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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい
20/61

この部活の体育祭準備はどこかおかしい! 二部目

「よし、まずは走る順番からだな」


 体育祭の部活対抗リレーに出場することになってしまった俺たちは、今ジャージ姿で放課後のグラウンドにやって来ていた。


「いや、確かにそうですけど、その前に人数は大丈夫なんですか?」

「心配ご無用だ。すでに助っ人を呼んでるからな」


 部活対抗リレーは基本的に五人グループで走るのだが、俺達『自由部』は四人しかいないので、一人足りないのだ。

 にしても、部長が呼んできた助っ人って大丈夫なのか?


「あのぉ、部長が呼んできた助っ人ってどなたですか?」


 部長にそう質問したのは、『自由部』屈指の運動神経を誇る俺の幼馴染の遥だった。


「由宇……もしかして、その助っ人って……」


 彩乃先輩のそのつぶやきを聞き取った部長は意味深な笑みを彼女に向けた。


「おっ、やっとで来たか」

「えっ、あれって……」


 グラウンドに颯爽と現れたのはなんと風紀委員の睦月さんだった。

 これから運動するのを考慮してのことか、いつもはハーフアップの髪はお団子になっていた。

 

「私、自由部員じゃないんだけど……」

「何を言ってるんだ、お前は。名誉自由部員だろ?」

「名誉ってなんでしょうね」


 本当におっしゃる通りです。


「というか、本当に私で大丈夫なの? 新月君以外はみんな女子よ? 他の部は男子しか出してこないと思うし、勝ち目はないんじゃない?」

「そうね、ちょっと厳しすぎるくらいよ」

「私がいれば、勝てるよ!」


 一人だけ違うのが混じっていたが、勝ち目はほとんどないだろう。

 でも、部長のことだからきっと姑息な手でも用意して……


「あ、今回は正々堂々と戦うから、よろしく」

「「「え」」」


 聞き間違いかな、きっとそうだろう。うん。今日は家に帰ってから耳鼻科にでも行ってこようかな。


「いやいやいや、無理ですよ! 俺たちが正々堂々戦って勝てるわけないじゃないですか⁉ 部長得意でしょ! ルールのギリギリを攻めるの」

「……翔真、ちょっと向こうでゆっくりとお話ししようか」

 

 すっと、真顔になった部長がゆっくりと近づいてくるが、捕まったら冗談抜きで半死にされそうなので、部長から逃げるためにグラウンドを駆け回る。


「にしても、由宇お得意のルールのギリギリ攻めができないとなると、かなり話が変わって来るわね」

「流石の私がいても難しいですね」

「私はこれでも風紀委員なんだけど、よく私の前でこうも堂々と……」

「公序良俗に反してないからセーフよ」

「確かにそうだけれども!」


 必死に逃げ回る俺を抜きに話を進めていく女子三人組。


「そこの三人組は話しておらずに、俺を助けて! いや、助けてください、お願いします!」


 しかし、俺の叫び声もむなしく、見事に視線をそらされてしまった。ていうか、今ので体力がごっそりと持ってかれて辛い。

 それでも、体を反転させたり、鉄棒を使ったりして、うまい具合に部長から逃げ回っていると、唐突に彩乃先輩が「あっ」と、声を上げた。


「どうした彩乃? もしかして、漏らしたか?」

「そんなわけないでしょう。私としては、由宇が何故その発想に至ったのか知りたいけれど」


 彩乃先輩は一度そこで言葉を切ると、少し逡巡した。


「私たちがズルをせずに、他の部活よりも有利に戦いを進める事ができるかもしれないわ。もちろん、ルールギリギリでもなく」

「さすがだな彩乃。で、その方法は?」

「簡単なことよ。私たちは『自由部』だから運動部限定の部活対抗リレーに参加出来たわけでしょ?」


 部長は静かに頷いて、続きを促す。


「なら、バトンも自由に決めてもいいと思わない?」


 そう言って俺たちにドヤ顔を決めてくる彩乃先輩。

 

「確かに、ナイスアイデアです。彩乃先輩」

「まぁ、いいでしょう」

「翔真がいいって言うなら……」

「どうかしら、由宇?」


 俺たちの賛同を得たうえで、彩乃先輩は改めて部長に確認を取る。


「……うん、それならルール違反ではないな」


 部長が承諾したことで、彩乃先輩の顔に安堵の色があらわれる。

 そこで、俺は追い掛け回されていた時から少し気になっていたことを思い切って部長に聞いてみることにした。


「そういえば、何で今回はイカサマしないんですか?」

「私がいつもしているのはルールのギリギリ内側だから正確にはイカサマではないんだが……そうだな。今回はもちろんイカサマ禁止で、破った場合の罰則まであるんだ」

「その罰則とは……?」

「一か月の部活動禁止だ」

「なっ……」


 ここで「意外にいいかも」と思ってしまったのは俺だけではないだろう。現に遥は少し悩んでいるし、彩乃先輩に至っては空中で何やら計算している。


「お前らも嫌だろ? 部活なくなるの」

「「「……ソウデスネー」」」

「その間はなんだ? とか、なんで棒読みなんだとか色々聞きたいことがあるが……」


 何やら部長が疑いの目を向けてくるが、身に覚えがないので、その視線を受け流しつつ部長にいかさまをさせるように仕向けることにした。


「部長」

「ん? 急にどうした?」

「バレなきゃ犯罪じゃないのよ、由宇」

「うおっ、彩乃まで」


 彩乃先輩。フォローはありがたいんですけど、俺が言おうとしてたことを先に言うのやめてください。


「そうですよ、部長。勝てば官軍負ければ賊軍なんですから」

「私が言うのもなんだけど、お前らも相当曲がってるよな……」


 俺がこんなにも曲がったのはあなたのせいですよ、部長。


「でも……」

「でも、なんですか?」

「私達らしくていいよな」


 そう続けた部長の顔は夕日に照らされて明るく輝いていた。

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