解呪
日が昇る頃、やっと広大な王都を出た。ここから国境まではおおよそ1日がかりになる。短い休憩を何回か挟み、田舎道をひた走る。
日が暮れて、久々にのんびりを夕陽を見た。このところ、息つく暇もなく何かが起き続けてきた。
彼女と私の軋轢の中、知らず知らずに娘達にも気苦労をかけてしまった。貴族の生まれと言うだけでも大変だろうに、申し訳ない。状況を分かってか、当然のように文句も言わず、ついて来てくれたことに感謝しよう。今日も喧嘩せず戯れながら、暗くならないように過ごしてくれている。この頃は色々と起きたが、本当は心根の優しい娘達だ。
真夜中になり、国境間近になった。
夜間で警戒心が増したこともるが、昨日までの事と明日からの事を思うと、なかなか眠れない。私の両脇で眠る娘達の寝息だけが規則的で心地良い。
さっきまで横目で見ていたはずの月も、随分と高くなった様な気がする。ただそれだけなのに、なぜだか急に涙が溢れて止まらなくなる。誰にも見られていないという事だけが救いであり、その反面、止める理由が見当たらなくなる。
そして、0時。
なんとか間に合わせる形で国境を越えた。
涙が止まらない事に変わりは無いけれど、心が少し軽くなった気がする。きっと、私にかかっていた呪いは解けたのだ。
彼女との関わりの中で誤ったことはしていないと言う自負が今もある。だが、やり方は他にもあっただろうと反省している。いつの間にか負の感情に飲まれて見失っていた。
あの日、彼の人の家に初めて向かう途中に「娘達を守り抜かねば」と決心したところまでは良かった。しかし、後からそこにモヤモヤとした負の感情が紛れ込んでしまった事で、強い覚悟と合わさって、呪いにも似た何かに昇華したのだろう。つまり、この呪いは自分自身が掛けてしまっていたものだ。
残っていた嫌な感情は涙と一緒に流した。半強制的ではあるが全てリセットされた今、私は、私らしく生きる選択肢を得たのだ。