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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい
30/61

先輩たちの助言は何かがおかしい!

 クラブ対抗リレーが始まる前――――


「で、案ってなんなの? 彩乃」


 自由部の助っ人として来ていた睦月さんが催促する。

 確かに、ゆっくりしている時間はあまりない。


「それはね、こちらから攻撃を仕掛けていくというものよ」

「こっちからですか……」

「ええ」


 彩乃先輩以外の全員が一様に黙り込む。

 案としては悪くない。しかし、向こうの目的はただ妨害することではなく、自由部を勝たせないことだ。


「……それを逆手に取られたら、私たちは一発で退場させられるかもしれないわ」

 

 どうやら、睦月さんと考えていることは同じだったらしく、彩乃先輩の意見に反対する。


「でも、妨害をそのまま受けるのは嫌だな」


 遥は今までに様々なスポーツをしてきている。現に高校に入ってからも助っ人として、運動部に駆り出されることもしばしば。

 そんな遥だからこそこれからされるであろう相手のスポーツマンシップに則ってない行為を許せないのだろう。


「部長はどうなんですか?」


 この中でまだ黙っている俺たちのトップは未だ腕を組んで俯いている。

 「この状況で立ちながら寝てるのか?」なんて普通では考えられないことも簡単に出てきてしまう自分が怖い。


「…………お前たちはまだまだひよっこだな」

「はい?」


 部長が偉そうなことを言うのはいつもの事なのに、今回は何故か腹が立ってしまった。

 そんな俺の気持ちなんて知らずに、部長は続ける。


「敵を妨害するのに、わざわざ聞こえる声で言うやつなんかいるかよ」

「……っ!」

「だから、敢えてこちらから攻撃するなんて言語道断だ。それは相手の罠に自分から突っ込んで行くのと同じだ」

「……だったら、部長は何かいい案があるって言うんですか?」

「落ち着け、翔真。お前、さっきからカリカリしすぎだぞ」


 部長に言われて思い直す。

 俺も遥と同じように、他の部活のヤツらに対して多少なりとも怒りを感じているのかもしれない。

 そう意識するのと同時に、怒りが和らいだのがわかった。

 というより、冷静さを取り戻ることができた、という方が正しいかもしれない。


「もちろん。素直にアイツらの妨害を受けるつもりもない。こちらも攻撃を仕掛ける……という点ではあたしの意見は彩乃と同じだ」

「具体的にはどうするつもりなの?」

「簡単な事だよ。先に攻撃させるんだ」

「つまり、その後に私たちもやり返すということですか?」


 そう聞いた遥に「その通りだ」と返す部長の顔はいつになく真面目なものだった。


「相手が攻撃を仕掛けてきたら、あたしたちはそれを理由にやり返す……要は正当防衛の形を取るってことだよ」


 もし指摘されても「先に向こうがやってきたので」と答えることができるという部長の意見。

 しかし、これもこれで穴があるのは確かだと思う。


「まず、攻撃を受けた時点で俺たちは遅れを取る上に、追いつき攻撃できたとして、それを『喧嘩両成敗だから、両方退場』だなんて言われたら元も子もないんじゃ?」

「ああ……だから、あたしたちは相手の攻撃を利用して反撃する。相手が押してきたら引け。相手が隙を見せた時に全力で押すんだ。その瞬間を絶対に逃すなよ」


 たかが体育祭のリレー。されど、体育祭のリレー。

 もちろん俺たちが参加した理由は今も変わっていない。


「千円は必ず手に入れる。それで、あたしの意見に反対するやついる? あるなら言ってくれ。なければ、具体的に説明していく」


 部長が最後の確認としてそう聞くが、みんな口々に「ない」と答える。

 それを見て、部長はさらに話を続ける。


「それじゃあ、具体的な作戦というか……相手の攻撃の対処法を言っていくぞ。まず――――」


 部長はひとつずつ説明していく。


 『相手がバトンを落とそうとしてきた時は、立ち止まってみろ。特に、バトンパスの場所……名前は忘れたけど、あそこの最後らへでそれができると最高だな。確実に相手は体勢を崩すだろ』


 『相手が足を出してコケさせようとしてくる時もあるかもしれんな。その時はちゃんと相手の動きを見て、相手が足を出した瞬間に相手の足を蹴りつけろ。その時相手は絶対に自分を見てきているはずだ。相手もタイミングを図っているはずだしな』


 『あと、靴紐はちゃんと結んどけよ? 走ってる最中に解かれたら、その時点で負けだ。そんなこと起こりえない。なんて思うかもしれないが、相手は無駄に器用な奴らばっかっていうのは頭に入れとけよ』


 いつも通りの部長らしい口調で、細かく丁寧に。

 俺たちはそれを聞いて、頭に入れていく。


「そこまで考えてたなら、部室で言ってくれれば良かったのに」

「いや、部室に睦月いなかったじゃん」

「「「……あ」」」


 彩乃先輩の失言と、部長の指摘によって空気が凍る。

 緊張したり凍ったり、ここの空気は忙しいな。俺たちのせいだけど。


「別にいいのよ……気にしなくても……別に『私が入っていってみんなが白けちゃったらどうしよう』とか考えて行かなかったわけじゃないからね…………とほほ」


 豆腐の如きメンタルを持ってらっしゃる睦月さんは、ドス黒い負のオーラを纏い始めた。

 このままだとリレーに影響しそうだな。

 俺には睦月さんがバトンを落とし、グラウンドに穴を掘っている未来が見える。


「まぁ、今度みんなでまた遊びに行こうな! もちろん睦月も一緒にな!」

「ほんと!? ちゃんと誘ってね!」

 

 部長のナイスフォローのおかげで睦月さんの機嫌は最高に達する。

 ちょろい。

 あの遥や言い出しっぺの部長でさえ苦笑いだ。

 そんな微妙な流れをリセットするためなのか、部長が一度手を叩く。


「まぁ、あたしからは以上だ! 絶対千円を手に入れるぞぉ!」

「「「「おぉー!」」」」


 俺たちの戦いが幕を開ける。

次回からはいつも通りの自由部に戻ります。

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