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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい
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遥の補習はどこかおかしい!

新年あけましておめでとうございます!

2023年第一話目をどうぞ!

 テスト返しや終業式といった長期休み前のイベントの終了とともに、俺たちは気分だけでなく、本当の意味で夏休みへと突入した。


「で、どうだったんだ?」

「無事休日出勤が決まりましたとさ」

「……はぁ」


 とはいえ、こうなることはテスト終了直後の遥の感覚から予想されていたことなので、特別驚くようなことでも、動揺するようなことでもない。

 その証拠に、遥も俺もいつも通り。

 しかし、ただ一つだけ問題があるとするならば――――


「遥! 遥はいるか⁉」


 談笑やら何やらしていたクラスメイトの視線が一斉に教室の入口へと向けられるほどの大声。

 俺もつられて、その身に覚えがありすぎる声の発生源へと目を向けようとする。

 ここであえて「ようとする」なんて表現にしたのは、俺が視線を向けきるのよりも先に、こちらへと近づいてきていたから。


「部長。呼ぶのはいいんですけど、もうちょっと音量を下げることはできませんかね?」

「あ? 大は小を兼ねる、って言うだろ? そういうことだよ」

「そのことわざってそういうことじゃないと思うんですが」

「それよりも! 遥……テストの結果は?」


 俺のツッコミを遮って部長は遥へとそう質問する。

 そして、まるで合格発表前の受験生のように両手を組んで、遥の返答を待つ。


「えっとー非常に言いにくいんですけど」

「遥は補習にかかったそうですよ」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

「ちょっと! なんで翔真が言うの!?」

「由宇! 翔真くんに大声を上げないでって言われてるでしょ!」

 

 教室……の一角はすぐに阿鼻叫喚の地獄へと変わった。

 周りからの視線を気にすることを忘れてしまったらしい三人は気にせず騒いでいるが、「なぜ止めないんだ」や「早く止めろ」だとかいう視線を一身に受けている俺からすると、非常に居心地が悪い。

 さすがに何もせずに黙って見ているわけにもいかないので、仕方なく動くことにした。


「部長は暴れないで! 遥は黙れ! 彩乃先輩も一旦落ち着いてください」

「「「はい」」」


 俺が一喝すると、三人はシュンとして、今までが嘘かのように静かになる。

 もしかしたら、この人たちの前世は犬だったのかもしれない。


「まずは部長ですけど、遥が補習にかかったせいで予定が狂ってしまったのは分かります。それで混乱してしまったのも。しかし、夏休みは長く、一か月ちょいはありますよね? なら、十分部長がやりたいことはできるのではないでしょうか?」

「お、おう。翔真の言うとおりだ」


「次に遥。お前は単純にうるさいから黙っておくように。騒ぐ暇があったらテストの見直しでもしなさい」

「はい……ママ」

「誰がママじゃ」

「じゃあパパ!」

「勉強しろ」


「最後に彩乃先輩ですね」

「えぇ」

「部長を止めてもらうのはありがたいんですけど、その結果彩乃先輩まで騒いでしまっていては意味がないと思うんです。俺も手伝いますから、一緒に部長の暴走を止める方法を探しましょう」

「ありがとう翔真くん。あなたのおかげで新しい趣味に目覚めそうだわ」

「お願いですから、なんとか踏みとどまってください」


 約一名再度暴れだしてしまったが、なぜか手元にあったガムテープで口と塞いで手足を縛ると、やっとで静かになった。


「ちなみになんだけど、遥は何点足らずに補習にかかったんだ? というか何で補習にかかったんだ?」


 そもそも補習がある科目は限られる。

 俺の記憶が正しければ、数学、国語、英語、物理だけだったはず。


「今回も全部の補習にかかってるけど……」

「遥ちゃんはそれでよくこの高校に受かったわね」

「一か月前から人生で初めて勉強を死ぬ気でやりましたからね」

「それで受かるなら、補習になんかかからないと思うんだけど……」


 遥のカミングアウトに若干引き気味の彩乃先輩だが、実際この湯京高校の偏差値は決して低いわけでもない。

 だから、遥が一か月漬けで合格したと知った時には俺も驚いた。

 高校入学してから遥の勉強に対する姿勢・成績が改善されればよかったのだが、結局変わらなかったか。


「点数は……えっと、数学が五点足りなくて、国語は二点、英語は四点、物理は一点だったはず」


 地面に横たわっていた部長が唐突に手足のガムテープを引き裂いて立ち上がる。


「んぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! んー!」

「由宇、口のガムテープ外してから喋りなさい」

「ぷはぁ! 新鮮な空気は美味いな。じゃなくて、それなら逆転の可能性はあるぞ!」

「逆転……ですか?」


 不思議そうに聞き返す遥に、「そうだ」とドヤ顔の部長。


「ただ、これには遥の解答欄が既に埋まっていることが条件だ」

「一応解答欄には何か書いてありますけど、ほとんどバツですよ?」

「むしろ、そっちの方がいい。それならいけるぞ。答えと遥の解答用紙を見せてくれ」


 それらを受け取ると、顔が引っ付いてしまうほどに近づけて、凝視し始める部長。

 ここにいる誰もがただ黙って見ていることしか出来なかった。


「よし、まずは一つ目!」

「一つ目! は別にいいんですけど、さっきから何をしてるんですか?」

「そんなの決まってんだろ?」

「決まってないから聞いてるんですけど、そうですね……解答を書き換えてるんですか?」

「いや、それは最終手段だから、まだ早い。それよりも先にやることがある」

「先……ですか」

「どうしようもない鈍ちん野郎に仕方なく教えてやろう」


 もうそろそろ俺はこの人をしばいても怒られないと思うのだが。


「あたしが今しているのは採点ミス探しだ」


 もったいぶって、ついに答えを言った部長だったが、普通……というよりしなければならない行為だった。


「えっと……それくらいはさすがに遥もしてると思いますよ? なぁ遥?」

「え? してないけど……」


 嘘やん。

 当然のように答える遥の様子に驚きを隠しきれない俺。

 その一方で「ほらな?」とドヤ顔の部長。


「と、とりあえず遥ちゃんがやっていないのなら、やってみる価値は十分にあると思うわ」


 そう話をまとめてくれた彩乃先輩もなるべく冷静を装っているが、目や声から驚きを覚えているのは確かだった。

 もちろん、俺は先輩の意見に賛成なので、全員で採点ミスを探すことになった。


 そして、この作業が始まって三十分後。

 

「ダメだ! 最後の一つがどうしても見つけられない」

「私の方もダメだったわ……」

「俺もです」

「私も同じく収穫はなしですね」


 国語、英語、物理はなぜか何とかなってしまった。

 特に国語は採点ミスが異様に多くて、あの部長でさえ少し引いていたぐらい。


「それなのに、数学はなんでこんなにも採点ミスがないんだ!?」

「由宇、これは最終兵器を使うしかないわ」

「あぁ……あたしもこれを使うのは不本意なんだがな」

「つ、ついにやってしまうんですか……?」

「ああ、しかし、これで遥は合格だ!」

「「「おお!」」」

「行くぞ! お前ら!」

「おお!」


 部長の勢いに乗せられた俺たちは、そのあと不正がばれて、こってりと先生から絞られることとなった。

読んでいただきありがとうございます!

不正はだめですよ、不正は。

よい子はマネしないでね!

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