由宇の昔
今回は完全シリアス回です。
「自由部」というものが作られる三年前。
中学二年生の文月由宇はセーラ服姿。
彼女の周りには三人の友達がいて、登下校やショッピング、その他どこかに遊びに行くときも行動を共にしているぐらいの仲良しメンバーだった。
「今度髙〇屋行かない?」
「何しに行くのー?」
「ただブラブラするだけー」
「お昼ごはんはみんなで食べたいね」
「私はおそばがいいな」
「あたしもあたしもー」
この時の彼女は下ネタなんか知らず、いわゆる健全な中学生だった。
「由宇その服可愛いじゃん」
「え……そうかなぁ」
「ホントじゃん! めっちゃいいね!」
「どこのやつー?」
「えっとねー……」
当時はオシャレに気を使っていた。
みんなで服の見せあいもした。
「この間一組の市村くんがさー、私たちのクラスの岡田さんとデートしてるの見ちゃったんだよねー」
「えー! 熱愛報道……ってこと!?」
「そんなこと言ったら三組の絹山さんは二組の矢野くんに告白したんだってー」
「結果は!?」
「オッケーだったらしいよ!」
「でも、あたしも憧れちゃうなぁ……」
「へー……意外と由宇もそういうの考えるんだー」
「ねー? いがいー」
「ちょっとーどういうことー?」
コイバナだってした。
付き合っている人を見て憧れたりもした。
「由宇ー? 風邪引いたって聞いたから」
「みんなで来たよー」
「へーやっぱり部屋きれいだねー」
「えへへ……ありがとう。みんな……」
「あぁ! 由宇は寝ててよ。病人なんだから!」
風邪をひいたら、他のみんなが見舞いに来てくれて、逆に他の子の見舞いに行ったりもした。
本当に誰が見ても「仲良しだ」と断言するくらいの友情で結ばれた四人組……のはずだった。
「三人……」
「四人じゃダメなんですか⁉」
「私たちいつも一緒なのに」
「あたしたち四人で一つなんです!」
由宇たちの通う中学校は、三年生になると高校受験があるということから、早めの二年生に修学旅行が行われる。
そして、グループの決め方は女子三人と男子三人で一つのグループ。
女子の方はぴったり三の倍数ということから例外はない。
由宇たち四人の懇願むなしく、誰か一人がグループから抜けなければならなかった。
「誰が抜ける?」
「まぁ、この修学旅行で別々になっても私たちは仲良しだけど」
「四人での思い出は作れないよね」
「……あたしが抜けるよ」
「えっ」
「由宇……でもそんなっ」
「でも、誰かが抜けなきゃいけないのは確か」
「……うん。それに、もともと仲のいい三人のグループに入れてもらってたのはあたしだし……」
由宇が抜けるのは嫌だが、かといって代わりに抜けたくはない。
それは三人、いや、本当は由宇もそうだった。
結局、由宇はクラスの「余りもの」が集まるグループに入れられた。
メンバー全員あまりしゃべったことのない人たちばかりで、修学旅行が始まる前から少し憂鬱な気分だった由宇。
いつものメンバーである三人は、由宇を慰めるために、由宇への感謝を込めて、いつも以上に遊びに誘った。
しかし、それによって由宇は心の傷を抉り出して塩をかけられているような痛さを味わう。
修学旅行になってからはより一層辛かった。
バスの前の方の席に座る三人のグループとは反対に、由宇たちのグループはバスの最後尾座席。
前から聞こえてくる楽しそうな笑い声。
旅行の予定を楽しそうに話す声。
耳に入ってくるすべてが由宇の心を握りつぶしに来ていた。
神様はとことん苦しめたいようで、さらに追い打ちをかけてくる。
班の番号が離れているせいで、観光場所を回る順番が違う。
旅館の部屋もほぼ対極の場所にある。
「ああ。なんて残酷なんだろう」
なんどそう思い、なんど一人トイレで呟いただろうか。
そして、何もできないままに修学旅行も終わり、いつもの日々は――――
戻ってこなかった。
由宇も三人も最初なんと声をかければいいかわからず、タイミングを見失えばそれきり。
無理に声をかけに行くよりも、互いに喋らない方が楽に思えてきたのが、終了の合図。
今までは四人でしていた登下校も、ショッピングもしなくなった。
三年生になってクラスがバラバラになるともう赤の他人だった。
去年までアイコンの右上に必ずついていた赤いマークはもう表示されることはない。
二年生の後半から由宇の「思い出」は一切ない。
読んでいただきありがとうございます!
今回は書いてて少し悲しい気持ちになる話でした。
やっぱりこの物語は騒いでなんぼってところありますからね。
これからも由宇への応援をお願いします!
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それではまた次回!