転回が展開した先には
事業を起こした当初は、予想以上に苦戦した。未開拓の分野といえど、やはり性差は高く聳え立ち、世間の信用と味方を勝ち得るまでは、とても厳しかった。
しかし前例が無い分、軌道に乗ってしまえば、とても早く、あっという間に安定した。
事業を起こしてはや数年、今では、様々な事情で働く必要のある女性達の支援活動にも着手できるようになった。素養があれば、そのまま私の元で雇い入れる事も少なくない。
ここに至るまでは、どう考えても楽では無かった。それでも娘達とまた暮らせる環境を整える為、周りに抑制されずに自分を謳歌する為、駆け抜けてきた。彼の人の家で暮らしていた頃に比べたら、今の方が楽しい分、気楽である。
そして、この事業を始めてからの数年間に1つ大きな変化が起きた。祖国で私への処分が撤回されたのだ。
それは、王族へと嫁いでいった彼女が撤回を要求したことに起因する。
彼女は「ガラスの靴の姫様」と称され、民衆からもとても親しまれており、王族に嫁ぐまでの話は祖国中で広く知れ渡っていた。そこには、実名こそ上がっていないものの、ガラスの靴の姫様に対し過去に酷い仕打ちをした継母を王族が処分したところまでが一括りになっている。その話が広がり始めた当時、複数の国を跨いで商いをする同業者から、そう聞かされた。その継母とされる人物が私だと知らないからこそ聞けた情報だった。
その後、その話に対して疑義を訴えた者がいた。彼の人の邸を離れた後の執事であった。王族の決定に異を唱えるなど命知らずな行為だが、あの頃の帳簿と使用人達のリストを片手に訴え出たそうだ。一時的な身柄拘束と度重なる事情聴取を経て王族に報告が上がり、私への処分が事実確認なく下された事を知った彼女が憤慨し、早急に確認を取る様に指示した。必要に応じて使用人達や当時私が手紙を送った関係者達も証言の為に呼び出され、事実確認が済むと、過剰な処分であったと認められたが、それを公表すると威信にかかわることから、関係者のみに処分の撤回が告知された、という一連の話は、実母と最初の嫁ぎ先の義母から届いた手紙で初めて知った。貴族でもなく、既に他国民になっている私に祖国から通達が届くはずもなく、また一般には出回っていない話ゆえに同業者からも聞くことはなかった。