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この部活は何かがおかしい!  作者: 高坂あおい
11/61

部長の本は何かがおかしい! 一部目

「やっぱり平和が一番だよなぁ」


 寒くもなく、暑くもない心地よい一日を過ごしていると、いかに平和というものが尊いのかが分かる。

 そう、俺は世の中の真理をついに理解したのだ。

 めんどくさそうなことには首を突っ込んではいけない、と。


 そして、今日は何も起こらないことを祈りつつ、部室の扉をゆっくりと開ける――――


「――――なんでないんだぁぁぁぁ」


 音を出さないように扉をそっ閉じして、体を反転させる。


「よし、帰るか」

「そうはさせん!」


 俺が足をあげるのよりも早く、背後から伸びてきた手にガシっとカバンを掴まれた。

 恐る恐る振り向くと、微かに開いた扉からこちらを覗いてくる見覚えのある顔。


「な、何すんだよ! お願いだから、帰らせてくれぇぇぇ!」

「何すんだよ、じゃないでしょ。なんで一人だけ帰ろうとしてるの!」


 遥はものすごい力で腕をつかんで離す素振りを見せない。

 その上、まるで俺が悪いかのように責め立ててくる。

 

「別に俺は悪くなくね?」

「悪いよ! 私だってこんなことなら早く帰りたいんだから!」

「それは単純に危機管理能力の問題では……」

「うるさい!」


 明らかに理不尽な怒りが込められた声とともに、腕が折れるような力で引っ張られる。

 もちろん、この謎の部活にしか入っていない俺と、ちょくちょく運動部の助っ人として試合に駆り出されている遥とでは、フィジカルに差がありすぎる。

 抵抗なんて考えるまでもなく、部室という名の地獄へと引きづりこまれた。

 

「いってぇ」

「ふん。正論を言うからこうなるんだ!」

「正論を言われたっていう自覚はあるのかよ」

「そんなこと今はどうでもいいけど、このありさまを見て何も思わないわけ?」

「何も思わないどころか、今すぐにでもツッコミたいことばかりなんだけどな」


 やっとで遥の手から解放された俺はとりあえず部室を見渡す……こともできなかった。

 視界のほとんどを占めている段ボールの山。

 そのせいで、部室の奥なんてもちろん、きっといるであろう部長たちの姿ですら見えない。


「なんだよこれ」

「そのうちわかると思うよ」

「そのうち……ってお前」

「ほら、危ないからこっちに寄って」

「は?」


 遥が何を言っているのか最初は分からず、自分の頭よりも上まで積まれた段ボールの塔がぐらりと揺れたことに気づいたころには時すでに遅し。

 

「翔真! 危ない!」


 慌てて警告を飛ばしてきた遥に反応しようとしたところで、俺の視界は薄茶色、そして、黒色へと塗り替えられていった。




「んっ……なんだ、まだ部室か」

「『まだ』とはなんだ無礼者め。こんなにも素晴らしい部室は他にないぞ」

「ええ。ダンボールに埋もれて気絶できるいい部室ですよ」

「お望みならもう一回やってみるか?」

「マジ勘弁してください」


 反射的に謝罪をし、続けてソファーの上で軽くジャンピング土下座を決めた。

 一分も経たないうちに恐る恐る顔を上げると、部長が引き気味に俺の方を見ていたので、足を崩して普通に座る。


「……にしても、意識が戻るのは意外に早かったな」

「えっと、どれくらい経ちました?」

「十分くらいだな」

「本当にすぐじゃないですか」

 

 時計を確認すると、確かにそんなものだろうかと納得する。

 一応遥の無事も確認しておかなければ、と探そうとした時。

 高速で接近してきた何者かに抱き着かれた。


「うおっ! 遥!?」

「翔真! 心配したんだよ!」

「あぁ、心配かけてごめん」

「大丈夫? 頭大丈夫?」

「うん。大丈夫だけど、それは別の意味に聞こえてきちゃうからな」


 悪気がないのは分かるけれども。

 そんな俺の声が聞こえているのか、聞こえていないのか、手を後頭部に回して優しく撫でてくる遥。


「だから……」

「大丈夫、大丈夫。痛いの痛いの飛んでいけ~」

「俺が大丈夫じゃないんだよ」

「大丈夫じゃないなら、もっと撫でてあげないと」


 日本語って難しい。

 とはいえ、さすがに部長と彩乃先輩の視線が痛くなってきたので、遥の抱擁から脱出する。

 

「むぅー」

「遥はいいかもしれないけど、俺は恥ずかしいから」

「昔はよくやってたのに……」

「幼稚園の時の話だろ」


 この話を続けるのは良くないと、俺の脳がアラームを鳴らしてきたので、話を無理やり変える。


「ところでなんですけど、なんでこんなことになってるんですか?」

「お前が段ボールごときで気絶するからだろ」

「いや、段ボールが倒れてきたのもそうなんですけど、なんで部室がこんなに汚いんですか?」


 おそらく俺を気絶させた原因である段ボール箱を始めとした、本当に様々なものが床に机に散乱している。

 いつもは彩乃先輩や遥が掃除をしているおかげで綺麗に保たれている部室が、今日は異常なまでに汚かった。

 思い返せば、最初に部室に入った時からおかしかった。

 どこから出してきたかわからないような段ボールを見せられたと思ったら、次の瞬間にはそいつらの下敷きにされた。


「あぁ……翔真くん。ついにその禁忌に触れてしまうのね」

「翔真……」

「なんか悲しそうな顔してるけど、帰ろうとしてた俺をここに引きずり込んだのは遥だからな?」

「……」


 こいつ顔を思いっきり背けやがった。

 

「……これは自由部の問題だからな」

「え! そんなに大事なことなら早く言ってくださいよ!」

「すまないな、翔真。しかし、今から話すから心して聞いてくれ」

「はい」

「実は、今日あたしは大事なものをなくしてしまったんだ」


 真面目な顔でそう告げてくる部長。

 その目は真剣そのものだった。

 しかし、遥や彩乃先輩がにらむような目つきで部長を見ていることから、部長の真剣な目をもってしても怪しく思えてしまう。


「うーん」

「どうした? 何か思い当たることがあるのか?」

「いや、思い当たることっていうか……」

「なんだ? なんでも言ってくれ」


 俺は頭に浮かんできた予想が当たっているのか、部長に言われたとおりに言うことにした。


「まさか、ラノベをなくしたわけじゃないですよね?」

「……やるな、翔真。流石あたしの右腕だ」

「いつから俺は部長の右腕になってたんすか」

「一億年と二千年前から……かな」

「毎回パロネタぶっこまないと死ぬ病気にかかったんですか?」


 恐らく感染源は彩乃先輩だろうが……。


「なんのことか知らないし、分からないが、とにかく今は緊急事態なんだ。あれが無いと計二十二巻の中の十一巻目だけが無いという大惨事になってしまう」


 とりあえず、これは「自由部としての問題」ではなく、「部長個人の問題」だということが分かった。


「へ、へぇ、そうですか。では、頑張ってください……」


 ゆっくりと立ち上がった俺は、足を擦るようにして扉の方へと移動していく。

 バレないようにゆっくりと、ゆっくりと……


「おい、待てよ」


 俺の逃走劇は一瞬にして終わってしまったようだ。

 ソファーから移動できた距離は一メートルにも満たないだろう。

 

「えっと……急に用事ができたみたいで――――」

「嘘つけ。絶対に逃がさないからな」


 腕までがっしりと掴まれて、完全に逃げることができなくなった。


「離していただくことは?」

「無理」

「ですよねー」


 即答された。

 知ってました。知ってましたとも、ええ! 


「お前が……お前たちが、あたしの翼だ!」


 突然ぶち込まれてきたパロディに反応することも、この後待ち構えている地獄を想像すると、反応する気にはなれなかった。


「……わかりましたよ、俺も一緒に探しますよ。早く見つけて、早く帰りましょう」


 その言葉を受けた部長は一瞬目を大きく見開いて、それから嬉しそうに少しだけ笑った。

かなり久しぶりに投稿しました。

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