被害9(頭撫で)
「お客様、髪型お似合いですよ!」
私は美容院に来ています。切り終わった髪型を見て店員さんが私にそう言いました。
なぜここに来たのかというと、まず先輩は私を女の子として全く意識していないことに気付きました。
普通の人なら抱き寄せる時とかに多少なりとも抵抗があるはずです。ですが先輩には全くないのです。
さすがの私でもあれは傷つきます。少しでも女の子として見てほしいです…。
そこで私は髪型を変えてみることにしました。パーマは初めてでかなり緊張しました。
先輩は気づいてくれるでしょうか。少しは可愛いと思ってほしいです…。
似合っていないと言われたらどうしましょう。それはショックすぎます。
可愛いって言ってくれるでしょうか…。
考えれば考えるほどどんどん不安が募っていきます。
でも、もしかしたら少しは可愛いと思って私のことを意識してくれるかもしれません。
私は不安と期待に胸を膨らませ、髪を撫でながら先輩と会う時のことに想いを馳せました。
次の日、いつものように先輩の元へ向かいます。
先輩はうつらうつらと首を振り、眠そうにしているところでした。
珍しく本当に眠そうにしているので、放っておいてあげようと一瞬思いましたが、どうしても変えた髪型に気づいて欲しい私は先輩に呼びかけました。
普段なら絶対しない行動ですが、髪型を変えたことにとても浮かれていたので、声をかけてしまいました。
「ちょっと、先輩!なに勝手に寝ようとしてるんですか?こんなに可愛い私が会いに来たんですからお話しましょうよ〜」
なんとか反応してほしくて何度も呼びかけます。
「ちょっと、先輩〜!!」
気付かなくてもいいからせめて見て欲しくて、私はしつこく声をかけてしまいました。
本当に先輩、ごめんなさい。でも、どうしても見て欲しくて我慢できませんでした。
先輩が怒るのは分かっていましたがどうしても少しは女の子として意識して欲しかったのです…。
「おい、雨宮!俺は寝たいんだ…よ…?」
私のしつこい声掛けに先輩はとうとう顔を起こして文句を言いだしました。
しかし、すぐに固まり首を傾げます。
一体どうしたのでしょう。気づいてくれたのでしょうか?
「せ、先輩?は!?もしや、この完璧なスタイルの良さに見惚れてしまいましたか?先輩も男ですね〜?」
見られている気恥ずかしさを誤魔化すため、いつものからかいを混じえます。
「……」
「せ、先輩?」
いつもなら何かしらの反応があるのに何も返してきてくれません。
ひたすらに私の方を見てきます。そこまで見られるとだんだん不安になってきました。
本当に似合っているでしょうか?似合ってないと内心で思っているんではないでしょうか。
もしそんなことを思われていたら最悪です。
ああ、やっぱりいつものままにしておけば良かったです…。
「……」
「み、見過ぎじゃないですか?さ、さすがにそんなに見られると恥ずかしいです…。」
問いかけてもなお無言でこちらを見てきます。
あまりに見てくるので恥ずかしさが私の中でだんだんと大きくなっていきます。
先輩見つめすぎじゃないですか?そんなに私変でしょうか…。
先輩のその鋭い目で見られるのはいいんですが、やはりじっくり見られるのは恥ずかしいです…。
だんだん身体に熱がこもり始め、顔も熱くなってきます。
耐えきれず、先輩から顔を逸らしてしまいました。
「そうか!髪か!あ、悪い、全然話を聞いていなかった。ん?どうかしたか?」
「も、もう!!なんなんですか!?そんなにじっとこっちを見てきて!?そりゃあ、先輩になら見られて悪い気分にはなりませんけど…。それでも限度ってものが…」
我慢の限界を超え、思わず早口でまくし立ててしまいました。
「じっと見続けたことについては謝る。雨宮の姿を見たときにどうしても違和感を感じてな。その違和感がなんなのか探していたんだ」
「違和感?ですか?」
それってもしかして…。
「ああ、雨宮、髪にパーマかけただろ?」
「…っ!?そうなんですよ!よく気がつきましたね!さすが私のことを毎日観察してるだけのことはありますね!」
き、気付いてもらえました!やった!まさか先輩が気づいてくれるなんて!
もう、ものすごい嬉しいです!
「そこまで毎回じっくりお前のこと見たことねえよ。」
「え〜?本当ですか〜?」
気付いてもらえたのが嬉しくて、自分がだる絡みしてるのは分かっていますが抑えられません。
先輩に気付いてもらえるなんて嬉しすぎます!
ああ、我慢していないとにやけてしまいそうです…。
「それにしても、ほんとに似合ってるな。いつも以上に雨宮の魅力が出てる。」
「へ!?え!?そ、そうでしょう。そうでしょう。美少女の私が似合わないわけがありません!」
今似合ってるって言いました!?言いましたよね!?驚きのあまり変な言い方になってしまいました。
あまり期待しないでいたのにまさか先輩にそんなこと言われるなんて!本当に夢みたいです!
似合うって言われるのがこんなに嬉しいなんて思いもしませんでした。不安でしたが髪型を変えて良かったです!
もうキュンキュンしすぎて死んでしまいそうです…。
「ああ、やっぱり髪がサラサラだからより魅力的に映るんだろうな。触るぞ?」
「ちょ、ちょっと!?先輩!?」
い、今なんて言いました!?触るって言いましたよね?
驚く間も無く先輩の手が私の頭の上に置かれます。
じんわりと先輩の手の体温が頭に伝わってきます。
こ、これ、私はどうしたらいいのでしょうか…。
あまりにも想定外のことに身体が固まってしまい、どう動いたらいいかわかりません。
ただただ先輩が頭を撫でまわすのを感じているだけです。
先輩に触れられているだけでドキドキし始め、どんどん顔が熱くなっていきます。
ま、まだ終わらないのでしょうか?
こそばゆいような気持ち良さにどんどん心臓がうるさくなっていきます。
「せ、先輩?まだ続けるんですか?これ以上は…」
キュンキュンしすぎて苦しくてもう無理です…!
「ダメだ。まだ俺が満足していない。」
強い口調で言うのはずるいです!
そんな口調で言われれば、承諾するしかありません…。
それに気持ちよかったので、もう少し撫でて欲しいです。
「も、もう!仕方ない人ですね〜。先輩がそう言うなら撫でられてあげます」
先輩に髪型変えたの気付いてもらえたうえに、まさか頭を撫でられるなんて思いもしませんでした。
凄い幸せです。
それに先輩の撫でる手は優しいし、とても気持ちいいです…。
徐々に緊張が解け、先輩の撫でる手を感じる余裕が出てきた私は、にやけながらその手の感触を頭の上で確かめているのでした。