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畑と魔法

 ゆっくりと時間をかけて家中を見て回った。驚いたことに、地下室や食料庫、なんとお風呂まであった。

 ソニキアの話によれば、やはり一般家庭にお風呂は無いらしい。それでは何故この家にはあるのかと言えば、カルダナ様が無類のお風呂好きーなんだそうだ。

 毎日が無理でも二日に一回、いや、三日に一回でもいいから家でゆっくりお風呂に入りたい。その欲求を満たすために研鑽を重ね、とうとう空気中から水分を吸収して使える水道施設を完成させ、どこぞのマグマと空間を繋いで火力を調節できるようにした、ボイラーもどきを作り上げてしまったらしい。

 恐るべきお風呂への情熱。

 でもそのおかげで毎日のようにお風呂に入ることが可能なんだって、ありがたやカルダナ様。


「そうだソニキア、ご飯ってどうすれば良いのかな?この森の中じゃ、ちょっと買い物になんてことは無理でしょ?」


 日本にいた頃なら、余程の田舎でも無い限り徒歩圏内にコンビニがあった。ちょっと頑張ってあるけば、スーパーもあったけど、この世界の商店状況がわからないから、買い物をどうしたら良いのかわからない。

 そもそも、お金が無いんだけどどうやって稼げばいいんだろう?


「ああそうだったわね。ええとさっきの食料庫に、保存食があったと思うんだけど」


 そう言いながらトコトコと歩いて行くソニキアを追いかける。

 なんだか、追いかけてばっかりいるような気がするけど、そもそも右も左も分からないんだから仕方ないか。そう自分に言い聞かせて、食料庫のドアを開けた。


「ここにあるものは基本、保存の魔法がかけられているものだから、どれでも食べられるけど。今日は疲れただろうからお料理は大変だろうし、ハムとチーズにお野菜を挟んでサンドイッチにでもしましょうか」


 言われるがままに棚を見れば、油紙に包まれた黄色のチーズに、たった今出来上がりましたと言わんばかりにジューシーなハムが見つかった。

 凄いな保存魔法。神様が生活魔法とやらを使えるようにしてくれたみたいだから、私にも使えると良いんだけど。

 冷蔵庫の無い世界で食料を腐らせずに長期保存するのは大変だろうし、そのノウハウを知らない私には、魔法というファンタジーにすがるしか無い。


 見つけた食材とちょっと硬めのパンを持ってキッチンへ行くと、ソニキアが裏庭に野菜を取りに行こうと言い出した。


「畑があるの?」

「うーん…あれを畑と呼ぶのにはもの凄い抵抗があるんだけれど、食べられるお野菜が植えてあることは確かよ」


 なんとも不安になるような歯切れの悪言葉にドキドキしながら裏庭に続くドアを開けると、前庭とはまるで様相の違う庭が広がっていた。

 まず、畑は無かった。

 畑はないけれど、お野菜は確かにあった。

 レタスの隣にニンジンがあって、その隣にまたレタスがある。えんどう豆の隣にヒマワリのような花が咲いていたかと思えば、明らかにハーブと思わしき一群が、ワサッと植えてあった。

 つまり、適当に色んな所に野菜だったり、花だったり、ハーブだったりが無秩序に植えられていた。


「えー…と…」

「ごめんなさい、カルダナ様ってこういうところがとっても適当な人で。レタスンを収穫したら、その隙間を埋めるためにキャロロットでいいから植えておけ。ってな感じの人なのよ」

「これだけゴチャゴチャに植えてあるのに、どれもちゃんと育ってるのが凄いんだけど。カルダナ様って緑の手の持ち主だったりします?」


 農業の経験が無くたって、これだけ適当に野菜を植えて全部きちんと育つのが普通じゃないくらい、考える必要もないくらいわかりきってる。

 それなのにこの畑とも呼べない畑には、とりどりの野菜がどれもスクスクと美味しそうに育っていた。これはもう奇跡か魔法かどっちかだと思う。


「ふふ、そう思いたくなる気持ちは良く分かるわ。でも、これは完全にカルダナ様の魔法よ。彼の方(あのかた)、興味のある事柄以外にはもの凄く面倒くさがりなの。美味しいものを食べたいし、新鮮な方が良い、それなら家の裏で収穫ができれば簡単で良い。そういう考えで、ここには育成に関する魔法がありえない精度で多重掛けされているの」

「へ…へぇ…」


 お風呂の件と言い、カルダナ様って自分の欲求にはもの凄く正直な人なんだなと、認識を新たにする。

 後から聞いた話によれば、魔法を何重にも重ねてかけるのって難しいらしい。それなのに、この畑には「成長促進」「病気耐性」「収穫量増加」「繁殖力増加」等の魔法がかけられていて、植えた種が一週間から十日程度で収穫まで育つらしい。もちろん収穫量も通常の3割り増しで増え、味も大きさも段違いなんだそうである。


「あまり難しく考えないで、これから椿が魔法を覚えていけば、ここにかけられている魔法の仕組みも分かるようになるし、貴女が良いと思うように掛け直すこともできるわ」

「うん、でも、なんだかこの感じ、嫌いじゃないかも」


 適当なんだろうけど、このごちゃごちゃの畑が私はなんだか気に入ってしまった。魔法が使えるようになって、ここを普通の畑にするのを考えると、ちょっと残念な気もする。でもまぁ、私がそれだけの魔法を使えるようになるのはまだまだ先だろうし、それまではこのおもちゃ箱のような畑を楽しもう。

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