被害28(料理)
「か、乾かしてくれてありがとうございます。でもこんなこと他の人にしちゃダメですよ!?私だから我慢したんですからね!?」
しっかりと注意して念押ししておきます。
まったく、もう!本当に先輩は困った人です!
「雨宮以外にやらねえよ。興味もない」
ビシッと注意したので少しは反省すると思いましたが、想定外の返事が返ってきました…!
「…え?え!?そ、それならいいんです…」
こ、こんなところで特別感出さないで下さい…。
ま、まあ、そう言ってくれるのは嬉しいですが…。
「じゃあ俺も風呂入ってくるから、好きにしてろ」
「え、あ、はい。分かりました」
特別感にときめいていたら、そんなことを言ってお風呂に入りに行ってしまいました。
布の擦れる音がした後、浴室からシャワーの音が聞こえてきます。
今、先輩、裸なんですよね…?
うう、なんか緊張します…。同じ建物で好きな人が裸でいるなんて…。
先輩の裸どんな感じなんでしょうか…。結構細いですし、筋肉はそんなにはなさそうな感じがします。
つい先輩の裸姿を想像しそうになりますが、なんとか頭を振って、想像を消します。
煩悩を頑張って振り払っていると、先輩がお風呂から上がる音が聞こえてきました。
せ、先輩が来ます…!普通の態度で接しましょう。意識してはダメです。
ドキドキとうるさくなる心臓を感じながら、先輩がやってくるのを待ちます。
ガチャリ
部屋のドアが開く音がしました。
「あ、おかえりなさ…い?」
ドアの方を見ると、パンツしか履いていない先輩の姿がありました!
え?
予想外の出来事に頭が真っ白になり、固まってしまいます。
「…ちょっと、先輩!?なんで裸なんですか!?」
意識が戻り、慌てて顔を隠します!
今ちらっと見えてしまいました…!先輩の胸筋とか腹筋とか…。
見えたのは一瞬でしたが、先輩の肌色がはっきりと脳裏に焼き付いています。
「いや、ちゃんとパンツ履いているだろ」
私が慌てているのを見ても、さも当然のような態度のまま接してきます。
「そういう問題じゃないです!私がいるんですから、そこら辺は気を使って下さい…」
見ないようにしたいのですが、つい気になって先輩の裸を見てしまいます…。
「やだよ、なんでお前に気を使わなきゃいけないんだ」
まったく止める気を見せないまま、先輩がこっちに近づいてきました!
「え?え!?なんで、近づいて…」
濡れた髪の先輩は、前髪で隠れていた目がはっきりと見え、普段以上に色気があります。
そんな先輩が、裸の状態で近づいてきました!
もう心臓が激しく動いて鳴り止みません…。
触れたらもう耐えられそうにありません。
思わず肩を窄めて、先輩に触れられないように縮こまります。
ですが、それでも先輩は私に手を伸ばしてきました!
「ち、近いです!近すぎです!もうこれ以上は…」
え?え!?私を触る気でしょうか!?何をする気何ですか!?
先輩の裸が近すぎて、もうこれ以上見ていられず、目をつぶって先輩の手を待ちます。
私、これから何をされてしまうのでしょう…!
怖さと期待半々の気持ちで、強く何度も心臓が脈を打って、身体が熱いです…。
「なにそんなに慌ててんだよ。服を取っただけだろ」
「へ?ふ、服を取っていたんですね…」
よ、よかったです。服を取っただけでしたか…。
ホッと落ち着き、息を吐きます。
何もされなかったので安心しました。
…ほんの少しだけ残念です。
やっぱり何もされないというのは、私を意識してもらえないみたいで嫌です。
心に不満が少しだけ溜まります。
「そうだよ」
落ち着いた私はやっぱり先輩のことが気になり、こっそりと見てしまいました…。
べ、別に、パンツは履いていますし、見るのはセーフだと思います…。
先輩の身体は私が想像しているよりも締まった身体をしていました。
筋肉質な身体は、どこまでも男らしくてドキリと胸が高鳴ります。
女の子の体ではあまり見えない鎖骨ははっきりと見えますし、鍛えられた胸筋や腹筋がますます男らしさを醸し出しています。
かといってムキムキで図体が大きいのではなく、シュッと締まっていて、思わず触りたくなってしまいました…。
ドキドキと動く心臓を感じながら、ちらりと先輩を見ては、何度もときめいてしまいました…。
「さて、お風呂で温まったことだし雨止むまでなにする?」
着替え終えた先輩、私を見てこの後どうするか尋ねてきました。
「そうですね…」
どうしましょう…。お風呂に入っている時に一応考えてはいましたが、その後の出来事が強すぎて、まったく考えがまとまっていませんでした。
ぐぅぅぅぅ。
「…!?」
急にお腹がなってしまいました!
慌ててお腹を押さえますが、それで鳴った音が消えるわけではありません。
「ふっ、じゃあ何か食べるか」
ちらりと先輩の様子を伺うと、少しだけ口角を上げて笑っていました。
「そ、そうですね…」
お腹の音を聞かれて恥ずかしいやら、先輩の笑顔を見れて嬉しいやらで、顔が熱いです。
もう。恥ずかしかったですが、先輩の笑顔が見られたら、鳴ってよかったかもしれないです…。
きゅっと絞まる胸を押さえながら、先輩の提案に同意しました。
早速台所に移動します。するとすぐに先輩は棚にしまってあったエプロンを取り出してつけました。
ふふふ、先輩がお母さんみたいで少し可愛いです。
「なんだよ?」
どうやらついにやけてしまったみたいです。
訝しげな目線でこっちを見てきました。
「いえ、先輩のエプロン姿が新鮮だなーって思いまして。先輩、似合ってて可愛いですよ?」
普段見ない姿が新鮮で面白いです。
でもこんな姿を知ってるのは自分だけだと思うと、胸がキューッとなって幸せな気持ちになります。
「うるせえよ。それよりお前が料理を作るんだからな?」
「え?私ですか?」
私全然料理出来ませんよ?
突然の話に固まってしまいました。
「そうだ。早く来い」
「きゃっ!?」
固まる私に痺れを切らしたのか、急に肩を掴んできて台所のまな板の前に立たされます。
「じゃあ、カレー作るつもりだからまずは具材切りな」
「わ、分かりました…。それはいいのですが、あの…」
頰をほんのりと赤らめながら、なにか言いだけに上目遣いでちらりとこっちを見てくる。
「なに?」
「ち、近くないですか?」
料理をするのはいいのですが…、あまりにも近いです!
先輩、私の背中にくっつきそうですよ!?
お風呂上がりのせいで、シャンプーと先輩の匂いが混ざって、さらにいい匂いになっています…!
先輩の顔が私の顔の横にあって、これでは全然料理に集中できません…!
「いいんだよ。お前、料理慣れてないだろ?色々アドバイスするから」
「あ、ありがとうございます」
まったく離れる気がないようなのでもう諦めます。
先輩は純粋に私に料理を教えたいみたいですし、仕方ないです。
ああ、それにしても先輩、いい匂いです…!
「じゃあまずは人参だな、切ってみろ」
「は、はい」
とりあえず人参を切ることから始めるみたいです。
置かれた人参に、スッと私は指先を伸ばしたまま左手を置いて、右手で包丁を持ちます。
「ほら、持ち方が違うぞ。猫の手をしろ」
「え!?ちょっと、先輩!?」
私の持ち手見て、先輩が動き始めます。
私の左手をぎゅっと握りしめるようにように持ってきました!
え?え!?
お、教えてくれているのは分かるのですが、そんなに手を握られたら、何も覚えられません…!
何も考えることができず、ただ握られた手から先輩の体温を感じます。
「猫の手にするんだぞ?分かったか?」
「わ、分かりました」
先輩に手を握られたまま、包丁で人参を輪切りにしていきます。
こ、これいつまで握っているのでしょうか…?
緊張で手が震えそうです…。
なんとか先輩の接触に耐えて切り終わると、やっと離れてくれました。
「じゃあ、次は肉な」
すぐに次の具材を取り出してきます。
一応切ってみますが、うまく切れません。
「包丁は縦に動かしながら切るんだ。こういう風にな」
「ひゃあ!?きゅ、急に手を握らないでください!」
さっきまで離れていたのに、またすぐ私の手を握ってきました…!
触れらているだけで緊張するというのに、突然は心臓に悪すぎます!
ああ、もう、また心臓がうるさくなってきました…!
この部屋に入ってからまったく休まる暇がありません…。
「うるさい。ちゃんと聞けよ」
「〜〜〜っ!?」
ちょっと、先輩!?!?
ただでさえドキドキしているところにさらに耳元で囁くのは反則です…!
何回耳を攻めてくれば気が済むんですか!?
もう!先輩に意識してもらいたいのに、わたしばっかりドキドキさせられてます。
それからも何回も手を握られ、耳元で囁かれ、結局何度も変な声を上げてしまいました。




