展開の転回は突然に
2人の娘の為に、この暮らしに馴染むより先に動き出すことにした。
私の生家に連絡を取り、教師を呼び寄せた。指導はやや厳しいが確実に身になることが先決だ。また、ここの家では彼女が有能すぎるがゆえ、教育に予算を割いていないのだが、それでも私の娘達の教育は必要経費である。散財ではないのかと言われても、欠かせないのだ。
最初は彼女も一緒に教わっていたが、飲み込みの速さからか、教師がそちらに熱心になるので、彼女は別枠で短時間に変更した。
そうこうしている内に、ここに来て1ヶ月が経っていた。彼の人と私は相互不可侵によって、微妙なバランスを保っていた。暗黙の了解と言えば良いのか、対外的にはうまく埋め合い、家庭内では溝や軋轢を生じない様、互いに配慮していた。
だが、その均衡が私の中で崩れてしまった。
ある晩、彼の人と彼女の会話が聞こえてしまった。
新しい家族との生活に未だ馴染めない彼女が、唯一の肉親である彼の人に、弱音を吐いたのだ。
それに対して彼の人は、自分が生涯愛すのは亡くした妻と我が娘だけだと答え、再婚は利害の一致によるものだと言い切ったのだ。
私とてそれくらいの事は解っていた。知らなかったわけでもない。しかし、形だけでも円満な家庭に近付けようとか、互いを気遣う程度の仲であれれば良い方かとは思っていた。だが、新しい家庭での家族愛はこの先一生ないのだと明確に言い切られてしまった事で、わずかにあった歩み寄ろうという気さえ失せてしまった。たとえこちらが努めたとしても、私の娘達が養父に愛されることもなければ、夫婦としての関係が良好になる訳ではないのだ。
ならば、そんな徒労はしたくない。
彼の人からすれば、彼女と亡き奥方だけを愛し、私はただのお飾りとして、夫人でいることだけを望んでいる。そこに愛も情もなく、この先も生じ得ない。その事実だけが突きつけられ、現実としてここにあるのだ。私は何を想えば良いのか。私の娘達を幸せにする事だけを考え、そのためにこの立場を利用する他に何も利点が無いのだから、割り切って活用するだけだ。