松本の夜は何かがおかしい!
遅くなってすいません!
遥が食べたいと言って引かなかった馬刺しをみんなで食べて、松本の観光も十分にした俺たちは宿に戻ってきていた。
「ぬあぁぁぁぁ!」
「ちょっと由宇。あんまり大声を出しすぎると、隣の部屋の人に聞こえちゃうわよ?」
「すぴぃ」
「こいつもう寝てんのか」
「暴れてたから疲れたんでしょう」
俺たちに与えられたのは少し広めの和室。
トイレも風呂も確認したところ、とてもきれいだったのだが、風呂に関しては外に出て少し歩いて行ったところに温泉があるらしい。
しかも、旅館の宿泊者限定の温泉だから人も少ないとのことだった。
そこまではいい。むしろ良すぎるくらいだ。
問題なのは――――
「男女で同じ部屋なんですね」
「ん? 翔真はあたしたちと違う部屋が良かったのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど…………」
「私たちのことを気にかけているなら、それは要らない気づかいよ。部屋を二つもとれば、それだけお金がかかるし、非効率じゃない?」
「そうだぞ。それに、翔真があたしたちを襲うってんなら話は別になってくるが、お前にそんな甲斐性があるとも思えないしな」
優しく説明してくれたり、煽ったりして俺の心配を取り除こうとしてくれる先輩二人だが、まだ俺の心配の種は残っている。
というか、むしろこっちの方が本命だったりする。
「いいじゃねぇか別に。お前はあたしたちとのラッキースケベが楽しめて幸せ、あたしたちはみんなで騒げて幸せ。何がダメなんだ?」
どんどん見当違いな方向にもっていこうとする部長の質問に、無言の指差しで答える。
そして、二人の視線は自然とある一人へとむかっていく。
「あー、なるほどな」
「ええ……なるほど。やっとでわかったわ」
行きの電車でのことを思い出したのか、若干の冷や汗をかいている部長はもちろんだが、未だ遥の被害を直接的に受けていない彩乃先輩でさえ、こういう始末。
「ま、まぁ! 三人もいれば何とかなるだろ!」
「そ、そうね…………あら、もうこんな時間。もうそろそろ夜ご飯の準備をしなくちゃね」
「部屋で食べるんです?」
「そうだぞ、部屋飯だ」
それからしばらくしてから、箸や手拭きを始めとした食事の道具。そして、俺たちの夕飯が机の上に並べられていった。
目の前に並ぶのはぐつぐつと煮えている鍋。
その隣にはきれいな赤色の馬肉。
昼に馬刺しを食べたはずなのに、それでも喉を鳴らしてしまうほど、俺たちの食欲を無理やりにでも引き出してくる凶暴さ。
馬肉……なんて恐ろしい食べ物なんだ。
「それじゃあ、みんな手を合わせろ!」
「「「「いただきまーす!」」」」
「そういえば昼も馬刺し食ったけど、嫌ならあたしが食うぞ?」
「ちょ部長! こっちに箸を伸ばしてこないでください! それに、これは同じ馬でも食べ方違うし」
「じゃあ私がもらうー」
「おいこら、ダメつってんだろ!」
「みんなちゃんと野菜も食べなきゃだめよ?」
「翔真ぁ、私の野菜と翔真のお肉交換しない?」
「お前、絶対に彩乃先輩の話を聞いてなかっただろ」
左を壁にして何とか隣からの箸の侵攻を防ぎ、その間にいい感じになってきた肉を白いご飯と一緒に口へと運ぶ。
「……うんまぁ」
牛肉のように脂っこいわけではなく、かといって味気が無いというわけではない。
いわゆる旨味成分を残したうえで、このさっぱりとした食べやすさを保っているのだ。
刺身でも鍋でもうまいというこの最強の食べ物を絶対に渡すわけにはいかない。
「翔真くんの顔が手負いのヒロインを守ろうとしている時の主人公になっているのはなんでかしら」
「こいつにとっては馬がヒロインなんだろ」
「もしかして巨乳好き!?」
「牛がヒロインならわかるけど、馬でそうはならんやろ」
「なんか普通に傷つくわね」
俺が心地よく食べている間に好き勝手言ってくれている女性陣を横目に、着実と肉を平らげていく。
そしてついに、誰にも取られることなく完食した。
「あっ! 私のお肉が!」
「おい! あたしの肉だろ!」
「どっちの肉でもないわ! これはれっきとした俺の肉なんで、しっかりと残さず食べたまでです」
「クッソ~」
「翔真、お前覚えとけよぉ」
「はいはい、二人は蝋が尽きる前に早く食べてくださいねー」
この時は適当に聞き流していたこの言葉が、後々俺を苦しめることになるとは思いもしなかった。
読んでいただきありがとうございます!
ちなみに、自分が一番好きな肉料理は馬刺しで、次がジンギスカンだったりします(どうでもいい)
次回はきっちりと土曜日に投稿します!
ブクマ登録や評価をもらえるとやる気がでるので、お願いします!




