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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい


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この部活の職業シミュレーションは何かおかしい! 遥編

「それじゃあやっていきますか!」

「やっていくのはいいけど、遥は何をするんだよ?」

「あ……」

「いや、考えとけよ」


 そこで何も出てこないあたり、特になりたい職業も方向性もないといったところか。何か助言でもしたほうがいいかな。

 遥はしばし頭を悩ませた末に、ひとつの答えを導き出した。


「私、翔真のお嫁さんになる!」

「小学生か!」


 いや、今どきの小学生でもそんなことは言わないだろう。

 幼稚園児ばりの答えを持ってきた遥に、部長や彩乃先輩はニヤニヤ、いや、ニタニタ……違う、ねっとりとしたようなニチャニチャ笑いを浮かべてこちらを見てくる。


「あらやだ、彩乃さん。あの子あんなこと言っちゃってるわよ」

「ちょっと由宇さん! いいのよ、あの子は純粋なまま育っていけばいいのよ」

「あんたらどこのおばさんですか!?」


 どこかのドラマに出できそうな井戸端会議おばさんを演じ始める上級生二人。

 見方によってはいい人にも嫌な人にもなり得る立ち位置の発言をしてるので、無駄にクオリティが高くて、腹が立つ。


「というか、二人とも何かアドバイスしてあげてくださいよ」

「は? アドバイスぅ? 遥が嫁になりたいって言ってんだからそれでいいだろ」

「そうよ。それはアドバイスという名の強制に他ならないわ」


 真面目な顔になってそう反論してくる部長たちの言っていることは、確かに一理ある。普通の人の場合は、だが。

 遥は違う。さすがに将来の夢がお嫁というのは夢すぎる。

 

「お嫁さん以外に何かなりたいものはないのか? もし、俺のお嫁になるとして、他にもうひとつなりたいものになれるんだ」

「もう……ひとつ?」

「ああ。ふたつセットでお得だ」

「お得……お得……」


 遥はそう言いながら手を細かく動かす。

 ここは追撃するべきだ、と確信した俺はさらに言葉を重ねる。


「プライベートでも仕事でも満足した生活を送りたいでしょう? そんなあなたに! 別の職業を選ぶことをおすすめします!」

「ついにネット通販の宣伝みたいなこと言い出し始めたわね」

「こいつもう末期だろ」


 外野が少しうるさいが、いつもの事なので、反応はしない。

 一方で、分かりやすく息を吸っては吐き、何度も口を開閉させていた遥がパンっと手を合わせて俺たちの注目を集める。


「決めた。私、小学校の先生になるよ」

「遥が……先生……」


 将来の夢をもうひとつ作れ、つまり、変えろ、と言ったのは俺だが、小学校の先生になった遥はむしろ小学生に教えてもらうことの方が多いのではないだろうか。


「……ジー」

「な、なんだよ」

「……ん? いいや、なんか翔真が失礼なことを考えてそうだなぁ……なんて思ってなんかないしー」

「うぐっ……」

「ほら! 図星じゃん!」

「図星を知っているの……じゃなくて……はめやがったな!」

「今度は確信犯だよね!? というか、嵌められたというよりも自爆したんだよね!?」


 遥は頑なに犯行を認めようとしないが、これは確実に罠だ。

 俺が遥なんぞの罠にかかったというのも不本意ではあるが、自爆よりもマシだろう。


「ほら! お前ら早くしろ。時間はあんまりないぞ」

「あっ……すいません」


 部長の呆れたような声で我に返って見ると、ジト目の部長と何やらソワソワしている彩乃先輩。

 どうやら何か言いたそうな様子。


「待って。慌てないで、これは遥ちゃんの罠よ」

「先輩。もう遅いですよ」


 出来れば、俺が引っかかる前に言って欲しかった。いや、引っかかってはいないんだが。

 とはいえ、部長の言う通り、時間があまりないのは確かだ。早く始めなければ。


「遥。スタートしてくれ」

「了解! じゃあ、座って」


 俺が言われた通りに座ると、遥はどこから持ってきたのか、部屋の奥からホワイトボードを持ってきた。


「いや、それどっから……ってもういいか」


 どうせ部長が知らない間に買っていたに決まっている。


「あー……これはね、裏の倉庫から」

「……おい、まさか変なものだったりしないよな?」


 具体的には、何かが取り憑いていたり、呪われていたり、本来国家が秘密裏に所有しているものだったりなど。

 あの某タイムマシーンつきの机が運び込まれるような場所にあったものだから、これもきっと普通のものでは無いのだろう。


「………………多分きっと恐らく想定によると、大方そんな感じかな……うん」

「最初の間が一番怖いし、なんでそんなに断定を避けるの!?」

「翔真。それは多分大丈夫なやつだと思う」

 

 部長が横からホワイトボードもとい、遥をフォローしてくるが、部長も断定してこないので、全くフォローができていない。


「もういいから始めるよ! 起立!」


 いまだ釈然としていない俺に痺れを切らしたのか、遥が無理やり話をさえぎって号令をかける。


「気をつけ! 礼!」

「「お願いしまーす」」


 いつも通りの挨拶を済ませて、俺はゆっくりと席に座る。

 視界の端には少し離れてこちらを見ている部長たち。


「二人は参加しないんですか?」

「あっ……あぁ、あたしたちは遠慮しておくよ」

「そ、そうね、第三者から見た意見も必要よ?」


 そう言い訳する二人だが、明らかに視線が泳いでいる。これは完全に黒だ。

 部長に至ってはニコニコと笑顔を浮かべながら、「地雷臭パネェもんな」などとギリギリ聞き取れるか聞き取れないかぐらいの声で呟いている始末だ。


「はい、それじゃあ……今日の授業は算数!」


 ついに始まってしまった地獄の授業の科目はどうやら算数らしい。

 算数ならそこまで変な問題は出せないと思うから、一安心。


「それじゃあ最初の問題! デデン! 『翔真くんは1個70円のリンゴ8個と1個110円の梨4個を買いに、少し離れたスーパーまで買いに行きました。さて、かかった金額はいくらでしょう?』」


 セルフ効果音と共に出された問題は確かに小学生でも解ける問題だった。

 ここでもまた一安心して、俺は手を上げる。


「はい! 翔真くん!」

「1000円」

「ファイナルアンサー?」

「もちろん」


 遥の最終確認にも自信を持って答えた俺だったが、現実は非情だった。


「はい、不正解」

「いや、なんでだよ! 70×8+110×4で答えは1000円だろ!」

「あー……まだまだ頭が固いよー固いよー翔真くん!」


 大して難しくも複雑でもない問題を解くのに、頭が固いとはどういうことか。

 そんな俺の疑問を解消させるかのように、遥が問題の解説を始める。


「もし翔真くんが少し離れたスーパーまで行くのにタクシーを使ったとすると、発乗乗車料だいたい660円が取られるでしょ? で、『少し離れた』という言葉から、距離はそこまでないことが分かるから、考えるのは発乗乗車料だけ。つまり、その1000円に660円を足して、答えは1660円だよ」

「舐めんな」


 どこの世界に子供にタクシーまで使わせてスーパーまでお使いに行かせる親がいるのだろうか。

 それを伝えると――――


「逆に合計12個の果物を持って、歩いて帰ってこい、っていう親も大概じゃない?」


 と、盛大なブーメランを食らってしまった。

 それはさておき。


「問題が分かりにくいんだよ! というか、文中でタクシーの料金が与えられてないし!」

「うぐっ……でもでも! 自転車で往復とか、動く点Pよりはマシな問題でしょ!」

「うぐぐ……」

「ぐぬぬ……」


 遥のくせに小生意気なことばかり言いやがって。お前はクラスのみんなも公認のアホキャラなのに。


「もういい! 次は国語いくよ!」

「ばっちこーい!」


 ここまで来たからには、絶対に問題を間違えることは出来ない。


「一問目! 『ちみもうりょう』を漢字で書きなさい!」

「は?」

「二問目! 『更科日記』は誰が書いた?」

「んん?」

「三問目! 『山月記』を全部暗唱――――」

「まーて待て待て待て!」


 俺は大声を出し、次から次へと出てくる問題を止めた。

 遥はノリノリだったこともあって、遮られたことに不満を覚えているよう。


「ちょっと! なんで止めるの!?」

「お前がアホみたいな問題ばっか出してくるからだろ! どこの高校生が山月記を暗唱できるって言うんだ!」

「できる人がいるかもしれないじゃん!」

「お前はどうせできないだろ!」

「うぐぐ……」

「ぐぬぬ……」

「ちょ、ちょっと? 二人とも……」


 彩乃先輩の声が聞こえてくるが、それよりも目の前の遥だ。

 いつもはほとんどの追試にかかっているくせに、こういう時だけ意味のわからん問題ばっか出してくるなんて卑怯だ。

 このバカになんて言ってやろうかと考えていると、不意に部室の扉が開いて、見覚えのある茶色の髪が見える。


「お前らーもうそろそろ帰れよー……って今度は何してんだ?」


 入口から顔を覗かせてきたのは顧問である天満月先生。

 相変わらず部活にはなかなか顔を出さないから、珍しい。


「それくらい見てわかるだろ。遥の授業を翔真が受けてるんだよ」

「いや、パッと見ても分からないし……なんでそんなことしてるのかが気になるな」


 「成り行きでこうなりました」としか答えようがないのだが、肝心の部長が「なんでこんなことしてるんだっけ?」なんてふざけたことを言っているので、他に答えられる人と言えば――――


「由宇が『みんなの将来について考えよう』と言い出したので。今は遥ちゃんが小学校の先生役をしていました」

「なるほどな……」


 そうは言いつつも、どこか納得がいってないような表情の先生。


「どうかしたんですか?」

「ん? あーいや、私の勝手な想像だったんだが、てっきりお前らは卒業したあとも『文月と愉快な仲間たち』として大学生活を送るんだろうなぁ、なんて思ってたからな」


 「社会人になってからのことは大学にでも入ってから考えろ」なんて締める先生。

 こうして真面目にアドバイスをされると、腐ってても先生なんだなと思い知らされる。


「まぁ、未来のことなんて分からんし、お前らがどうなろうと私の知ったことでは無いからな……とりあえず早く帰れ。私も早く帰りたい」


 今日もやはり教師としてあるまじき発言を軽々と生徒に言ってくる典型的なダメ教師だった。

 そんなダメ教師に追い立てられるように、俺たちは部室から出て、生徒昇降口へと向かう。

 エアコンのおかげで快適な温度を保っていた部室とは違い、外は夏らしい暑さがあった。


「まぁ、翔真はあたしの会社でこき使ってやるからな」

「翔真くんは私が人体実け……いえ、私の助手として使わせてもらうわ」

「翔真は私の将来の旦那さん確定だから、誰にも渡さないよ?」

「頼むから、俺を自由にさせてくれぇぇぇぇぇ!」


 まだ夢が見られるうちは。

今週は少し遅れてしまって本当に申し訳ありません!

来週はいつも通り13時に投稿します!


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ちなみに、更級日記を書いたのは菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)らしいです

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