この部活は何かがおかしい!
この前まで満開だった桜の花の代わりに、緑色の葉が木々を覆い始めた春の終わりの頃。
野球部やらサッカー部やらが大会に向けて練習をしている最中、俺は学校の一室にて本を読んでいた。
俺の正面に座っている上級生も同様に本を読んでいるが、俺たちは文芸部でも図書委員でもない。
「……ところで部長は何をしてるんですか?」
「見りゃわかるだろ。あたしは本を読んでいるんだ」
「それは分かっています。ただ......」
「ただ?」
「なんで官能小説を読んでいるんですかっ!?」
俺の名前は新月翔真。湯京高校の一年生だ。
そして、俺の目の前であろうことか官能小説を読んでいる人が俺が所属している「自由部」の部長、文月由宇だ。茶髪で髪の毛は肩口までしかなく、美少女。
しかし、今の会話から読み取れるように至高の変態であり、大の下ネタ好きだ。俺も手が付けられないほどに。
今だって机の上には既に読んだのか、これから読むのかという官能小説がいくつか積み上げられていた。その隣には何故かコンビニで売られているようなカップ容器のパフェ。
「何でって言われてもなぁ......ここに官能小説があるから?」
「いや、そんな某登山家みたいなことを言われても……」
こんなしょうもないことにそんな名言を使わないでほしい。
それに、普通は高校に官能小説は無いし、持ってこないはずだ。
「っていうか、男ってこういう本が好きなんだろ?」
「それは一部の人だけです」
俺も本は好きだが、普通に官能小説は読まない。それは俺に限らず、世の中一般の男性に言えることなので、今すぐその認識を改めて欲しいところ。
そんなことを考えていると、腹が痛みに襲われる。
「部長、ちょっとトイレに行ってきますね」
「おう、自家発電だな。行ってこい!」
部長はそう言って親指を立ててくる。
あぁ……その親指をへし折りたい。
◇◇◇◇◇
俺がトイレから帰ってくると、部室の奥のテレビと向かい合うように設置されたソファーに上級生が座っていた。
その人の名前は長月彩乃。部長に比べたら長身で、清楚な黒髪ロングの和風美人。見た目だけはいいんだ、見た目だけは。
「あら、翔真君。こんにちは」
「こんにちは……ところで、彩乃先輩は何をしているんですか?」
「私? 私はアニメを見ているのよ」
両脇に大量のDVDを抱え、前に置いてある机にはライトノベルの山が出来上がっていた。
その上、テレビで流れているのは俺でも見覚えがあるアニメ。
「今日も見てるんですか?」
「ええ、這い◯れ! ニャ◯子さんが気になっちゃて」
「先生にバレたら反省文ですよ?」
「バレなきゃ反省文じゃないのよ」
もうダメだこの人は。アニメに脳みそを食い尽くされたとしか思えない。
「もうダメだおしまいだぁ」
「あら、あなたも日常の会話の中にアニメの名言をさらっと入れる素晴らしさをやっとで理解が出来たようね。ここまで長かったわ。私がこういう話を始めると何故かさっきまで一緒に喋っていた友達がみんなトイレに行っちゃうんだもの……って翔真君? あなたまでトイレに行くの? ちょ、ちょっとー?」
しまった。無意識にベ○ータ―の名言を呟いてしまっていた。
すでに俺は彩乃先輩に毒されつつあるのだろうか。
そんなことを思うと、また腹が痛くなってきた俺は、部室のドアまで足を進めたその時――――
――――バン!
部室のドアが人間には認識出来ないほどの勢いで開いた。
犯人であろう人物が奥で足をあげていることから、蹴ったのは自明だろう。
よくあれで壊れていないな、と思うが、実際のところ、ドアには少し大きめのへこみがある。
「ちょっと、翔真! 私を置いて先に部室に行っちゃうなんてひどいよ! ……まさか、部長や彩乃先輩とイチャイチャなんてしてないよね?」
顔を合わせて早々にこんなセリフを吐いてくるのは小学生の頃からの付き合いである幼馴染の如月遥だ。
遥はほかの二人と違って変態でもなくオタクでもないが、俺に対してヤンデレではないかという節がある。
今の声もドスが効いてた。
「そんなことしてるわけないだろ?」
「翔真は自家発電してきたんだよな」
「してませんよ!?」
「自家発電……ですか?」
俺たちの会話にサラッと下ネタを入れてくる部長だったが、下ネタに疎い遥には理解されなかったみたいだ。
一安心したのもつかの間。
「ところで、翔真君はトイレに行かなくてもいいのかな?」
アニメを見ていたはずのヲタクの一言で、俺の意識は強制的に下半身へと移される。
同時に押し寄せてくる強烈な尿意。
「「「あっ……」」」
漏れそう。
なんとなく書いてみたんですけど、評価ポイントが入れば続編を出します