黄昏部長はどこかおかしい!
遅れてしまって申し訳ありません!
「…………」
「…………」
彩乃先輩が飛び出して行く前から、窓の外をぼんやりと見続けている部長。
その前は宿題をしていたとはいえ、あれだけ騒いでいた中でも沈黙を貫いていたのは初めてかもしれない。
言うまでもなく、場をうるさくさせることには秀でている部長がこうも静かなので、なんとなく落ち着かないような気がする。
「…………」
「…………」
ぴくりと部長が動くのに体が反応したが、何も起きずに終わる。
何が話しかけなければいけない気がするが、どう話しかければいいのか、何を話しかければいいのか、全く分からない。
そして、脳内で議論した結果、部長を見つめるという行為を続行する。
「……綺麗だな」
「何を見てるんですか?」
「はっ!?」
口をついて出てきた言葉に、部長が勢いよく振り返ってきた。
一瞬自分でも何を言ったのか、何が起こったのか分からず、フリーズする。
そんな状態の俺と視線が合った部長はというと。
突然目を白黒させ、慌てた様子で手をブンブンと振り回し始めてしまった。
「あぅあぅぅぅ」
「えっと……俺何か言っちゃいました?」
「いやっ! 言ったというか、別に翔真が悪いことをしたわけではないんだが」
知らず知らずのうちに言葉が漏れ出ていたとはいえ、特別変なことを言ったわけでもない。
ならば、なぜこんなにも部長は慌てているのか、という疑問が浮かんでくる。
しかし、さすがに直接本人に向かって「部長はなんで慌ててるんですかー?」と呑気に訊けるわけもない。
「気になるが、わからない」という何とも言えない苦しさに苛まされていると、口をパクパクと動かしていた部長が微かに声を発した。
何を言っているのか聞き取れないが、俺の予想ではおそらくこうだ。
「べ、別にあたしは鳥を見ていたとかそういうのじゃなくて、び、ビルを見ていただけだよ……」
もちろん学校の敷地の端の方にある部室棟の、しかも、内向きの窓からビルなんかが見えるわけがない。
さらに、アニメなどによくいるツンデレキャラ特有の「最初に本当のことを言って、そのあとにわかりやすい嘘をついて心奪うセリフ」を組み込むことにより、普段の横暴さからは想像ができない可愛さを引き出す。
完璧だ。完璧すぎて、自分が恐ろしい。
「そ、そのっ」
俺の完璧な妄想、いや、先読みが完成したちょうどその時、はっきりと部長が声をあげた。
ついに答え合わせがされるのか。どうせ満点だろうが。
「べ、別にあたしは鳥を見ていたとかそういうのじゃなくて……」
ここまでは俺の予想通りだ。
このまま最後まで行ってくれ!
「ぴ、ピルを飲んでいただけだよ……」
………………………。
「……」
「……」
「…………は?」
今この人はなんと言ったんだ?
少なくとも、俺には理解ができなかった。
俺の耳がおかしくなったのか? いや、そんなわけはない。
俺の脳みそがバグを起こしたのか? いや、正常だ。
俺の妄想が行き過ぎたのか? いや、たぶん違う。
何者かの謀略か? 誰がそんなことをするんだ?
部長は「ピルを飲んでいた」といたのか? そうだ。確かに部長はそう言った。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「落ち着けぇ! 翔真ぁぁぁ!」
「いや、だってだって!」
「あたしが間違えただけなんだって!」
「一夜の過ちを犯した!?」
「言ってない! やってない!」
「ヤッてない?」
「やってない。ヤッてない!」
「ピルは?」
「飲んでないってば!」
「避妊はしなきゃだめですよ」
「まだ言うか。あたしはれっきとした処女だぞ」
「そこまで言うなら……わかりましたよ」
「ったく、乙女になんてことを言わせるんだ、お前は」
どうやら、俺はとんでもない勘違いをしていたようだった。
自分で「ツンデレキャラ特有の~」なんて言っておきながら、しっかりとアニメキャラの主人公になってしまっていたようだ。
部長……恐ろしい子。
読んでいただきありがとうございます。
今回はなかなかテンポがいい回だったと思います。
おっともうそろそろ彩乃が返ってくる頃ですな(次回予告)
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