この部活の奉仕はどこかおかしい! 一部目
「……なんだこれ」
部室に着いてまず目に入ったのは、入口の扉に貼ってあるB4サイズの紙。
その紙には赤い字でこう書かれていた。
『合図があるまで絶対に入るな。もし入ってきた場合はお前の上履きに画びょうを入れてやる』
何とも痛々しい嫌がらせである。
今日は諦めて帰ろうとした俺はその下に書かれている小さな字に気が付いた。詐欺の手口でよくありそうな字でこう書かれてあった。
『しょ、翔真なら、入って来てもいいよ……』
と。
「あ、これ罠だ」
俺の脳内には、この言葉につられて入っていった自分が部長の手によってボコボコにされる光景が鮮明に浮かんだ。
加害者になるのは遥か彩乃先輩かもしれないが。
とにかく、これ以上ここにいるのは危険だ。
そもそも紙に書く時にわざわざどもらせてる時点で怪しさマックスだし。
「よし、帰るか」
帰ってゲームして、寝るか。宿題なんて明日学校に来てからやればいいし。
たまには静かに過ごす日も悪くないよな。
「ちょーっとまったぁぁぁぁ!」
「うわわわわ、野生の部長が現れた!」
「一ターン目の行動……じゃ、ねぇんだわ」
帰ろうとした俺だったが、文字通り扉を蹴破って部室から出てきた野生の部長に引き留められた。
「なんで毎回帰ろうとする俺を引き留めるんですか? なんですか、嫌がらせですか?」
「いや、帰るなよ。お前がいないと、あたし達の暴走を止める部員がいないだろ」
た、確かに俺以外は……って。
「いや、何サラッと彩乃先輩や遥まで巻き込んでるんですか!? というか、ツッコミ遅れたけど、その服装はいったい何なんですか!」
「見てわからないのか? これはメイド服と言ってだな……」
「いやいやいやいや、別にメイド服は俺でも知ってますし、別にメイド服の解説は求めてないんですよ」
毎日恒例の『面倒ごと製造機』と化したオンボロ部長は訳がわからないといった顔でこちらを見てくる。
「あたしにはわからないよ、翔真。お前は一体何が言いたいんだ? それとも、この格好を脳内に保存して、夜の……」
「俺が! 言いたいのは! なんで部長がメイド服を着ているかについての説明を求めているんですよ!」
公の場では言えないような言葉を言いかけていた部長を声量で無理やり止める。
声にかき消されただけで実は言っていたのかもしれないが、そこまで考えたいたらキリがないので、やめておく。
そして、当の本人は俺の質問にしばし悩んだ後に、可愛く首を傾げで一言。
「面白そうだったから?」
「いや、質問に対して、疑問形で返されても……」
すでに「帰る」という選択肢が断たれてしまった以上、ここにつっ立っていても仕方がないし、周りからの視線が少し痛いので、部室に入ることにした。
部長のせいで扉としての役目を果たせなくなってしまった元扉を開けて入って先には、それはそれは悲惨な光景が広がっていた。
「ううっ……出番は少ないし、こんな格好をさせられたらもうお嫁に行けない……これは翔真に責任を取ってもらうしか……」
「なんで私までこんな格好をさせられてるのよ……翔真くん、これは七十二時間ぶっ続けアニメ鑑賞の刑ね……」
危ない言葉を口走っているメイド(仮)二人はうずくまって泣いていたが、俺が入ってきたのを確認するなり、こちらに恨めし気な視線を送ってきた。
もちろん、全く身に覚えがないので、隣にいる『恨み・辛み・面倒ごと製造機』こと部長が原因なんだろう。
「部長……この二人になんて言ったんですか?」
「んあ? あたしは『翔真があたし達のメイド服を見たがっているから、着てやれ』って言っただけだぞ」
ははは。
俺ってそんなこと言ったかな? 翔真くん分からないよ。
「…………」
「…………」
……………………。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の大声に驚いた部長が叫びながら三歩ほど後ずさっていたが、今はそれどころではない。
「え? いや、ちょ、は? な、な、な」
「な?」
「なんでまた俺は厄介ごとに巻き込まれるんだぁぁ!」
やっぱり、この部活に所属している以上厄介ごと・面倒ごとからは逃げられないのだ。
どこまで逃げても、どこまでも追ってくる気がする。
「もう俺帰っていいですか?」
「明日学校に来てどうなってもいいなら帰ってもいいぞ」
やっぱりこの部活は理不尽だ!
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