち向かってこようが同じことよ!」
厨二病真っ盛りの中二男子でさえ恥ずかしくなるような茶番を繰り広げる女子高生三人。
そして、それを見守る男子高生一人という図がどれだけシュールであるだろうか。
俺が恥ずかしさのあまりに脱衣所へと戻った後、温泉でのぼせたのか、浴衣は着ていたものの、入口付近で倒れていたらしい。
そんな俺を介抱してくれていた三人には感謝している。
「ふふふ……あたしのスーパーサーブを受けてみるが良い!」
「長月先輩! 気をつけてください!」
「来なさい! 由宇!」
ただ、一つだけ気になることがある。
それは、目覚めた直後、三人が俺と目を合わせようとしなかったことだ。
それだけならまだしも、チラチラと俺の様子を窺うように見てくるのが厄介。
部長たちのことだから、どうせ何かイタズラをしてきたのだろうが、一体何をされたのか皆目見当もつかない。
「とりゃっ!」
「甘いわね。そこに飛ばしてくるのは予測済みよ!」
「何っ!?」
「はあぁっ!」
「くっ……このあたしから点を取るとはさすがだな……」
そして、その彼女たちはというのも、現在は卓球に白熱している。
異様な回転がかかった部長の球と、まるで分身するかの如くスピードで球の正面に入り、華麗には打ち返す彩乃先輩。
いや、なんだあの技。
分かるのは、常人には絶対に真似することができないということだけ。
「まぁいい。ここからが本番だ」
「望むところよ」
天に昇る白龍をイメージさせるように勢いよく上に上がった球をラケットで叩く部長。
一度コート上で跳ねた球は、素直で綺麗な軌道を描いて彩乃先輩側のコートへ飛んでいく。
「甘いっ!」
そして、当たり前のように球が飛んでくるであろう場所に既に陣取っていた彩乃先輩がラケットを引いた。
その場にいる誰もが部長側のコートに球が返っていくと予想し、その光景を頭の中に浮かべていただろう。
しかし――――
「「なっ!?」」
しかし、現実は違った。
というのも、球は彩乃先輩のラケットで叩かれるのを嫌がるかのように、急ブレーキをかけてストンと垂直落下したのだ。
「一体どういう……」
「彩乃は強いからな。あたしも本気を出さないと、この勝負に負ける」
確かに、珍しく力強く開かれた部長の目からは、言葉通りの本気度が伺えた。
「あたしはこのまま逃げ切る兎になる」
「兎……」
「亀のようにスイングスピードが遅い彩乃じゃ勝ち目はないぞっ」
高々と舞い上がった球は部長に打たれることで、魔球へと変貌を遂げる。
そんなサーブに翻弄され続けた彩乃先輩と部長の試合は4-9と、大差がついていた。
「あと二点、果たして守り切れるかな?」
「翔真くん……」
「はい、翔真です」
「私が本当の逆転劇を今ここで見せてあげるわ」
不敵な笑みを浮かべてそう言った先輩は、ラケットを握り直し、少し崩れた浴衣も直して、部長と対峙する。
「ふんっ!」
毎度のサーブを変わらず放ってくる部長。
一度ネット際で跳ねた球は、またもや先輩の目の前に。
それに対し――――
「いまっ!」
「「「えっ!?」」」
球が落ちる直前にラケットをその下に滑り込ませるように投げた。
俺も遥も、そして、プレイヤーである部長でさえも声を出してしまうような衝撃の策。
しかし、ラケットとぶつかった球は奇跡的に部長側のコートへと返っていく。
ただ、勢いなくコート上で跳ねた球は部長にとって、文字通りの絶好球になっていた。
「まず一点貰った!」
彩乃先輩がラケットを拾う隙も作らせることなく、それでいて、善戦をした彩乃先輩を称えるかのように、軽く球を叩く。
さすがにこれはキツい。
そもそもラケットがなければラリーを繋ぐことはできないのだから。
カコンカコン。
「は?」
「これで一点返したわよ、由宇」
音がしたのは部長の側。
球が転がっているのを呆然と見ているだけの部長と、乱れた長い髪を余裕の笑みで整える彩乃先輩。
「えっと……一体全体なんでラケットが立っているんですか?」
倒れていたはずのラケット。
しかも、彩乃先輩の手から離れた上に、コートのど真ん中にあったはずのそれ。
部長の放った球は、倒れていた「はず」のラケットに跳ね返されて、無情にも部長側のコート上で転がることとなったのだ。
「教えてくれ彩乃……何をしたんだ?」
「そうですよ! 私が手も足も出なかった部長にどんな技を?」
部長だけでなく、遥にもネタあかしを頼まれた先輩は、仕方なさそうに話し始めた。
どうやら、ラケットを投げることになった少し前。
つまり、俺にカッコつけていたあの瞬間に、時間差で起動するバネをラケットに取り付けていたらしい。
「なななっ……」
「さすがです! 彩乃先輩!」
「これ、本当に卓球か?」
まぁ、三人が盛り上がってるならいいか……。
「たかが一点! それぐらいくれてやるさ」
「たかが一点、されど一点」
今度は久しぶりに彩乃先輩のサーブターン。
「兎は眠ったのよ」
読んで頂きありがとうございます!
由宇と彩乃の白熱バトルを描くという使命を果たすために書かなければいけないのですが、躍動感を出すの難しいっす。
というわけで、書いているうちに長くなってしまった卓球編は次回へと続きます!
是非、次回も読んでいただけると嬉しいです。
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