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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい


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18/61

この部室はどこかおかしい! 二部目

 カバンを取り上げられた上に、ドアの鍵をかけられたせいで退路をふさがれた俺。


「で、俺をそこまでして引き留めるなら、仕事をくださいよ。あ、人間ができるレベルの仕事ですよ?」


 結局、逃げるのは諦めて一緒に部室を改造することにした。


「なかなか難しいことを要求してくるな……」


 そう呟くと、部長は少し考えこんで俺に仕事を与えてくる。


「じゃあ、あそこにこのトイレを設置してくれ」

「無理ですが?」


 この人は人間をなんだと思っているのだろう。そういうことを専門でやっている人たちができるのはわかるが、一般の学生がトイレの設置を当たり前のようにできてたまるか。


「えぇ……じゃあ、軽く壁を削ってアニメのキャラの彫刻を作ってくれ」

「もちろん無理ですよ?」

「風呂の設置――――」

「人間っていう生き物を勘違いしてません?」

「窓ガラスを全部防弾性に変えてくれ」

「戦争でも起きるんですか……」

「もう! 翔真は一体何ができるんだよ!?」

「本棚の整理とかちょっとした工作なら大体できるんですけどね。なんで俺ができないことをピンポイントで言ってくるんですか!」


 部長の逆切れに俺も思わず大声で反論してしまう。

 すると、部長は夕焼けで赤く染まった窓の外を見つめながら、ぽつりと呟く。


「あたしはな、お前に期待してるんだよ」

「部長……」

 

 夕焼けを背景にこちらを見て感動的なことを言ってくる部長は美しい…………訳もなく。


「部長、顔がにやけてますよ」


 やっぱり部長は部長だった。

 と、こんなことをしている間にも彩乃先輩がトイレを設置したり、遥が防弾ガラスを調達してきて、それに取り替えたりと、部室の内装が明らかに変化し始めていた。


「待って、なんでみんなこんなこと出来るの?」 


 明らかに女子高校生の常識の範囲を超えている様に思えるんだけど、そう思ってるのは俺だけ?


「うん、だいぶ良くなってきたな。一泊二日で済みそうだな」

「結局俺はいらなかったじゃないですか」


 なんだかんだ自分だけが活躍してない気がして、どうしても自虐的な言い方になってしまう。

 でも、そんな俺を見つめる部長の視線はさっきまでとは異なっていた。

 部長の視線が俺に何を訴えかけているのかはわからなかった。それは呆れとも怒りとも読み取れるもので、あるいはそのどちらも含まれているのかもしれなかった。


「本当にバカだよな、お前って」


 部長の口からいきなり出てきたナチュラルな悪口に少し驚いた。

 しかし、俺の反応を気に留めるわけでもなく、まるで独り言のようにしゃべり続ける。


「人間ってな、大概そういう生き物なんだ。だから、翔真に限った話ではないんだけどな。人ってさ、『自分は他の人と比べて、ここが劣ってる』だの、『自分はいらない子』だの自分で決めつけちゃうんだよ。他人からの評価も聞かずにな。で、他の人から褒められると『いや、そんなことはない』とか言って自分を低く評価しようとする。あたしには理解できないんだ。あたしはそんな風にはなりたくない。常に誰かとは違う自分になりたいし、そうなれるように努力する。そして、今の『あたし』を作りあげてきたんだよ」


 部長の独白にいつの間にか彩乃先輩も遥も作業を止めて、聞き入っていた。


「あたしは努力することによって自分の能力の向上をしてきた。でも、お前らは違うだろ? 遥は生まれ持つ運動神経があるし、彩乃は学力がある。そして、翔真は」


 部長はピタッとそこで言葉を止めると、俺の方に向き直り、手を握ってこういった。

 その言葉は俺のこれからの人生において大きな分岐点になったであろう言葉。


「翔真にはあたしたちを勇気づける、元気づける力がある。そして何よりも、気づいたらあたしの横に立って暴走を止めてフォローしてくれる。お前はそんな特別なちからを持っているんだよ。単なる数値としては表れない。でも、大切なものだ。だから、これ以上自分の価値を下げるんじゃない。わかったな?」


 部長の言葉は、今まで親や教師に言われたどの言葉よりも胸に響いた。

 それは俺の尊敬している人から言われた言葉だからかもしれないし、実はもっと別の理由があったかもしれない。

 でも、そんなことはどうだってよかった。俺の考え方が変わったという事実だけが重要だったのだから。

 

 パン


 という乾いた音が部室内に響いた。

 音の出どころは部長の小さな手。


「さ、辛気臭い話はもうおしまいだ。今のでだいぶ時間取られちゃったし、スピードアップしてこ」


 俺にできることはないかと立ち上がったのと、部室の扉が外から開けられたのはほぼ同時だった。

 扉から入ってきたのは自由部顧問の天満月先生だった。


「もう六時半だぞ、お前ら。もうそろそろ帰れよー……って、お前ら何してんの?」


 いつもは気だるげな様子の天満月先生がポカンと口を大きく開けているのは珍しい光景だった。

 しかし、それも無理はないだろう。

 部室に入って目に入って来るのは無駄にキレイに設置されたトイレと明らかに他の教室とは違う窓ガラス。極めつけは無駄に広くなった教室そのものだろう。

 そのことに気づかない先生ではなく、慌てて教室から出ていくと、少しして戻ってきた。


「お前ら、何をどうしたらそうなった」


 天満月先生の質問に答えたのはもちろん部長。


「ここをこうしてこうすると、こうなったんですよ」


 すると、また一段階部屋が広くなった。

 先生が目を見開いて驚く。


「……私も自分がヤバいことは自覚しているが、お前らはそれ以上にヤバい気がする」


 おっしゃる通りです。


「何をしたいのかはわからないし、分かりたくもないけど、とりあえずそのトイレは撤去して、部屋の大きさも戻しておけよ。よろしく頼んだ……」

 

 そう言い残して教室から出ていく天満月先生の背中からは疲れが見て取れた。


 ちなみに、次の日改めて部室に来た天満月先生は元に戻った部室を見て、「そうか、あれは夢だったのか」と安堵したような顔で言った後にそのまま倒れたという。

今回は珍しくシリアス回(?)でした。

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