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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい


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この部活の職業シミュレーションは何かおかしい! 由宇編

「さっさとやってくぞー」

「ちょいちょいちょいちょい」

「今度はなんだ。毎度毎度うるさいぞ、翔真」

「いや、職業シミュレーションってなんですか」


 毎度毎度安定して変なことを言ってくる部長が、「職業シュミレーションをしよう」と言い出した。

 やるのはいいのだが、「職業シミュレーション」とやらで何をするのかが分からない。


「翔真くん。『職業シミュレーション』というのはね、その名の通り、ある職業になりきってみることよ。よくあるじゃない。実際の職場や、特定の施設で職業体験をするなんてこと」

「なるほど」


 職業体験や職業シミュレーションと聞くと、真面目でお堅いものに聞こえるが、要はごっこ遊びのことだろう。

 まさか高校生にもなって、ごっこ遊びをすることになるとは思ってもいなかったな。

 俺もう帰ろうかな。

 しかし、そんなことを部長が許してくれるはずもなく、俺がそれを口にする前に催促してくる。


「まぁ、細かいことはいいからとりあえずやるぞ」

「やるって言っても……楽に金を稼ぎたいんでしたっけ?」

「ああ。そうだな」

「人生舐めんな」


 思わず出てしまった言葉に俺も驚いたが、部長の驚きは異常で、目をこれでもかと言うぐらい開いて、口も開けっ放し。

 黙っていれば美少女なんだから、そんな顔をしないで欲しい。


「あーやーのー! 翔真が虐めてくる! あいつになんとか言ってくれよぉ」


 部長の立ち直って最初の逃げ先は彩乃先輩。

 縋り付くような目で先輩を見ながら、擦り寄っていく。


「由宇。楽に金を稼ぐことなんてできないわ。誰しも苦労をして、大成しているのよ。あまり人生を舐めないことね」


 しかし、彩乃先輩はそんな部長を突き放すかのように、そう言い放った。

 正面から言葉のボディブローを受けた部長は、足から地面に崩れ落ちる。

 頼みの綱であった親友にまで味方になって貰えなかった部長は、最後の砦である遥の元に。


「遥――――」

「部長……それは無理がありますよ」

「がはっ!」


 これは酷い。

 誰も味方になってくれないというショックのあまり、部長は断末魔をあげて倒れ込む。

 妥当と言えば妥当だが、これではあまりにも可哀想だ。

 俺は頭から捻り出したフォローを部長にする。


「部長。つまり、努力をすればお金は稼げるんですよ。例えば、役職が上がったりしたら――――」

「それだ!」


 それまで沈んでいた部長の顔が一気に明るくなる。

 暗い顔をされているよりはいいはずなのだが、なぜだか嫌な予感がする。この部活で培われた嫌な予感が。


「あたしは社長になる!」

「「「は?」」」


 今度は汚れの一切ない笑顔でそう宣言してくる部長。

 そして、またしても驚き、呆れる俺たち。

 あれ? またオレ何かやっちゃいました?

 頭の中に湧き出てくる彩乃先輩を奥に押し込んで、「よし! やるぞ!」なんて意気込んでいる部長を止めようと、声を上げる。


「ぶ、部長! 俺が言いたいのはそういうことではなくてですね……」

「待ちなさい。翔真くん」


 が、彩乃先輩に待ったをかけられた。

 彩乃先輩は遥と俺を手招きで呼び寄せると、声を小さくして、衝撃的な事実を伝えてきた。


「もう由宇を止めないで欲しいの」

「え? なんでですか?」

「由宇はね。まだ私と会ったばかりの頃、勇者になりたいだの、スライムになりたいだの、海賊になりたいだの、凄かったのよ」


 それは確かに凄いな。

 たしか部長と彩乃先輩が出会ったのが、二人が高校一年の時。

 そんな時期に部長はそんなことを言っていたのか。

 驚きを隠せない俺と笑いを堪えている遥。そして、真面目な顔で淡々と信じられないことを告げてくる彩乃先輩。


「だからね、社長になりたい、というのは由宇史上で最も現実的な願いなのよ。だからお願い。このままにしておいて……私たちのために」


 見た目はクールビューティ、中身はオタクで、謝ること自体そんなになさそうな彩乃先輩にここまで言わせるとは。さすが部長。


「……わ、分かりました。このままでいきましょう」

「助かるわ。遥ちゃんもよろしくね?」

「もちろんです!」


 こうして俺たちの戦い、もといシミュレーションが幕を開けた。




 なんの役職も持たない平社員である俺は、社長室に呼び出されていた。

 少し年季を感じるドアを二回叩いて中に入る。

 開けるとそこには長机が置いてあり、その奥には机に両肘をついた部、社長がいた。


「失礼します」

「ああ、新月くん。来てもらったばかりで申し訳ないんだが……ここはトイレではないんだぞ?」


 入るなり、すぐに俺に向かってそう言ってくる部、社長。何故急にトイレの話をされるかが分からない。


「分からないか……なら、私が教えてやろう」

「……はい」

「ノックの回数の問題だよ。ノック二回はトイレの中に誰かいるか確認する時の回数だ。こういう入室する際の正しいノックの回数は三回だよ。覚えときない」

「おぉ……分かりました」


 珍しく部長がためになることを言ってくれて、俺は素直に感心した。いや、感動してしまった。

 しまった。部長じゃなくて、社長……ってもういいか。

 

「よし、以上だ。もう帰りたまえ」

「はい? 用事があると伺っていたんですが……?」

「あ、あぁ……あぁ……うん。そうだな。ただこれが言いたかっただけだから。どうせ君のことだから引っかかるだろうし」

「えぇ……」


 まさかの知識を披露したかっただけとは。

 部長らしいと言えば、らしいのだが、社長がこれではさすがにダメだろ。

 俺は「ただ社員を呼び出すいい理由が思いつかなかっただけでは」という言葉を無理やり喉の奥にしまいこんだ。

 

「……分かりました。それでは……失礼しました」


 そして、これ以上会話を続けても無駄だと判断した俺が、ドアの方へと振り向いたその時。

 部屋のドアが突然として開き、彩乃先輩が足早に入ってくる。


「社長、事件です!」

「お、おう。どうした?」


 彩乃先輩がここで入ってくるのは、あの部長でも予想外だったらしく、声が少し上ずっていた。

 そういえば、この会社ってなんの会社という設定なんだろう。


「遠くに巨人の姿が現れました」

「は? あっ……な、なんだと……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

「待てないわ、翔真くん。社長! 今すぐ彼らの出動許可を!」


 急に始まった行き先不明の劇に頭が追いつかずに、俺はそれ以上突っ込むことが出来なかった。

 本当になんの会社なんだろう。というか、彼らって誰だ。

 それに、取り繕うように話を続かせた部長だって「は?」と、明らかに動揺してるし。


「あ……えと……そ、そうだな……うん」

「社長! お考え直し下さい!」


 彩乃先輩に対応しきれていない部長に追い討ちをかけるように、今度は遥が部屋に入ってくるなり、そう言う。


「空間震が発生しました! 精霊が来ます! そちらに彼らを!」

「は?」


 続けて発された遥の言葉で、サブカル系に関しては知識があまりない部長の脳と、世界観が雪崩のように崩れていく。

 それと、遥はいつの間そんな知識を植え込まれていたのか気になって仕方がないが、今はこの状況を打破するための策を考えなければ。


 俺を放り出して議論を始める彩乃先輩と遥。

 そして、「あががががが」とオーバーヒートを起こして、言語を発せなくなってしまった部長の間に挟まれる。


「こっちの方がいわよ!」

「何を言ってるんですか!? 長月先輩!」

「あがががががが」


 もうシミュレーションなんて所ではなくなってしまったので、俺は三人に待ったをかける。


「三人とも落ち着いてください! ストップ! ストーップ!」


 久しぶりに出した俺の大声に、三人はハッと我に返る。


「ど、どうしたの? 翔真?」

「しまった……私としたことが……完全に趣旨から外れた行動を取ってしまっていたわ……」

「あがが……あが……あれ? 今どこまで行ったっけ?」

「三人とも暴走し過ぎです。もうちょっと大人しくいきましょう」

「「「ごめんなさい」」」


 さすがに反省したのか、俺に頭を下げてくる暴走族三人衆。

 そのトップは頭をあげると、しみじみと一言呟いた。


「社長って難しいな」

次回は彩乃編です。

金曜ぐらいに出せたらいいな(願望)

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シャチョサンシャチョサン

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