意地悪36(身体拭き)
雨宮の挑発的な言葉に動揺した心が落ち着くと、俺は雨宮の頭を撫でるのをやめた。
さて、どうするか。
雨宮に意地悪するのをまだ止める気はしない。
最近気付いたが、どうやら俺は雨宮に意地悪することが楽しみになりつつある。
俺が意地悪すると雨宮が反応するし、その反応を見るのが楽しいのだ。
あの雨宮の困ったり慌てたりする姿を想像するだけで、笑みがこみ上げてくる。
「…先輩?」
俺が不意に笑ったのが不思議に思ったのか、コテンと首を傾げて見てくる雨宮。
「なんでもない」
危ない危ない。つい笑みが溢れてしまった。
あの反応はこれからも見たいし、雨宮には悪いが意地悪は続けていくとしよう。
くくく、さっそく意地悪を思いついてしまった。
さて、また雨宮の恥辱に染まった顔を見るとするか。
「なあ、雨宮。身体が重くて困っていたんだ。悪いんだけど手伝ってくれるか?」
「手伝いですか?いいですよ。それで私は何を手伝ったらいいですか?」
雨宮は急な提案にも関わらず、快く引き受けてくれた。
純粋な奴め。俺がこんなに恐ろしいことを考えているとも知らずにそんな可愛い顔をしやがって。
友人に意地悪をするのは気が引けるが、雨宮なら許してくれるだろう。
「そうだな…」
そう言いながら俺は上の服を脱ぐ。
「ちょ、ちょっと!?先輩、急に脱いで、私に何させる気ですか…!?」
雨宮は真っ赤になった顔を両手で隠しながら悲鳴を上げる。
「なにしてって、体を拭いて欲しいだけだなんだが?ダメか?」
今更やめようとしたってそうはいかないからな。せいぜいこき使われることを屈辱に思うがいい!
「そ、そういうのは先に言ってください!」
少し怒った口調でそう言って雨宮はお湯を汲みに、台所へ歩いて行った。
くくく、怒ってやがる。
本気で嫌そうなら俺も意地悪をしようとは思わないんだが、あいつの反応を見ている感じだと、怒っている以外にも少しは喜んでいるような感じがするんだよな。
本気で嫌がってそうに見えないから、俺も止める気が起きない。
多分あいつは結構Mなのだろう。
そう結論付けて、俺は雨宮の反応に手応えを感じてほくそ笑んだ。
少し経つと、雨宮がお湯を汲んで戻ってくる。
「じゃ、じゃあ、背中を拭きますね…」
顔を真っ赤にして、目を俺から逸らす雨宮。
「ああ、頼む」
雨宮に背を向けると、背中に温かい湿った布の感覚が伝わってきた。
ゆっくり、ゆっくりと丁寧に拭かれる。
タオルを持っていない左手も背中に添えられているのか、触れられている感覚がある。
雨宮の左手が時折位置を変えるたびに、雨宮の少し冷たい指が俺の背中を這うので、くすぐったい。
思わず身体がビクッとしてしまう。
「あれ?先輩〜?もしかしてくすぐったいんですか〜?」
身体を震わせていると、後ろからからかいの混じった弾んだ雨宮の声が聞こえてきた。
「はぁ?いいから早く背中を拭けよ」
くすぐったいのは事実だったが、もう明らかにあの腹立つにやけ顔をしているのが想像ついたので、認めるのはしゃくだった。
「はいはい、分かりました」
俺の文句に対して何か言いたげだったが、雨宮は素直にまた俺の背中を拭き始めた。
「…っ」
さっきまでよりもやたらと左手をさわさわと動かしてくる。
くすぐり来ているのは明らかだ。
ちらりと一回後ろを振り向くと、雨宮は楽しげに顔を輝かせていた。
「おい、くすぐるのをやめろ」
「え〜?どうしましょう〜」
強い口調で言うが、雨宮は全く聞く耳を持とうとせず、優しく背中をくすぐり続けてくるのだった。
「はい、終わりましたよ」
背中を拭き終えたらしく、そう声をかけられた。
雨宮の方を向き直すと、満足げな表情を浮かべる雨宮がいた。
このままやられっぱなしというのは面白くない。
雨宮がその気なら、こっちだって手加減せず意地悪してやろう。
そんなにくすぐりたいならもっとこき使ってやる。
「おい、なに勝手に終わろうとしているんだよ」
「え?」
きょとんと目を丸くして固まる雨宮。
くりくりとした瞳がより一層開かれていて小動物的な可愛さが、雨宮の魅力を引き立たせている。
「背中だけじゃなくて前も頼む」
「ま、前!?前もですか!?」
ぼわぁっと一気に雨宮の顔は朱に染まる雨宮。
「なんだ、手伝ってくれるんじゃなかったのか…?」
くくく、ここで落ち込んでいるように見せれば、お前は断れないだろう。
「わ、分かりました」
「ん、じゃあよろしく」
そう言って俺は腕を広げる。
「は、はい…」
雨宮はゆっくりと俺にタオルを近づけ、俺の首筋辺りから拭き始めた。
俯きながら拭いているので、雨宮の耳が真っ赤に染まっているのが伺える。
本当に雨宮に意地悪するのは楽しいな。
俺は改めてそう思った。
「ど、どうですか…?」
しばらく俺の体を拭いていた雨宮は、ちらりとこちらを上目遣いで見ながら尋ねてきた。
潤んだ瞳は揺れ憧れ、頬は朱に染まっているのがよく分かる。
「良かったけどまだ拭き足りない。もっと頼む」
俺のことをくすぐって楽しみやがって。
それだったら俺のことをもっと楽しませてもらわないとな。
「ま、まだですか!?も、もう無理です…」
雨宮は悲鳴のような声を上げて、さらに顔が真っ赤に染まりながら小さく呟いた。
「無理なわけがないだろ?俺のことをくすぐっていた左手があるのに」
そう言いながら雨宮の手首を握って、俺は雨宮の顔を覗き込む。
「…わ、分かりました。分かりましたから、そんなに顔を近づけないでください…!」
俺から視線を逃れるように顔を背けて、慌てた声で懇願してきた。
そしてゆっくりと、また手を動かして俺の体を拭き始める。
俺の体を拭いてくれる雨宮は、顔どころか手の先まで赤くなっていた。
ふっ、俺のことをくすぐってきやがって。やり返してやったぜ。
雨宮の様子に満足しながら、俺はいつまでも俺の体を拭いてくれる雨宮の姿を眺めているのだった。




