部長の部費の入手方法はやっぱりおかしい!
高校一年の三学期。
由宇はクラスメイトである長月彩乃と共に「自由部」を立ち上げようと決めた。
しかし、特に地域に貢献するわけでもなく、ただダラダラとすることを目的とした「自由部」にまともな部費が割り当てられると思ってなかった由宇は悩みに悩んだ。
そして、ある日の放課後に彩乃に相談をする。
「なあ、彩乃。あたしには部費が割り当てられる未来が見えないんだけど」
「当たり前でしょう? というか、それを覚悟で部活を立ち上げようとしたんじゃないの?」
「いや、そうだけどさぁ」
もちろん、彩乃もそんなことで由宇が引き下がるなど思ってない。
「まぁ、策がないと言えば嘘になるわね」
「じゃあ、何かいい作戦があるのか!?」
彩乃の言葉を聞いた由宇は、眩しいほどに顔を輝かせる。
しかし、簡単に金が手に入るほど世の中は甘くない。
「あることにはあるけど、もし失敗したら由宇に対する信頼はぐっと落ちるわよ。それでもいいなら……」
彩乃はそこで言葉を止めた。由宇の顔を見てその先の言葉を言ってもしょうがないと思ったからだ。
「やるに決まってるでしょ!」
「そうよね。由宇ならそう言うと思っていたわ」
「由宇だけにか?」
「そうね。それじゃあ作戦の内容を話すわよ」
「あたしの渾身のギャグをスルーするなよ!」
そんな軽口を叩き合いながら、二人は最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴るまで話し合いをしていた。
次の日。
由宇が廊下を歩いていると、ちょうど曲がり角でファイルを山積みにして持っていた女子生徒とぶつかった。
その衝撃でファイルが床に散らばる。
「ああっ! ファイルが……」
悲痛な声を上げて、慌てて落としたファイルを拾い始める女の子。
その女子と面識はなかったが、由宇は彼女が誰なのかを知っていた。
彼女の名は三日月姫詩。次期生徒会長である。
「すいません……あたしもお手伝いしましょうか?」
「ありがとう! 助かるよ」
申し訳なさそうに言う由宇の言葉に、姫詩は淀みのない笑顔で頷く。
由宇はその笑顔に少しの罪悪感を覚えたが、それを何とか自分の中に留めて姫詩と共にファイルを拾い集めると、それを生徒会室へと持っていった。
それからというもの姫詩はことある事に由宇に遊びや買い物に誘われることとなる。
そんな日々が続いて、二週間後のある日。普段は使われていない部室棟の一室で二人の生徒は話し合っていた。
「次期生徒会長を遊びに誘うのはさすがにきつかったよ」
「でも、そのおかげで部費が大量に手に入るのよ」
「そうだよな! あたしの努力が報われないわけないよな」
「そうよ、だからこの調子で頑張りなさい」
「おう、分かった」
一見すると、彩乃が由宇を洗脳している様にも見えるが、それは気のせいだろう。いや、気のせいだと信じたい。信じなければならない。
そして、絡み続けている間に姫詩もだんだんと心を開き、堂々と友人だと言える仲にまでなっていった。
「あと一週間で部費決めがあるから、今日ぐらいに自由部を発足しておきたいな」
「ええそれはそうなんだけれども、私が教えたセリフはちゃんと覚えてる?」
「もちろんだ。あたしを誰だと思ってるんだ」
「じゃあ、あとはよろしくね」
「あとって言うけど、彩乃は作戦を立てただけだよな?」
「ちっちゃいことは気にするな。それ! ワカチコワカチコ!」
この時には既に彩乃は手遅れだったのだろう。
◇◇◇◇◇
生徒会室にて。
「姫詩っ!」
「えっ? な、何?」
生徒会室に入るな否や見事な土下座を敢行した由宇を見て、既に生徒会長の座についていた姫詩は今までにないほど動揺していた。
「姫詩っ!」
「だ、だから何よ……」
「姫詩さん、『自由部』を作りたいです……」
「……」
「……」
「…………は?」
姫詩は混乱していた。非常に混乱していた。どれくらい混乱していたかと言うと、自分が手にしていたシャーペンの芯が出尽くすほどカチカチしていることに気づかないほど。
そして、頭をフル回転させた結果――――
「あの……『自由部』というものが何かわからないんだけど……」
「なんでわからないんだよ」
「なんでわかると思ったのよ」
由宇はやれやれと肩をすくめて、説明をし始めた。
「自由部っていうのは自由なことをする部活なんだ」
「やっぱりわからないわ」
「じゃあ、どうすればいいんだ」
ここで、姫詩は生徒手帳を開いて『部活』の欄を見た。そこには
――――部活動は,学校教育活動の一環として,スポーツや文化,学問等に興味と関心をもつ同好の生徒が,教職員の指導の下に,主に放課後などにおいて自発的・自主的に活動するもの
と書かれてあった。
「自由部は学問とは関係ないわよね?」
「自由なんだから関係あるんじゃないか?」
「なんで私に聞き返してくるのよ」
「あたしだって具体的に何をするのかわからないんだよ」
「ええっ……」
この頃になると、姫詩はもはや驚きや呆れを通り越して若干引いていた。
なんせ昨日まで笑い合って意気投合していた友がいきなり自分に理解のできないこと言い出し始めたのだから、そうなるのはある意味当然だと言える。
「ちなみに、由宇は何をしたいの?」
「まったり読書やゲームかな?」
「それ、学校の教育活動の一環ではないわよね?」
「じゃあ、地域のボランティア」
「それならボランティア部に入部しなさいよ」
「世界中で一番ありがとうを集めたい」
「どこかで聞いたことのある言葉ね」
「小説でも書くか」
「文芸部があるわよ」
「……」
「……」
彩乃とともに考えた言い訳、もとい理由はすべて姫詩によってはじき返されてしまった。
「目的が完全に欠如してしまっているわ。でも、由宇が必死にその部活を作りたいと言うのなら、何か理由があるのでしょうね。だから、四月の部員勧誘で部活の最低人数の四人。つまり、あと二人部員を集めることができたら部活として認める、という条件でならいいわよ」
「ということはつまり……」
「一応だけど、今度の部費決定会議への参加を認めるわ」
「おぉ!」
結局、由宇率いる(この時はまだ二人しかいなかったが)『自由部』は部費十万円ほどを貰って、部費争奪戦において圧倒的な勝利をもぎ取った。
「私達の勝ちね」
「そうだな」
「私が教えてあげたスラ○ダンクの名言は役に立ったかしら?」
「正直、原型を留めるのが難しかったから、そんなに役にたってはいないかな……」
「そんなぁー!」
珍しい彩乃の叫び声とともに、自由部の戦争はこうして幕を下ろした。
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