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被害30(雷)

「「ごちそうさまでした」」



食事終え、食後の挨拶をしました。



はぁ、まだ微かにドキドキしてます…。



「本当に美味しかったです!ありがとうございます!」



おねだりの恥ずかしさの余韻に浸りながら、頭を下げてお礼を言います。



「ああ、また作るか」



「そうですね、ぜひまた作りましょう!」



作るってことは、またこの部屋に呼んでもらえるってことでしょうか!?



先輩にとっては何気ない一言でも私にとっては嬉しいです!



食器を片付け終え、先輩と私は元の位置に戻ります。



「それにしても雨、止まないですね」



「そうだな。ネットの天気予報だともう少しで止むはずなんだけどな」



「どうしましょう。このまま雨が止まなかったら、今日私先輩の家にお泊まりですよ〜?」



本当にお泊りになんてなったら私の心臓が保ちませんし、恥ずかしすぎます…。



ですがそんなことはおくびにも出さず、先輩に意識してもらえるようにからかいます。



もう恥ずかしがってばかりはいられないのです。



「それは困る」



真顔で拒否されてしまいました。



「なんでですかー!そこはドキドキするところですよ!?こんなに可愛い女の子がお泊まりなんて並の男子なら羨むシチュエーションなのに。まったく、先輩は贅沢ですね」



まったく、先輩はなにをされたら意識するんでしょうか?



普通の男の人なら絶対喜ぶと思うのですが…。



「お前は可愛いけど、だからって俺に一般男子の反応を期待するな」



「か、可愛い…!?」



ほら、また不意打ちです…!



もう何回も言われ慣れてきましたが、好きな人に言われるのはそれだけで破壊力があるのに、急に言うのはずるいです。



絶対ドキドキしてしまいます…。



ときめかないはずがありません!



「ま、まあ、先輩がお願いしてきてももう遅いです。残念でした。諦めてください」



「お前にお願いする時が来るわけがないだろ」



こうして私と先輩はたわいもない会話を続けていきました。



ゴロゴロゴロゴロ。



しばらく話していると遠雷の音が聞こえてきました…!



「わ、私雷苦手なんですよね…」



音の大きさとその不気味さに背筋が凍りついたようになり、思わず身震いしてしまいます。



「へぇ、そうなのか」



先輩は私の言葉を聞いて、少しだけ楽しそうな顔をしています。



絶対お子ちゃまだなって思ってますね。でも、怖いものは怖いんです…!



早く雷が遠のいて欲しいと願いますが、どんどん音が大きくなっていきます。



「きゃっ!?」



近づいきた雷の音はますます大きく、恐ろしいです…。



音がなるたびに悲鳴が出てしまいます。



「そんなに怖いのか?」



「こ、怖いです。急に大きな音がなると怖くありませんか?」



雷が鳴るたびに怖くて涙が出そうです。



「いや、別に」



まったく動じる様子のない先輩が羨ましいです。



私もそのぐらい強くなりたかったです。



どうか雷が離れていって欲しい、という思いがどんどん積み重なっていきます。



ですが雷の音が止む気配はありません。



もう無理、耐えられそうにない、そう思ったときでした。



ピカッ。ドォォォン!!!



「きゃーーーっ!!」



あまりにも大きい爆音が耳に届きました。心臓の底から揺れるほど大きな音です…!



ビリビリと震える窓の音さえ聞こえてきました…。



あまりの恐怖に耐えきれず、耳を塞いで縮こまりながら悲鳴を上げてしまいました。



「せ、先輩!?どこにいますか!?まったく見えないです…」



さらに最悪なことに部屋が真っ暗になってしまいました…。



停電です。まったく見えません。



雷の恐怖が残ってまだ体が震えています。



指先が冷たいです…。



怖い、怖い、怖い、怖い…!!



雷の音がまだ聞こえてきます…。でも暗くて逃げることもできません。ただひたすら耐えることしか出来ません…。



やだやだやだやだ、雷止んでください…!怖いです、助けて…!



思わず先輩のことを呼んでしまいました。



「落ち着け、雨宮。そっちに行くから動くなよ」



先輩から返事が返ってきてほんの少しだけ固まった心が緩みます。



「おい、雨宮、大丈夫か?」



いつもより優しい声が耳に届きます。



「せ、先輩…!」



声をかけられ顔を上げると、薄暗い中に見慣れた先輩の姿がありました。



先輩の姿を見ただけでほっと安心します。



それは誰でもない大好きな先輩だったからこそ、安心することが出来ました。



「もう大丈夫だぞ」



先輩が私の元に来てくれて、そっと抱きしめてくれました。



「……こ、怖かったです…。凄い大きな音の雷は鳴りますし、急に部屋は真っ暗になりますし…。もう何がなんだか…」



恥ずかしいなんて感情は一切なく、ただただ抱きしめられて先輩の体温と匂いを感じて、心がゆっくりと落ち着いていきます。



さっきまで出来ていなかった呼吸が整い、酸素がじんわりと身体中を巡っていきます。



「もう大丈夫だ」



先輩はそう私に優しく声をかけて、背中をさすってくれます。



なんでこんなに先輩がそばにいてくれるだけで安心するんでしょう…。



どうしてこんなに先輩の声を聞くと心が安らぐのでしょう…。



先輩はやっぱり私にとって特別な人です。



私にとってこの世界で一番大好きな人です。



先輩に抱きしめられている中で、私の想いがまたはっきりと自覚させられました。



しばらく抱きしめ合っていると電気がつきパッと部屋が明るくなりました。



だんだん冷静さを取り戻します。



「おい、雨宮。もう大丈夫だぞ」



「あ、ありがとうございます…」



声をかけられ先輩の胸に埋めていた顔を上げます。



冷静に戻ると、抱きしめられていた現状があまりに恥ずかしすぎます…!



こんなに近くに一緒にいたなんて、思いもしませんでした…。



先輩の顔がこんなに近いです…!今にも吐息が聞こえてきそうです…!



こんな近くで泣き顔まで見せてしまいました…。もう乙女として恥ずかしすぎます…。



急激に湧き上がってくる羞恥を、笑って誤魔化しました。



「雷止んだみたいだし、そろそろ帰るか?」



「そ、そうですね…。帰ります……」



気付けば雷の音は聞こえなくなっていますし、雨音も小さいです。これなら帰れそうです。



まだ残る羞恥に悶えながら、帰りの準備を整え終えました。



準備を終えたので玄関に移動し、先輩と向かい合います。



「じゃあ、1人で帰れるか?」



「はい、大丈夫です…」



これでお別れです。やっぱり離れるのは少し寂しいです…。



それに結局、先輩に私のことを意識してもらえませんでした…。



「そうか、じゃあ気をつけてな」



「あの!先輩、少し耳を貸してください!」



意識させようと頑張ったつもりでしたが、まだやっていないことが1つありました…。



この手段があることは初めからわかっていました。でも私はこれまでやろうとしませんでした。



私は結局逃げてきたんです。



この関係が壊れるのが怖くて。もしかしたら先輩が離れてしまうかもしれないのが怖くて。



今の関係は、たまたま偶然奇跡のような確率で成り立っている関係です。



私が先輩のことを好きになって、先輩が私のことを嫌だと言わず、それどころか少しだけ受け入れてくれるようになった関係。



そんなことは同じ人生をもう一度歩んでも、もう起こり得ないでしょう。



そのぐらい貴重で大事な関係なんです。



それを壊すのは怖いです。それを変えるのは勇気がいります。



今の居心地のいい関係があるなら、それ以上望みたくないと思うのは自然でしょう。



でもそれではダメなのです。



これまでの私は、今の関係でもいいと思っていました。



ただ少しだけ私のことを意識してくれればいいなという淡い希望を抱きながら、ただ今の現状に満足ししていたのです。



ですがこんなのは甘えでした。自分が変わろうとしないで、相手に意識してもらえるという滅多にないことが起こるわけがありません。



先輩を意識させたいなら、それ相応の覚悟を持って勇気を振り絞って踏み出さなければならないんです。



私は先輩が好きです。大好きです。会うたび、話すたび好きはどんどん深まっています。



抱きしめられて私は先輩の存在の有り難さを自覚しました。



これまでは、先輩には笑顔でいて欲しい、幸せになって欲しい、と考えていました。



今でもその願いは想い続けています。



ですが先輩には、私の隣で笑顔でいて欲しいんです。私と話して、私と関わって幸せだと感じて欲しいんです。



誰でもない私が先輩を幸せにしたいんです…!



誰にも先輩の隣は譲りません。絶対に私が隣に立ってみせます。



そのために私は先輩との関係を進めます。



たとえそれが悪い方向に動いたとしても、それを受け止められると思えるほどの想いと覚悟が、胸にはあるんですから。



「ん?なんだ?」



先輩が腰を屈めて私の口元に耳を近づけました。



「雷の時は本当にありがとうございました…。凄い嬉しかったです…」



本当にあの時は怖かったです。もう泣きたいくらいに震えていました。



そんな中、先輩が現れました。



薄暗い中の先輩の姿は私にとって王子様みたいに見えました…。



先輩がそばにいてくれるだけで安心します。落ち着きます。



先輩が笑ってくれるだけで私は嬉しくなって幸せになるんです。



募った想いをのせて、私は自分の唇を先輩の頰に一瞬だけつけました。



やっぱり恥ずかしいです。顔から火が出そうなほどに恥ずかしいです。



でも、もう私は止まりません。先輩には私のことを好きになってもらうんです。



これは願いではありません。決意です。



たとえ辛い未来が待っていても、好かれるための努力だけはもう手を抜きません。



先輩、覚悟してくださいね?



すぐに唇を離し、先輩を上目遣いで見ます。



「ふふふ、これはお礼です!2人だけの秘密ですよ?」



さあ、先輩、私は踏み出す勇気を手に入れました。



絶対私のことを意識させてみせます。絶対好きにさせてみせます。



明日からが楽しみです…!



「じゃあ、バイバイです、先輩!今日はありがとうございました!」



こうして意識させると決意した私は颯爽と先輩の家から出たのでした。


現在、ありがたいことに別作品が現実世界(恋愛)の日刊ランキングに載っています。そっちの作品の執筆を進めるため、こっちの作品の更新が日を跨ぐことが多くなると思いますがご了承下さい(*・ω・)*_ _)ペコリ

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https://manga.line.me/product/periodic?id=Z0002280
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