このボランティア活動は何かがおかしい!
「あたし達はボランティア活動をするべきだと思う」
「何でその結論に至ったかが知りたいです」
いつもの放課後。
湯京高校の部室棟の一階にある自由部の部室で、俺はまたわけの分からないことを言い出した部長と向き合っていた。
「何でって言われてもな…………地域の為?」
「そんなキャラじゃないでしょう」
常人には理解のできないことばかりをして、「もはや周囲の人を困らせるのが趣味なんじゃないか」とまで思わせるほど自由奔放な部長が地域の為なんて思うはずがない。
「ったくあたしのどこをどう見たらそんなことを思えるんだ……」
「部長の日ごろの行いからですかね」
「失礼なヤツめ。あたしがいつ何をしたよ?」
つくづく思うが、この人は本当に日ごろの行いを省みた方がいいと思う。
ちょうどいい機会なので、俺は一つずつ部長の行動を挙げていくことにした。
「例えば、食堂でたまたま会った時に『うわ、金持ってくんの忘れたー』って言いながらこっちをジッと見てきたり」
「し、知り合いがいたら、そっちの方を向くもんだろ」
「ほかにも、『どっかにジュースを奢ってくれる後輩はいないかなぁ』って呟きながら俺に近づいてきたり」
「だっ大事な後輩がいたからな! 少し話そうと思っただけで……」
何とか取り繕うとしている部長ではあるが、俺と視線を合わせない上に、どもっていることからも明らかに動揺しているのがわかる。
というか、一々絡んでくるあたり、そこらのチンピラと大差ないのではないだろうか。
「と、とにかくだな……部長であるあたしがやるといったんだから、ボランティア活動は何としてでもやるからな!」
「そんなぁ」
相変わらず横暴ではあるが、こうも吹っ切られてしまってはもう抵抗しても無駄だ。
しかも、部長のボランティア活動とかいう地雷臭しかしない内容。
俺一人で対応しきるのは不可能なので、できれば他の二人に来てほしい。が、遥からはすでに
『今日はバレー部の助っ人があるから部活には行けない! ごめん!』
とメールが来ているので、残る頼みの綱である彩乃先輩には一刻も早く駆けつけてもらいたい。
そんな必死の願いが天に届いたのか、部室のドアがガラガラと開く。そして、今度はドアが高速で閉まった。
「何で閉めるんですか!」
俺は急いで部室から出て、こちらに背を向けて立ち去ろうとしていた彩乃先輩を捕まえた。
「だって、部室に入ろうとしたら翔真くんが明らかに諦めのオーラを出てるし、由宇がドヤ顔をしてるしで、面倒なことに巻き込まれる予感しかしなかったから仕方ないじゃない」
やはり帰る気だったらしい。
もちろんのことながら、そのまま帰ってもらっては困るので、とりあえず事情を説明することにした。
「……私にも何で由宇がいきなりそんなことを言い出したのかわからないわ」
部室のソファーに腰を落ち着けた彩乃先輩は話を聞き終えると、首を横に振ってそう言った。
「どうして誰も理解してくれないんだ?」
「ど、どうしてって……」
俺に続き、彩乃先輩にまで動機不十分を言い渡されて、肩を落とす部長。
初めて見るその様子に戸惑いを隠せない俺とは違い、対処能力に定評がある彩乃先輩は素早くフォローに入る。
「理由は分からないのは確かだけれども、ボランティア活動自体はいいと思うわ。私達は自由部なんでしょ?」
彩乃先輩の言葉で顔を明るくした部長は、「じゃあ、何をするか話し合おう!」と言って無邪気な笑顔を見せた。
まるで部長を操っているかのような、この早業に半ば引いていると、彩乃先輩が立ち上がってこちらに近づいてくる。
「翔真くん、由宇を手なずけるにはこうするのが一番手っ取り早いのよ」
「……えっ?」
俺の脳がその言葉をやっとで理解した頃には、すでに彩乃先輩も部長も会議の準備を終えていた。
彩乃先輩に目を向けても、ニコリと笑顔を返されるだけ。
「おい翔真。何一人で突っ立ってるんだ。早くこっちに来い」
「は、はい」
結局どういうことか分からず仕舞いだったが、今度また彩乃先輩に聞いてみよう。
そう心に決めて、長机に備えられた席に着いた。
部長はそれを確認してから、改めて議題を発表する。
「さて、自由部によるボランティア活動について話し合うぞ。そうだな……一番遅かった翔真から何か案を言ってくれ」
「お、俺からですか……ここは無難に、公園の清掃ですかね?」
「はぁ? 何言ってんだお前。みんながやるようなことをしてどうすんだよ?」
「いやでも、他に何かあります?」
むしろ、ボランティア活動と言われたらこれ以外に思いつかない。
そんな唯一の案を却下されて、頭を抱える俺に、彩乃先輩がアドバイスをくれた。
「翔真くん、ボランティアは色々なものがあるの。今言ってくれた清掃活動もそうだし、小学生の登校を見守ったり、自由部主催のミニ運動会を開くなどと言うのもあるわ」
「なるほど。つまり、部長は一つのものに囚われるなと言いたいわけですね」
「ええ。きっとそういうことだと思うわ」
てっきり、部長はただの変人だとばかり思っていたが、意外に深いところまで考えていたんだな。まさか、こんなところで部長を見直すことになるとは。
しかし、俺の淡い幻想は次の一言で完全に打ち砕かれることとなる。
「おい、お前らは何を言ってるんだ。勝手にあたしを凄い奴にしないでくれよ。そんなことを思っている訳ないだろ?」
せっかく部長のことを尊敬しかけていたのに、何でそれをぶち壊していくのだろう。
「ち、ちなみに聞きますけど、部長は何をしたいんですか?」
「近所のホテルに行って、隣の部屋にいるカップルに『おい、うるせぇぞ!』って言いながら壁叩きをしたい」
「却下です」
ダメだ。新月市場における部長株の暴落はとどまることを知らない。
「あたしはいいと思ったんだけどなぁ……彩乃はどうだ?」
俺に即ダメ出しを受けた部長は唇を尖らせながら、最後の彩乃先輩にバトンを渡す。
「さっき翔真くんに言ったことが全部なんだけど。そうねぇ……当然由宇の意見は却下にして、最初に翔真くんが言っていたのが一番いいでしょうね」
「ちぇ、面白くないなぁ」
やはり不服そうな部長だったが、二対一により渋々俺の案を採用した。
それから部長と彩乃先輩は活動に関する詳しいことについて話し合いを始めたが、「みんながやるようなことをしてどうすんだよ?」という言葉が頭から離れない。
「やっぱり部の評価をあげるために、学校に言った方がいいと思うんだが」
「それは違うわ。学校に言わずにやることによって、より学校からの評価が上がるのよ。例えるならそうね……『あれ? またいいことやっちゃいました?』みたいなイメージよ」
「なるほど」
やはり、公園の清掃というのはどこかパッとしない。
ここまできてやっとで、部長の言っていたことの理解できた気がする。
他の人でもできることをするのでは意味がない。自由部だからこそ、できること。自由部だからこそ、やらなければいけないことがあるはずだ。
「……部長。ボランティアじゃないですけど、自由部の宣伝を学校内でするというのはどうでしょう?」
「「それだ!」」
こうして、自由部による放送室乗っ取り計画は開始された。
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