反撃41(報告)
「もう、先輩!私がチアダンスしている時のあれはなんですか!?」
チアダンスが終わると、私は衣装から運動着に着替えて先輩の元へ文句を言いに行きました。
あの笑顔は私が笑顔に弱いことを知ってて見せたに決まっています。
もう、先輩の笑顔のせいでどれだけ動揺したことか…。
「お前がウインクをしてきたから、その仕返しだ」
私の文句に対して先輩はにやりと笑ってきました。
「や、やっぱりそうですか!もう、先輩のせいで踊りが上手く出来なかったじゃないですか!」
思った通りでした!
先輩のせいで踊るの大変だったのに、まったく反省する気がありません。
そんな先輩の態度に不満を露わにしますが、まったく気にした様子を見せないので、ますます私は怒ります。
「ふん、いい気味だ。お前が俺のことをドキドキさせてくるのが悪い」
「…っ!?え?え?!先輩、ドキドキしてくれていたんですか…!?」
え?え!?
さらに文句を言おうとすると、先輩が急にドキドキしていたと教えてくれました…!
先輩の反応から私のことを意識してくれていたのはなんとなく分かっていましたが、言葉にして言われるととても嬉しいです!
ふふふ、嬉し過ぎてにやけてしまいそうです。
「うるさいな、その仕返しをお前は受けたんだから自業自得ということだ。だから文句を言うんじゃない」
先輩は冷たく言ってきますが、もう遅いです。
ドキドキしてくれていたのを知ったら、そんなこと言われても全然へこみませんからね!
むしろ、早口で話を逸らそうとしているところがますます可愛いです。
「はいはい、分かりました。それにしても、先輩がドキドキしていてくれたなんて嬉しいです」
無事、私の秘策は成功していたみたいで安心しました。
「もういいだろ。それより次の種目が始まるからさっさと戻れ」
「もう、つれない先輩ですね〜。分かりました、じゃあバイバイです、先輩」
私がにやにやしていることにうんざりしたらしい先輩は、もう戻るように言ってきました。
まだもう少しだけ一緒にいたかったですが、次の競技が始まりそうなのも事実なので、帰ることにします。
先輩がドキドキしてくれていたのを確認できましたし、私は満足です。
先輩に小さく手を振って別れました。
自分のクラスへ戻ると、華が話しかけてきました。
「えり、また神崎先輩のところへ行ってきたの?」
「はい、会ってきました!よく会いに行ったって分かりましたね?」
「そんなに幸せそうな顔をしていたら誰だって分かるわよ」
やれやれと当然のように言ってきます。
「え、本当ですか!?」
まさか、そんなに分かりやすい顔をしていたとは思わず、慌てて顔を手で覆います。
「普段のえりを知っていれば、その違いはバレバレよ」
「そ、そんなにですか…」
あまりの恥ずかしさに顔を覆ったまま見られないよう俯いてしまいました。
「まあ、えりが幸せそうで何よりよ。チアダンスの時も互いに見つめ合っていたみたいだしね?」
恥ずかしがる私が面白いのか、にやにやしながらさらに羞恥を煽ってきます。
「き、気付いていたんですか…!?」
知り合いにバレていたなんて恥ずかし過ぎて、身体中に熱が回っているのが分かります。
「ええ、もちろん。前より仲良くなっているみたいだけど、お見舞いの時に何かあったの?」
キラキラと何かを期待するような輝く目で私を見てきます。
「ま、まあ、それなりに…」
先輩の家であった色々なことを思い出して、また顔が熱くなってきました。
「へー!なにがあったのよ。照れてないで教えなさいよ」
「先輩の話を聞く機会があって、その時に抱きしめられました…」
抱きしめられた時の先輩の匂いや体温、雰囲気を思い出して、体が熱くなります。
未だにあの時の感覚は衝撃的すぎて忘れられません。
「へ〜!あの神崎先輩がね〜」
にやにやとどこか悪そうな笑みを浮かべる華。
「良かったじゃない。そんなに心開いてもらって。順調に仲は進んでいるってことね」
「は、はい、おかげで先輩からはいい奴だっては言われました。やっと友達です」
「まだ友達かー、先は長いわね。先輩にちゃんと意識してもらえるよう頑張るのよ?」
「はい、もちろん今日の体育祭も頑張るつもりです!」
「ふふふ、じゃあまずは次の競技の借り物競争からね」
華はクスクスと楽しげに笑いました。
「でも、先輩が何かしてくるとは限りませんよ?」
なぜこんなに自信満々なのでしょう。先輩が私を選ぶかどうかはまだ分からないはずです。
「先輩がえりを選ばないはずがないわ。それに直人が色々やってくれるから楽しみにしていてね?」
「え?は、はい…」
華はその整った顔を歪めて悪巧みする笑みを浮かべました。
その笑みに私は、何が起こるのか期待するのと同時に、少しだけびびってしまうのでした。




