薄暗い何か
その日から、私は彼女と顔を合わせない様に過ごしていた。彼女に会うと、あの時に生じたモヤモヤとした暗い感情が強くなり、その感情に私が支配されそうになるのが嫌なのだ。決して、逃げたいわけではないが、危険な予感がするから避けているのだ。
そんな日が続いた中、次の勤め先が決まった使用人たちが執務室へ報告に来るペースが日毎に増してきた。元々優秀な人材が集まっていた事もあり、引く手数多な者も多く、私が次の勤め先候補として連絡した複数の知人からも、募集したい旨の返答が多く寄せられた。
そして、最終勤務日を迎えた者には、終業時に私の執務室に寄るよう指示しており、これまでの感謝と財政難による暇についての謝罪を伝えた上で、業務の遂行具合を参考に選んだ私や彼の人の宝飾品を1つ手渡す事にしている。同席している執事からも話をした上で、暇までの一連の手続きを完了としている。
通達からまだひと月だが、既に全体の半分以上が次を決めており、全体の1/3が最終勤務を終えて、屋敷を離れている。
すると必然的に、私も私の娘2人も彼女も、自身で対応しなくてはならないものが増えてくるのだが、私の娘2人は不器用だからか、やり方を理解できないのか、なかなか自身で出来ない事が多くある。しばらくは私が手伝っていたが、あまりの頻度に他のことが進まなくなった為、彼女に手伝ってもらうよう方向転換した。彼女はとても器用で、大体のことは一度で出来てしまう。習わなくても理解できてしまうのかもしれない。
しかし、元々よそ者扱いされてた上に、自分で出来ないから手伝ってくれと私の娘2人がお願いしたとしたら、この家のパワーバランスは最悪である。仕方のない事ではあるが、看過できない。打開策として、当主代行の私が彼女に指示する形を取って、娘2人を手伝う様に要請した。
基本的に心優しい彼女は、嫌がらずに受け入れた。私の娘2人には悪い印象を持っていない様で何よりだ。私に対して不服そうな顔を見せたが、やはり彼女は聡明で、状況を見るに他に方法がない事を悟った様だった。
そうこうしている内に、通達を出してから2ヶ月経ち、使用人の大半に暇を出し終えていた。
こうも使用人の人数が減ると残っている使用人の方は、かえって手が空いてしまう事が判明し、執事と相談の上、段階的であることはそのままに、全員に暇を出すことに変更した。
故に、使用人が0になった後の暮らしの為、個々に対応する範囲を広げねばならなくなった。しかし、私の娘2人は出来ないことが多い上に、今後他所へ嫁ぐにあたって貴族として身につけておくべき教養が未了の為、教育の時間を削る訳にもいかない。
その時ふと、あのモヤモヤが私の中で首をもたげ、私は魔がさした。