意地悪2(間接キス)
「先輩〜、飲み物奢ってください!お願いします」
俺の教室に現れるなり、そんなことを頼んでくる雨宮。
腰を屈めて、顔の前で手を合わせ、上目遣いでこちらを見てくる。
実にあざとい。そんなことでほだされる俺ではない。
「雨宮、俺がお前に奢ると思うか?」
「いいえ〜?全く思いませんね。むしろ私に奢れとか言いそうです」
「流石にそこまで酷い性格はしてねえよ」
「冗談です。飲み物奢って欲しいと思ったら、クラスの男子にお願いすれば一発なので、別に先輩にそこは期待してませんよ〜。先輩に反応してもらいたくて話しかけてるだけなんですからね」
ニコニコと太陽のような満面の笑みでそう口にする雨宮。
その姿は、彼女の雰囲気と相まって彼女自身に興味のない俺でもドキリとさせるほど魅力的だった。
一時の感情を振り払うように早口で小さく返事をする。
「お前の可愛さならそれが出来そうだから、俺は怖いよ」
「…!?もう!流石にそんなことしませんからね?冗談ですからね?」
本気にされたと思ったのか顔を真っ赤にしながら否定してくる。
「わかってるよ。お前がそんなやつじゃないってことは。もう何回話したと思ってるんだよ」
「ふふふ、私の作戦は順調なようですね。強制トークで親密度は上がってるようで嬉しいです!」
したり顔でこっちを見てくる雨宮。
うん、やはりうざい。意地悪も思いついたし、早く嫌われるとしよう。
「そんなのは気のせいだ。まあ、今、俺の気分は上がっているから、飲み物奢ってやるよ」
「え!?いいですよ!本当に冗談ですから!」
手を体の前で振りながら拒否してくる。だが俺の作戦のために拒否させるわけにはいかない。
「いいから大人しく奢られとけって。この俺が奢ることなんて滅多にないんだから」
「友達いないボッチな先輩ですもんね。当然といえば当然ですね!」
「うるせえよ」
雨宮は自販機の場所まで移動している間も、無視してるにもかかわらず、何度も話しかけてきていた。
ほんと、こいつ黙る時なんてあるのかよ。
そんな疑問が頭をよぎったころ目的の自販機に到着した。
「ほら、どれにするんだ?」
「奢り、ありがとうございます!えっと…。じゃあこれがいいです」
そう言って申し訳なさそうに、抹茶オレを指差す。
「そんな顔すんな。お前は笑ってる方が断然いいよ。笑顔で感謝しとけ。これだな」
眉をヘニャリと下げているその顔は、見ているこっちが申し訳なくなりそうなので、そう助言しながら抹茶オレを渡してやる。
「ほらよ。ん?何でそんなに赤くなってるんだよ」
「へ!?いや、ここ少し暑いからですよ…。ありがとうございます!」
雨宮はすぐに抹茶オレを受け取り、蓋を開けゴクリと一口飲む。
「はぁ、すごい美味しいですよ、これ!」
「そうなのか?どれ、飲ませてみろ」
「ちょっ!?え!?それ、かんせつき……」
パッと雨宮の手の中の抹茶オレを奪い取り、ゴクゴクと半分ほど飲み干す。
これがオレの考えた作戦だ。奢られてたくさん飲めると思ったのに、半分も飲まれてしまうのだ。これはショックを受けるに違いない。
「うん、うまいなこれ」
軽くなった抹茶オレを雨宮に返してやる。
「じゃあな。有り難く奢りの抹茶オレを味わうことだな」
そう言い残して、雨宮を置いて俺は教室へ戻った。
取り残された雨宮が俺の後ろで顔を真っ赤に染めながら、抹茶オレを飲む姿に気づくことはなかった。