夏の暑さはやっぱりおかしい!
「暑い……暑すぎるだろ……」
「エアコンつけてるのになんでこんなに暑いんでしょうね」
「あわわわわわわわわ」
エアコンを強風の冷房設定でつけて、扇風機まで回しているものの暑い今日この頃。皆様はどのようにお過ごしでしょうか?
ちなみに、俺は少しでも冷たさを享受するために、机の脚にしがみついてます。
「おい、翔真ぁ。それはさすがに変態すぎないか?」
「逆にどこにいればいいんですか?」
「冷凍庫の中とか?」
「それ涼しいとか冷たいとか、そう次元を超えてくると思うんですよ」
おそらく入るのが冷蔵庫でもかなり寒いと思うし、そもそも体の小さい部長ならばともかくとして俺が冷凍庫や冷蔵庫に入ることは無理だろう。
「ふんぬっ!」
「いってぇぇぇ! 何するんですか! ていうかなんで広〇苑?」
俺の頭に上から飛んできたみんな大好き特大辞書が激突する。
ただでさえ暑すぎておかしくなっている頭にあまり刺激を与えないで欲しいのだが、部長の投げた広〇苑は見事俺の頭にヒットしてしまった。
「私の手の届くいいところにあったからだよ」
近くにあるからといって人に投げていいものではない気がするのは俺だけなのだろうか。
「そもそもですけど、なんでこんな凶器を投げてくるんです?」
「おう、お前の頭が一番わかってると思うんだけどな……次は漢〇林行くからな?」
「すんません、もう勘弁してください」
「わかったなら良し」
俺の懸命の謝罪を受け入れて、一旦落ち着いたパワハラ部長。
そして、俺たちがこんな騒がしいことをしている一方で、ただひたすらに扇風機の前に居座る同級生が一人。
「なぁ、遥。お前がそこにいるせいで俺のほうに風が来ないんだけど」
「あわわわわわわわわって、いいじゃん。翔真にはその机があるでしょ?」
「少しでも体の熱を逃がそうとしてここにしがみついてるのは確かだけど、それでも、机の脚と扇風機を同等に考えるなよ」
「そんなこと言われたって、ここ以外に居場所ないし―……あわわわわわ」
また大口を開けて扇風機のほうへと向き直る遥。
そうすると、めちゃくちゃ涼しいのは分かるんだけど、絶対口の中乾くだろうな。
話は変わって、外はもちろんのことながら普段使っている教室も暑く、部室も最初入ったときはとても快適だった。
しかし、少しでも快適な環境に置かれたら、もっと快適になりたいと思うのが人。
だんだんとこの部屋の中も暑いと感じるようになってしまい、今に至る。
「ぶちょーなんか涼しくなる方法とか思いつきません?」
「あるぞ」
「え、あるんですか!」
「お前、なんでもいいかギャグを言え」
「………………へ?」
「はい、ごー……よーん……さーん……」
「ちょっ! え? 急にそんなこと言われても!」
「……にー……いーち……」
「わかりました! 言いますよ!」
「よし! それじゃあどうぞ!」
「…………アサシン、朝死んだんだって……」
もうお察しの通り、部屋が静まり返った。
扇風機の羽が回る音や、エアコンから出てくる風の音がやけにうるさく聞こえるほどには。
「た、確かに寒くなっただろ? 心が……」
「あ、あわわわわわわわ」
「部長! フォローになってません! 遥も無理に声を出さなくてもいいから! なんか別の意味に聞こえてくるし!」
あまりにもこの世の中は理不尽すぎる。
満遍なく風を届けてくれるはずの扇風機は遥によって占領せれているし。
満遍なく部屋中に冷気を行きわたらせるために、上に設置されているはずのエアコンは本棚の上に陣取っている部長のせいで、その本来の力を発揮することができていないし。
俺は勝手に滑らされるし。
「わかった! 滑った罰として、近くのコンビニまでアイスを買って来いよ」
「嫌ですよ! 暑いし。俺よりも扇風機を独り占めしている遥のほうが絶対にいいですって」
「えー私も暑いからもうこの部屋から出ていきたくない」
俺が部長に勧めた瞬間、遥からお断りの言葉が飛んできた。
それを聞いた部長が少し勝ち誇ったような顔でこちらを見下ろしてくる。
「だそうだぞ?」
「あーわかりましたよ! 行ってこればいいんでしょう!?」
やけくそになった俺はソファーに立てかけられている自分のカバンの中から財布を取り出して、嫌々ながらも外に出ようとしたその時。
彩乃先輩がちょうどのタイミングで部室にやってきた。
「あ、どもです。彩乃先輩」
「あら? どこに行くのかしら?」
「まぁ、ちょっとコンビニまで」
「そう……行ってらっしゃい。それと、昨日うちにアイス忘れていったわよね? ここの冷凍庫に入れておいたから」
「あ。ありがとうございます……しまった!」
答えてから気づいたが、もう遅い。
「振り向いてはいけない」という俺の中の警告と、「振り向かなければならない」という謎の使命感が争って、後者が勝ってしまった。
どちらにせよ運命は変わらなかっただろうが。
「そうか……そうか……これは親からエロ本を隠すっていうのと同じだよな。ということは、あたしはそのエロ本を没収しなければならないということ……」
「いや、最初から最後までまったく意味がわかりませんし、冷凍庫にアイスを入れたのは彩乃先輩だし」
「へー。昨日翔真は長月先輩とデートしてたんだー。へー」
「いや、デートとか……そういうのではないんだけれど……」
「そうね。家に来ただけよ?」
「あ、彩乃先輩! それは!」
「へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。べっつに私はいいんだけどね? 全然気にしてるわけじゃないんだけど……翔真、ちょっと話があるかな」
「ひぇっ」
最後の底冷えするような冷たい声に背筋が寒くなる。
これアイスはどっちみち部長に食われるだろうし、逃げたほうがいいよな?
でも、カバンは奥にあんのかぁぁぁぁぁぁ!
これは詰み。対戦ありがとうございました。
「ほんとだ! アイスだ!」
「さぁ翔真ぁこっちにきてぇ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁl!」
「あら、エアコンの設定温度二十六度になってるじゃない。なんか暑いと思ったわ」
まだ自由部の暑い一日は続く。
ちなみにですけど、翔真はまだ生きてるので、当然物語は続きます。
誰かに刺されてそのままバッドエンドということはおそらくないので、ご安心を。
というわけで、読んでいただきありがとうございました!
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それではまた次回!