勘違い者たちはどこかおかしい!
先週に引き続き、遅くなりました!
ひとまず、「知らない誰かと一線を越えてしまったのではないか」という誤解が解けた。
「てか、なんで今更ピルなんか飲まなきゃいけないんだよ」
「今更?」
「おっと、もう同じことは繰り返すなよ。あたしが言いたいのは、もし仮にあたしがチョメチョメしていたとして、なんで今日飲むのかって話だよ」
「確かアフピルって72時間以内に飲めばいいみたいな」
「なんであたしも知らないことをお前が知ってるんだよ。とにかく! あたしはヤッてないし、飲んでもないから! きゃんゆーあんだーすたん?」
「まぁ、からかうのはこの辺までにしておきますよ」
「お前、今度覚えておけよ」
腹の底が冷えるような部長の声に、背中に湿り気を覚えた。
自由部内の他の人だったら、まだここまで恐怖を感じていなかっただろうが、相手は部長である。
会って一年どころか、半年も経っていないはずなのに、辞書まで投げつけてくる明らかにやばい先輩。
しかも、「やばい」の中身は横暴、おかしい、変、変態、怖いなどといったどの語句を入れても的確に本人のことを表せてしまう恐ろしさ。
どうやって許しを請おうか。
と、頭をフル稼働させていると、不意に部室のドアが開いた。
そちらの方を見ると、微かな隙間から顔をのぞかせていた本屋帰りの彩乃先輩。
「ゆ、由宇……」
「な、なんだ?」
まだ廊下にいるからだろうか、いつもよりも少し小さめの声で呼びかける先輩。
そして、それに反応する部長も影響を受けて、声が少し小さくなっている。
この二人を見ていると、まるで予言者のように、この後の展開が映像で頭に浮かんできた。
「えっと……」
「早く言えって。ドアが開きっぱなしだと、冷気が逃げて行っちゃうし……」
「何を言われるかはなんとなく想像がついてるけど」と、早口小声で部長が呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
そりゃ想像つきますよね。
彩乃先輩が言うのを、今か今かと待っている俺たちを焦らすように、もじもじしながらモゴモゴと口を動かしているだけの彩乃先輩。
部長もおそらくツッコミをする準備はできて、落ち着きがない様子。
落ち着きのない二人を見ていると、俺まで心に落ち着きがなくなってしまうような気がしてくる。
そんな無駄な時間を三人で浪費していると、ついに場面が動き出した。
「……避妊はちゃんとしなきゃだめよ?」
「ヤッてねぇよ! 飲んでねぇよ!」
「飲んでない!? 避妊はちゃんとしないと――――」
「何回繰り返すねん。このくだり」
否。動き過ぎてしまった。
というか、これ絶対に俺たちのやり取りを聞いてただろ。
しかも、結構前から。
「彩乃先輩はいつから聞いてたんですか?」
「わ、私? そんな、盗み聞きなんてしてないよ…………由宇が『ピルを飲んでいただけ』って言った時からかな」
「ベストタイミングじゃねぇか馬鹿野郎」
まさか、そこまで早い時間から話を聞いてたというのは予想外だった。
というか。
「先輩は本屋に行ってきたんですよね?」
「一応行ってきたわ」
彩乃先輩の「一応」という言葉が少し引っ掛かったが、あまり気にせずに続ける。
「にしては帰ってくるのが異常に早い気がするんですけど……」
「あっ……あー」
目がスススっとスライドしていく彩乃先輩。
「もしかして、行ってないんですか?」
「いやいや! さっき言った通り、もちろん本屋には行ったのよ? けど……なかったのよね」
「日にち間違えてたとか?」
「……もう売り切れてたの」
「あちゃー」
今日発売で、まだ昼前だというのにもう売り切れていたというのか。
よほど人気な本だったのだろうな。
「帰りに俺も一緒にその本を探しますよ」
「え!? 本当?」
「もちろんです。どんな本か気になりますし」
「ふふ。私のお気に入りのシリーズだから、翔真くんも気に入ると思うわ」
「楽しみです」
これで一件落着ハッピーエンド。
とは、ならなかった。
「…………おい。ちょっと待て」
「はい?」
幽霊や獣でも逃げ出すような声が背後から聞こえてくる。
からかったことについてキレてるのか?
しかし、「果たしてそんなことでこんなに怒るのか」と思うと、違和感がある。
その違和感を解消すべく、振り向くと――――
「翔真ぁぁぁ」
一目見ただけで「あ、これあかんやつや」と悟る。
どこで手に入れたのか、金色の角が上に生えている、赤色の鬼のお面を被った遥の姿がそこにはあった。
「私を差し置いて長月先輩とデートの約束をするとは何事じゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「「誤解だ!」」」
本当の勘違いの恐ろしさを教えられた俺たちであった。
読んでいただきありがとうございます!
夏の一大イベントへと突入させたい気持ちを抑えて執筆してます。
もう少し、夏休みの間の日常をお楽しみください。
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