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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい
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期末終わりもやはりおかしい!

「はーい終わりー。後ろの席の人は解答用紙を集めてきてねー」


 チャイムと先生の声が教室に響くのと同時に、俺たちは緊張から解放された。

 そして、何よりこのチャイムは、高校に入って初めての期末試験が終わり、ついに待ちに待った夏休みが始まるという合図でもある。


「いやぁ終わった終わったー」


 俺の席に近づいてきた遥が満面の笑みでリズミカルにそう告げてくる。

 一見すると、手応えがあったかのように思わせるこの笑顔。

 しかし、俺は知っている。


「で、テストはどうだった?」

「いやぁオワッタオワッター」

「やっぱりか」


 本来、当たり前であってはいけないのだが、実際に追試・補習をコンプリートした実績を持つこの如月遥。急に点数が跳ね上がる確率なんてないに等しいだろう。

 自分のテストの出来を思い出したのか、少し顔をしかめた遥は逆に聞き返してくる。


「そういう翔真の方はどうなのさ? 実は出来が悪かったり?」

「いや、今回もいつも通りだよ。まぁ、八割弱かなぁ」

「はぁ……翔真は今回も定時退社かぁ……」

「は? 定時退社?」

「うん。だって部活以外で学校に来ることないでしょ?」

「うん。そりゃまぁ……そんで、遥は?」

「私はサービス残業」

「お前よりむしろ先生の方がサービス残業だろうな」

「言えてる」


 確かに、遥の言う通り「部活以外で学校に来ること」は無いかもしれないが、一学期過ごしてみて、なんとなく夏休みの光景が浮かんでくる。

 例えば――――


『あーあー。一年の新月翔真と如月遥は終礼後直ぐに自由部室に来るように……あっ、せんせっ』


 唐突に放送がついて、我らが部長の声に続いてドアの開く音、男性教師の声、そして最後に部長の声が聞こえてきたと思ったら、プツリと消えた。


「なんて言うか……よく潰れないよね。この部」

「部長たちが卒業するまで続いてるといいな……」



 終礼後。俺たちは放送通りに部室へと向かった。

 どうしても放送しなければいけないほど重要なことなのか、はたまたいつもの部長の暴走なのか。

 すでに中に人の気配がする部室のドアを開けると、スカートを履いているのにも関わらず、足を組んで王様座りをしている部長が正面に見えた。


「遅いぞ! お前ら!」

「いや、遅いって言われましても……」

「そうですよ、部長。というか、さっきの放送は一体何だったんですか?」

「ん? ああ、あれは単に放送で言いたかっただけだよ。怒られはしたけど、別に反省文とかにもなってないし」

「反省文にならなければいい、ってわけではないと思うんですけどね……そもそもメールとか電話で言ってくれればよかったのに」

「だから言っただろ? ただあたしがやりたかっただけだって」


 なんというか、あまりにも自由すぎて反応に困るな。

 珍しく部長にツッコんだ遥も結局黙ってしまった。

 そんな沈黙が少し嫌だったのか、「そうそう」と部長が切り出す。


「で、今回呼び出した理由なんだけど」

「「そういえば、呼び出されてたんだった!」」


 部長に言われてここに来た理由を思い出したが、部室の奥で彩乃先輩が漫画を積み上げて読んでいるあたり、さして重大な話ではないのだろう。

 しかし、ここまで来て何も聞かずに帰るわけにもいかないので、

椅子に座って大人しく聞くことにした。


「……それで、あたしが話したいのは夏休み中のことだ」

「夏休み中? でも、どうせ夏休み関係なく活動するんじゃないんですか?」


 少なくとも俺はそう思っていたのだが、まさか違うのだろうか。


「何を言っているんだ。お前は。そんなのは当たり前のことだろ」

「当たり前ですか。そうですか。いやまぁ予想通りですけど……」

「だから、その活動内容について話し合いたいんだよ」

「活動内容って言っても、どうせここで駄弁ったり、ゲームしたりとかですよね?」

「は?」


 その瞬間、室内の空気が明らかに変わった。

 そして、部長がまるで自分には理解できない何かを見るようにして、尋ねてくる。


「それ……本気で言っているのか?」

「本気というか……なんとなく、そう思っただけで……」

「あたしは残念だよ」


 俺の言葉に、食い気味に部長が被せてくる。

 その声には悲しみがこもっているようにも思えた。


「翔真。一人一人の女性を愛さなければいけないのと同じように、あたしたちは過ぎ去っていく一日一日を愛して、楽しまなければいけないんだ」

「は、はぁ?」

「お前だってアニメを見て、漫画やラノベを読む少年だろ?」

「ええ、そうですが……」

「ならば、わかるはず。『夏休みと言えば』というイベントが」


 ああ、そういうことだったのか。

 「夏休み」「イベント」という単語を並べられたことで、俺はやっとで察する。


「ふふ。お前もついに理解したようだな」

「ええ、部長。視界が開けたような気がしますよ」


 部長がニヤニヤとこちらを見てくるが、きっと今の俺もさして変わらない顔になっているのだろう。

 ここまで来たら、俺と部長は一心同体。以心伝心。

 気がつけば、俺と部長は揃って立ち上がっていた。


「夏と言えば!」

「海だ! お泊まりだ!」

「イベントと言えば!」

「ポロリだ! 告白だ!」

「行くぞ! 翔真!」

「ついて行きます! 部長!」


 彩乃先輩なら、俺たちの考えに共感してくれるはず。

 そして、遥もきっと肯定してくれるだろう。

 ならば、止まる理由はない。むしろ、泊まる理由しかない。


「あたしたちは行くぞぉぉぉぉぉぉ」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


「あっ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけど……」


 俺たちの魂からの咆哮。そして、自らへの鼓舞を遮る声が隣から聞こえてくる。


「えーっと、私多分補習だから夏休みの前半は潰れるかなぁーなんて……」


 俺としたことがそんな大事なことを見落としていたとは。

 今まで頭の中を支配していた熱が冷めていく感覚と同時に、冷静な思考が戻ってきた。

 黙ってしまった部長は大丈夫かと思い、目を向けると――――


「あがっあがががががが」

「部長の脳内処理が追いつかずに壊れた!?」

「長月先輩! 漫画なんて読んでないで助けに来てください!」

「私は本の虫……私は本の虫……私は虫……虫虫虫……」

「本の虫ってそういうことじゃないですから!」

「あー! 翔真翔真! 部長が白目に!」

「戻ってきてください、ぶちょぉぉぉぉぉぉ」


 今年はどうか楽しい夏休みになりますように。

3週間ぶりです!

まぁ色々と予定が立て込んだせいでこんな悲惨なことになってしまいましたが……次回から夏休み編が始まります。


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