仕方のないこと
大方、リスクの高いこの投資をしていることが私に見つかるのを恐れたのだろう。だから執務室へ入れさせなかったのだ。
家長になる事はないが、念のためと、昔からこう言った分野も学んできていた。故に今、この家の財産状況が大変なことになっている事も把握できてしまったのだ。どう動くのが得策か。
貴族の女性が働く事はタブーであるため、この家には働ける者が居ないのだ。故に家の財産が半分残っていたとしても、年頃の子3人と私がこのまま暮らしていくのは困難である。
出来ることと言えば、使用人の数を段階的に減らし、婚姻適齢期に差し掛かった3人をより良いところへ嫁がせるまでの間をしのぐくらいだろうか。何もしないよりはマシだが、なかなか難しい局面だ。
執事も同じ考えの様で、使用人たちの名簿を用意していた。取り急ぎ、暇を出す順番と時期、給与保障について打ち合わせ、全体に通知する準備を始めた。
彼の人の一連の葬儀が終了したその晩、家のもの全員を集め、今後について全体へ通達した。もちろん、使用人たちだけでなく、私の娘2人と彼女も同席させている。
家の財政状況を考慮して、次月から3ヶ月程度を目安に、使用人の数を減らす事、その順番は希望者と次の勤め先が見つかった人を優先し、その他については追って暇を出すつもりである事、そして、暇を出すにあたって手ぶらで出させる気はいかないが、金銭での支給は難しいため、その他の方法で支給することを通知した。
暇を出した後、使用人たちの中には、よその家に勤める者も多くいることが想定される。だとすると、手ぶらでこの家を出させてしまったと他家に知られるのは家名に傷がつくであろう。それを避ける為に、いくらか支給したいが正直かなりの財政難である。
故に、私の私物から宝飾品等の換価できる物を持たせると私が執事に申し出たのだ。だが、私の物を減らす前に家の物を渡すのが良いのではと、私を気遣った提案された。家の物から分配する場合、彼女の母が使っていた物については、今後の彼女に遺す方が得策と思われ、彼の人の物は何がどの程度あるのか把握できていないのだ。間をとって、私の物だけでは難しいところを彼の人の物から補填する事にして、何とか執事の同意を得られたのだ。
葬儀の準備の合間に、私の知人に連絡を取り、使用人たちの勤め先探しに使える情報の収集に動いたおかげか、良い条件のところを幾つか見つけられたので、暇を出すことの通達の際に紹介できた。
慌ただしく財政再建計画で動き回っていたせいか、悲しみに暮れることなく過ごしていたので、それが彼女には不満だった様だ。
全体へ通達をした翌朝、久しぶりに彼女が部屋から出てきていた。珍しいこともあるものだと思ったが、あまり刺激せぬ様、いつもと同じように執務室へ向かおうとしたら、彼女に呼び止められた。