原点回帰
私の生まれは中級貴族で、第二子の長女だ。男でなかったことに父は落胆した様だが、母は大層可愛がってくれた。しかし、中級と言えど貴族ゆえ婚姻は家のためであり、より上級の家との橋渡しのため、父にはとても厳しく育てられた。これにはさすがの母も口を出すことは出来なかった。
やがて弟ができ、父の関心はそちらへ移っていった。兄と弟の教育に力を注いでいた。それでも歳を重ねるにつれ、父からは嫁ぎ先についての期待が高まり、私もそれに応える努力をずっと続けてきた。誰にも負けないくらいに教養も美貌も磨いてきたつもりだ。その甲斐あって、父が望んだ通りの良い縁談がいくつか舞い込み、最も条件の合う家に嫁ぐことになった。
幸運なことに、嫁ぎ先は優しい方ばかりで、夫である旦那様が病弱なことと、義弟夫妻の豪遊以外は何も不安がなかった。婚姻後早々に子宝にも恵まれ、2人の娘と息子を1人授かった。その幸福は、これまでの努力が全て報われたと思える程であったのだが、長くは続かなかった。
旦那様の容態が悪くなり、ついには他界してしまったのだ。今まで豪遊すること以外に何もしてこなかった義弟が当主になると言い出し、悲しみに暮れる間もなく、身の振り方を考えなくてはならなかった。
幾度となく親族会議が開かれ、結果的に義弟が当主を務めることとなった。この代替わりがあっても義弟夫妻には男の子が居ない為、次期当主は我が子になり得ることは明らかだった。だからこそ、3人の子供達のことを思うと、しばらくは不安定でもこの家で平穏を願いながら頑張る他ない。そう心に決めていた。
そこから半年ほど経ち、不穏な空気が濃くなり始めた頃、私の不安は最悪な形で的中してしまったのだ。
近頃、義弟がよく外出している事には気付いていたが、豪遊を辞められないが為に資金繰りに出ているのだと思っていた。しかし実際には、私か私の娘達を他所へ追い出す為に、動き回っていたのだった。
それを知ったのは、全てが整えられてしまった後のことで、回避することはもうできなかった。